銀盤にて逢いましょう


□イニシアティヴ ゲヱム
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     ◇◇◇


  そういう人物という先入観が強いが
  何も 365日の四六時中悪だくみばかりしている太宰ではない。(当たり前)


芥川が朴念仁なのは相変わらずだが、それでも。
ふと飛ばした目線だけで “来い来い来い…”なんて
敦ちゃんのこと間近まで呼んじゃえるようになったのは大進歩。
名を呼ぶのはちょっと照れ臭いから目線で呼ぶのだし、
睨まれてもない、呼ばれてると察して それが嬉しくてだろう
含羞みつつ ぱたたたッと小走りに寄ってくところの何とも初々しい可愛らしさが、
色々と懐深くて察しもいいスタッフたちにはあっさり見抜かれてのこと
微笑ましいねぇと一服の清涼剤扱いになってもいるらしく。

 『関白ぶってなんかいませんて。』
 『そうそう。』

と、当人たちは言っているが、

 『ずぼらなだけですよ。』
 『え〜? 甘えさせてくれてるだけでしょう?』
 『それは、……うん。//////』

敦嬢の天然っぷりも結構な威力なようであり。
どっちが上位というわけでもないところもまた微笑ましいと、
太宰辺りは苦笑が爆笑になりかかるのを押し殺すのが大変ならしく。
今もそんなほのぼのしていた彼らを思い出してか、
資料を眺めていたはずが、ついのことくすすと頬笑んでおれば、

 「何だ、また悪だくみかよ。」

不意を衝くように思いがけない声がかかる。
こちらは二階にある蔵書室の手前、
敦ちゃんの実家から持ち込まれた山ほどの本が収められている部屋の
すぐ手前のグルニエ風の空間で、
一応ソファーに腰かけてはいたものの、
膝に開いた本を読むでなく、
何やら視線を宙に留め、ぼんやりしていたのだから勘繰られても仕方がない
…と、太宰本人も思っておれば世話はなく。
それでも一応は、

 「やだなぁ、せっかくのオフなんだし ぼんやりすることもあるさ。」

といいつつ、何の本だったかも思い出せないほどの放置状態だった上製本を再び見下ろす。
中島さんちの令嬢はちょっとおっとりしたひまわり娘だが、
運動神経ばかりが発達しているだけじゃあなく、なかなかの秀才でもあって。
多彩なジャンルにわたる蔵書を持っていて、何とびっくり政治学やら哲学書もあったりし。
半分ほどは太宰や乱歩からの感化もあるのだが、
そんなおかげさま、彼らのレベルに耐えうる本も揃ってはいる。
なので、どこの包装紙かピンクの花柄のお手製カバーが付いていても、
難しい本である可能性はなくはなく、
取り繕うように表情を改めた相手だったことへも
女丈夫さんはさして疑りを挟みはしなかったようではあり。
やや斜めに眇めた視線はそのまま、

 「ほうほう、そりゃあお邪魔したな。」

せいぜいの厭味を込めた口調での応酬を返して来ただけだった。
太宰は元から流行を追う性分ではなく、
せいぜい自身の長身が悪目立ちせぬよう、
さりとて地味に作っても厭味なだけなのでと 多少は洒落心もあるよないでたちで通しているが。
転生した元五大幹部殿、
あのトレードマークだった黒帽子や革手套こそないものの、
お洒落なところは変わらぬようで。
とくにめかす必要はないとの平服らしいが、
足首まであろう丈のゆる生地のビッグパンツに
オーバーブラウス風の刺繍が散らばる更紗のブラウスと
内着のサテン地のTシャツの組み合わせはなかなかにフェミニンだ。
かつてはマフィア流のかっちりした格好が多かった反動か、
今生では ゆるくしゃファッションがお好きならしく。
鮮やかな赤毛のクルクルとしたくせっ毛なところや、小柄で一見 華奢な肢体と相まって、
はっきりとした目鼻立ちの華やかな美貌でも そういう柔らかな装いがようようお似合い。
先だっての騒動以降、微妙な告白もあったがため、
それでなくとも さりげなく向けていた意識や注視、
隠さずともよくなったと解釈をしてのこと、
視野へ入ればついつい視線をやるようになっておれば。

 『……視線が五月蠅ぇ。』
 『そんな言い方しなくても。』

敦ちゃんのよに含羞むなんてとんでもないない、
相変わらず素っ気ない言いようを向けてくる勇ましい武闘の嬢だったが、

 「……。」

やや間合いを置いた恰好の位置からこちらを見やってた中也、
ふと、切れのいい脚運びでソファーの前までやって来るものだから、

 “…?”

何だ何だ、何か怒らせるようなこと、したか言うかしたっけかと、
そうと思って仄かに警戒してしまう辺り、
これでも一応は愛しい人相手でもそういう思考になるところが困った御仁。
心あたりを探そうと思う反射の方向性をこそ何とかすればいいものだが、(笑)
とりあえずはと防御の札を探しつつ、
間近までへと歩み寄って来た ハマの美人特攻隊長様を見やっておれば、

 「…。」
 「えっとぉ?」

やはり無言のまま、ややその身を傾けて、
やおらこちらを覗き込んでくるところがいつになく大胆であり。
相変わらずに睫毛の長い美人さんだねぇ、でもでも、
何だ何だ、そうまで怒らす何を見つけたのだい?
私の態度って、そんな不遜だったのかい?と。
弁解満載な内心を抱え、
それでもでも表面上はキョトンとしているだけな風を装っておれば。

 「…。」

あまり表情は動かぬまま、
それこそこっちを家具か何かでも見やるかのように覗き込んでいたそのまま、
そりゃあ無造作に本を取り上げ、サイドテーブルの上へと置いて。

 「え?」

相変わらず 乱暴でがさつだが、この手の傍若無人は太宰が相手でも滅多にやらぬ。
憎まれを言いはしてもそこまでで、
彼女の物差しでの非力な相手へ 手を上げるのは卑怯となってのことかもしれぬが
……だとしたらしたで、ちょっとばかり とほほだねぇと思いつつ。
やはりやはり無言なままなのへ???と感じつつも したいようにさせておれば、
所在なさげなまま膝へ下ろしていた手を取って、
窓に掛けられたカーテンでも開くような所作にて、
向かい合う懐を容赦なく左右に割っての開かせる。

 “え?え?え?”

と、怪訝な感触が危機感へ転じる間もあらばこそ、
あっという間に膝から乗り上がっての とさんと腿の上へまたがってしまい。
かつてよりもやや増した身長差のせいでか、
その身が余裕ですっぽり収まる広々とした懐へ、
ぽそんと凭れてくるところまで一秒あったかどうかの流れ。
そのまま襟元掴まれて、自身の身ごと後背へそっくり返っていたならば、

  巴投げ一本っ、と

豪快な技が決まっていたやもしれずな鮮やかさであり。

 “え?え? え〜?”

うわ、ちょっと待ってよ、私ったら油断のしすぎかな。
でもこの子へ警戒してどうすんの、それこそおかしいじゃない。
それにこの体勢って、あのあのあのさ。/////////
何とか左脳をフル稼働させて状況へのお品書きを紡ごうとしておれば、
懐の柔らかい温みがごそりと動いて、
まろい頬は鎖骨の下辺りへ当てたまま、こちらを見上げてきたじゃあござんせんか。

 「甘えてもいいんだなって思ってな。」
 「あ。…そうなんだ。」

 何だよ赤いぞ、手前 相変わらず なまっちろいから判りやすいなぁ。
 う、うるさいなぁ。
 可愛げが出たのは助かるがな。
 ……うん、ありがとぉ。//////////

仔猫が寝る姿勢を探るよな、
そんな身じろぎをごそごそと少しほどしてから、
何とか収まりのいい体勢となれたものか、
頬を寄せて来たそのまま 何とも軽い身をすっかりと凭れさせて来たので。

 「……。」

しばらくは そんな感触を堪能していたらしい、包帯の策士殿。
ふと、大きくて頼もしい手を、それには見合わぬ臆病そうな様子で
恐る恐る懐の君の髪へと寄せてゆき。
小さな身じろぎを拒絶と思うたか、一瞬ほどひくりと総身ごと凍ったが、
懐の中也がくつくつ楽しそうに微笑ったその上、
何か小声で囁いたらしく。
それへと苦笑をしもってのあらためて、やわらかな赤毛を撫で始め、
甘い空間、紡ぎ始めたようでございます。




     〜 Fine 〜    19.05.17.







 *タイトルの和訳は“主導権”。でもちょっと斜め横になっちゃったかな?
  結婚前の 新旧双黒それぞれの様子です。
  GW終わったばかりでもう夏休みのような内容ってのも何なので暦を少々遡ってみました。
  北海道や北の方って天候荒れてなかった?とかいう話は置いといてくださいませ。(こらこら)
  
  とりあえず、横浜組が優勢ですvv (笑)



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