銀盤にて逢いましょう


□コーカサス・レースが始まった? 17
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     17



世にいう“前世”とやらの記憶があって、
しかもその同じ世界線で顔を突き合わせる間柄だった面子が、
現在の間近な距離に、似たような間柄にて ほんの多数ほど転生してもおり。
当時、何ともつれなく薄情で酷な別離をした顔が居たのへ、
真っ向から怒り、詫びたかったのだとやはり真っ向から謝った者もあれば、
お前なんか知らぬと拗ね倒したものの、
やはりつれなく構えていたのが貫徹できなくなった片やへ負けて、
泣くなよ―困った奴だなーと、
男らしく…というか甘え返して宥め、何とか丸く収まった二人もあり。
大事を取っての入院となった、
日頃は楽しようと怠けまくる極楽トンボなくせして
ここ一番では身を呈すような無茶をする背高のっぽの伊達男さんが、
そんなややこしい性分で隠していた素のお顔、
本当はあのね?守りたいとか甘えたいとか思ってた
そんな愛しいお人から 逃げられなくなっての捕まってしまった格好なのが、
ちょっとは癪だが、実のところは嬉しかったか、
懐ろへ掻い込んだ中也嬢の 小さくなった肩や背を撫でつつ、キリがないほど抱きしめ続けて。

 「…もういいだろうよ。」
 「やぁだ。」

誰にもこんな風には甘えない、そんなことしたいとも思わない。
ギリギリいつでも突き放せるという
計算ずくな心胆持っての“演技”でなければ出来なかった、しなかったこと。
でも本当は、気になってしょうがないほど好きで好きでたまらなくて、
そんな甘えたな気持ちを…本音を晒していいのだと、
当人から暴かれちゃったし自分でも認めちゃったからにはと、
これまでの分を埋めたいか、ぎゅうぎゅうと抱きしめられているのが、

 「〜〜〜〜。//////////」

こちらはさすがに恥ずかしくなったらしい中也が
逃れようとしての抗議のお声を上げたれど、
囲い込んでる腕はちいとも緩まなくって。
さすがに成年男性のそれで、
頼もしくも雄々しい胸元やら長い腕での拘束は
今の自分には無いものな上、
こういう形での触れ合いには縁が薄かったの今になって気がついたか、

 “落ち着かねぇだろが、ばかやろー。///////”

まさか此奴、これも嫌がらせってんじゃなかろうな、
結構雰囲気のあった告白さえも疑ぐらせてんじゃねぇよと、
頼もしくも居心地の良い腕の中にて 真っ赤になりつつ含羞みを絞り出す。
相変わらず困った奴だよな、
ああそうだった。こいつ、我儘大王だもんなと そっちも改めて思い出しておれば、

「だってこんな風に甘えるなんて、
 当時なかなか出来なかったからついつい手が延びちゃうんだ、しょうがない。」

 はぁあ?
 だってキミったらそれは馬鹿力持ちの大猩々だったでしょ?

異能力を消しちゃあまずいという意味からは勿論のこと、

 「ベタベタすんなと振り払われるに決まってる。
  男と抱き合う趣味はないって公言してた身だったし、
  それに突き飛ばされたりしたら多少は傷ついちゃったろうからね。」

ややこしい奴だな。
察してくれたまえよ、当時のキミに言って通じるとは到底思えなかったからね。

そんなごちゃごちゃを相変わらず言い合う間柄ではあったれど。
毎日のようにお見舞いに通った中也さん。
太宰さんの退院の日は
恋人をバイクのバックシートに乗せて、
それは意気揚々、地元 横浜まで戻ったとか。


  其れから…



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