銀盤にて逢いましょう


□コーカサス・レースが始まった? 9
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ちょっとと言いつつ距離的には結構な遠出をしたらしい、
両陣営それぞれのチーフ格の美男美女お二人は、
ここいらには支店さえない、結構トレンドな洋菓子店の
人気のプチケーキや焼き菓子をたんと詰めた紙袋をそれぞれ両手に提げ、
お茶の時間に間に合う頃合いに帰って来た。
それなり瀟洒な構えの玄関からロビーへと進み入り、
お出迎えにと出て来た顔ぶれへ“お留守番ご苦労さん”と皆へ配るよう土産を渡したところ、
甘えたれな白虎の姫が駆け寄って来たのへ、

 「お、感心だな。練習してたか。」

トレーニング用のいでたちだったのちゃんと見極め、
にっこり笑ってやりつつ中也が ぱふりと懐へ受け止めてやる。
外套を脱ぎつつ、そんな二人を眺めていた太宰へは、
鏡花を引き連れた芥川がそそっと歩み寄り、

 「お疲れのところに恐縮ですが…。」

自身を律する武道をたしなむ余波か、それともかつての間柄のこれもまた名残りというものか、
敦と同じほど最近知り合ったばかりのはずだというに、
太宰には特に丁寧な態度で接す芥川がそんな風に声を掛ける。
年齢に似合わぬ 相変わらず堅苦しい態度なのへ、困ったねぇとのくすぐったい感慨もて、

 「何だい?」

目許をたわめ、やわらかな笑顔で促せば。
ほんの微かに言い淀むよな気配を挟んでから、
それでも えいと口にしたのが、

 「明日、半日でいいので外出する許可を頂けないでしょうか。」
 「私と敦も一緒に。」

此処での彼の行動への責任者は中也の方だが…と返答されるのを察したか、
すかさずという間合いで鏡花が援護射撃のように付け足して、

 「言い出したのは私。」
 「それに、お出かけしたいって乗ったのはボクです。」

中也に抱き着いたまま、肩越しにそうと付け足したのは、
彼女の方こそ太宰の庇護下にあるスズランの姫だ。
要は3人でお出掛けしたいのですがという打診らしく、

 「街中まで出ようってのかい?」

この建物周縁やご近所の公園までなんていうお散歩にいちいち許可は取るまい。
今日の彼らほどではないだろうが、
それでも一応 保護者に許可が要るだろなと思ったほどの遠出であるらしく。

 「ウインクの陶板とか、いろいろ話のネタにと。」
 「ああ、あれねぇ。」

他愛ない“名物”を、だのに“見せたいんです”と敦がわざわざ付け足したものへ。
太宰もようよう知っていればこそで、ついのこととて“ぷぷー”と吹き出せば、

 「???」

中也や樋口が、芥川がそうだったよに怪訝そうな顔で小首を傾げる。
長身の美丈夫様が笑ったのは、
陶板のコミカルな図を思い浮かべてというよりも、
あんなものではしゃぐなんて可愛いねぇと思ったからであるのだが、

 「ああ、構わないよ。
  エキシビジョンはクリスマスの後らしいから、
  まだまだ それほど根を詰めることでもないし。」

第一、彼らに出てほしいという打診は実のところ まだ来てはない。
ただ、自惚れて言うのじゃあないが、
今季に限っては特に、この二人が出てこそのショーでもあるのは明らかなので、
コンディション調整は怠ってないし、
云われずともリンクに上がるほど、すべること自体もお気に入りという彼らであり。

 「のんびり息抜きしておいで。」

たかが半日のお出掛けくらいじゃあ、コンセントレイションも鋭気も揺るがぬだろさと、
余裕綽々なお顔を見せて、
十代組の子らに安堵の笑顔を授けたのであった。



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