短編

□よくある異能につき
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胡散臭い輩が出入りする自社ビルから、そ奴らを追い出してほしいという、
何だか どこかで聞いたような依頼を受け、

「う〜ん、ごくごく普通の下町のテナントビルみたいだね。」

ただ放り出せば片が付く話じゃあなし、
まずは敵情視察にと太宰と敦というコンビで様子見に出向いた先は、
エアコンの室外機を隠すように植木鉢を並べた棚が戸口脇に置かれているような
一般の家屋も数軒ほど並んでいる、
ごくごく普通の生活道路に面したところ…ではあったのだが。
到着したのはまだ明るいうちだというに いやに物々しい空気が立っているのに気がついた。
車一台が通るのがやっとだろう中通りに面した小ぶりのビルの入り口には、
黒服にサングラスという いかにも恐持てな男が二人ほど見張りのように立っていて。
それが妙な威圧を振りまいているからか、他には周辺に人影はなく。
向かいの店屋や住居からこそり覗き見ていた気配があったが、こちらが見回すと慌てて引っ込んでしまう。
関わり合いになりたくないという意思表示の現れも濃い中、
がちゃんバタバタと、険しい物音やら怒声が入り乱れて聞こえだし、
正面の出入り口が見えるところでやや距離を置く格好、立ち止まって窺っておれば、
黒服の面々が、荒事の気配がした割には整然と出てくるのが見える。
安っぽいアロハや伸びかかったTシャツという半端な格好の男らを引っ立ててゆく彼らなのへ、

「おやまあ、よほどに札付きな連中だったみたいだね。」

太宰が肩をすくめたのは、自分たちが依頼された問題の人物らを、
他でもないポートマフィアのお歴々が襟首掴んで身柄拘束していたところであったかららしく。
それと敦へ告げてやり、こういう場合は そのまま報告してお終いだそうで。
もしかして何かしら後腐れが気になるようならば、事後の対処はまた別になるのだそうな。
そういった対応仕様などなどを聞きつつ、
5,6人ほどをいかにもな力づくで連れ出し、
向こう側の通りに停めているのだろう移送車へ向かう、物騒な面々を見送っておれば。
最後に出て来た、特別仕様の黒スーツの人物らと目が合って、

 「あ。」 「おや。」 「お。」 「…。」

微妙な声を発してその場に立ち尽くし合う。
こんな埃の立たぬ対処へもこの顔触れが出てくるものなのか、
鉢合わせたのは何と、
五大幹部・中原中也と、遊撃隊を率いる芥川龍之介という、
バリバリの武闘派だろう二人であり。
音に聞こえた辣腕だからという以上に、
慣れ親しんだ (一部完全否定しそうだが) 顔見知りでもあってのこと。
視線が留まった相手への無関心を決めたり、
そのまま なかったことには出来なかった双方で。

「あーあー、こんなに荒らして。ここの持ち主さんへのお詫びはあるのかな?」
「ああ? そんなちっちぇことまで俺らが知るかよ。」
「おや、ちっちゃいことなら何でも知ってるかと思った。」
「ああ"?#」

大幹部が元幹部と相変わらずの口喧嘩になりかかっているかと思えば、

「えっとぉ…。」
「すぐに退く。弁済云々は聞いてはおらぬが、」

何なら事務方へ問い合わせておくが?などと、
やはり相手側の連れと ぼそぼそと会話が続く、うら若き隊長殿だったりもして。
もしかしての武装探偵社の顔ぶれみたいだけれど、
幹部だからこそ顔も広くて、
敵対組織の相手とも会話が成り立つってものなんだろうなぁ…なんて。
いいように解釈することにし、見ないふりをしつつ撤収を続ける配下たちの間から、
不意を衝くよに たたたッと飛び出してきた影があったのは、
双方ともになかなかのイケメンな現幹部と元幹部の二人が、
キミは手前は 小さいころからああだったこうだったと、
大人げなくも子供時代の話まで掘っくり返し始めていたところで。

「あなた、お幾つ?」

ある程度までは喧々諤々やり合わねば収まらぬらしい、
それぞれの連れの噛みつき合いを、いい子で待っていた年若な相棒さんたちの片や。
探偵社の虎の子、中島敦くんへ、いやに気さくな声を掛けたのは、
初夏向けの花柄のブラウスにデニム地のフレアスカートといういでたちの、
見たところ自分と変わらないくらいの年頃の少女だったので、

「え? 18ですが。」

さらりと応じた途端、
会話に気付いた中原や芥川といったマフィア側の面々が何故か大仰にハッとし。
そんな空気にも一向にお構いなしで、

「あら丁度いい。」

ふふーと笑った少女は、そのままぺたりと敦の二の腕へ触れて来た。
その途端、シャツ越しの温みの広がりとともに、視界に虹のような光が舞い飛び、

「え?」

そのまま立っていられなくなるほどの眩暈が起きて。
膝から力が抜け、すとんと地べたへ座り込む。

「こよみ〜っ#」
「うわ〜、あの子まだ居たんだ。外に出てくるなんて珍しい。」
「人虎…っ。」

任務自体は終了しているからか、中也が伸ばした手を逃げるように躱し、
目標だった連中を移送する車へ紛れ込むよに駆けこんだ彼女は、
何故だか随分と艶っぽい女性へ変化していて、

「うふふ、厳密にいやぁ堅気な子じゃないから構わないでしょう?」
「馬鹿たれ、未成年にやらかすのは禁じ手だと…待たんかっ!」
「そういや、そうと決まったのって芥川くんが “半分”にされたからだったよねぇ。」
「……。」

何の話だろうか、事情を知る者らならではで いろいろと省略されている。
頭の上で交わされている会話の輪郭が何とか理解出来るまでに
意識がはっきりしだした敦がゆっくりと目を開ければ。
顔にかかっているのはフワフワした生地の、
ああこれは芥川の襟から下がっているシフォンの飾りタイか。
倒れ込んだらしい身を素早く受け止めててくれたらしくって、
でも…こんなに大きかったっけ?
顔中にかぶさってるんだけどと その陰から見上げれば、
意識が戻ったことへ気がついた知己の面々がこちらを…どこか微妙な顔で一斉に見やる。

「…何で皆さん、そんな顔して。」

揃ってこちらを案じるような顔になっているのへ、
どうしてと問いかけた、自分の声が妙に高い。
それに、自分と変わらないくらい痩躯なはずの芥川の懐ろが随分と広い。
余裕で横抱き状態にされていて、
同じくらいの背丈なのだから、肩口から頭がはみ出すはずが、
背中が凭れている二の腕で十分収まっていて。

 立ち上がってないからかな?
 ああ、でも、何てのか、
 大丈夫かと頬や髪を撫でてくれる
 皆さんの手とかも大きくなってないか?

「一体何が…」

起きているのかと問いかけようとして、ひょいと立ち上がられ、
おっととと真っ黒な外套を掴み締める。ありゃやっぱりなんか変だ。
相手のお顔、どうしてこうまで見上げなきゃならない位置関係になってるの?
何でだ何でと、太宰や中也を見回しかけて、
道の向かい側にあった、理髪店のウィンドウに映っていたものにギョッとする。

 「え…?」

お兄さんに抱っこされた小学生という構図で、
いやに袖が余り倒したシャツを着た子供がびっくりしたようにこちらを向いており。
斜めになった前髪や一房だけ長いままのサイドの髪の白に近い銀色なところは、自分と同じ…

「な、何なんですか、これ?
 もしかしてボク、子供になってませんか?
 起きてますよね、夢の中じゃないですよね?」

何が何だか慌てる様子まで同じなのだ、
やはり写り込んでいる子供はこの自分であるらしく。
ますますと混乱し、説明を乞うとばかり、
皆さんの顔をせわしく見回しておれば、

「落ち着け、人虎。」
「落ち着いてられないだろう、こんなっ。」

恐慌状態になりかかるのをどう思ったか、

「……。」

よしよしとあやすように揺すられてしまい、
ますますのこと うう〜〜ッと唸ってしまった小虎、
じゃあない、敦くんだったが、

「落ち着いて聞いて、敦くん。」

特に害がないことなのか、
太宰も 案じつつも…どこか吹き出しそうな顔になっていて、

「さっき触ってきた子が居たろう。
 あれは触れた相手の年齢を奪うことが出来る異能者でね。」
「……え?」

しかも性分が悪いことには、
私の異能封じも あの子に触れないと効かないんだな、これがと続き。
伸ばされた手で頭を撫でられても、

「あ…。」
「ほらね?」

成程 敦の身には何も起こらず、元に戻る気配はない。
傍らに立つ中也が、面倒なことになったと切れ長の双眸を眇め、
しょっぱそうに顔をしかめているということは、
彼らにはようよう知れていた現象であるらしく。

「そんな異能のせいか、歳食わねえんだよな。幾つなんだあいつ。」
「女性にそれを聞いちゃあいけない。」

そんな脱線気味のお言いようが飛び出すあたり、
大きく深刻な問題はない代物らしく。
そういえば

『うふふ、厳密にいやぁ堅気な子じゃないから構わないでしょう?』
『馬鹿たれ、未成年にやらかすのは禁じ手だと…待たんかっ!』
『そういや、そうと決まったのって芥川くんが“半分”にされたからだったよねぇ。』
『……。』

そんなやり取りが聞こえていたが、と。
自分を抱える腕の持ち主を見上げれば、

「…。」
「…。」

思い出したくないことなのか (笑)
ちょっと頑な、重たげに閉ざされていた口許だったものの、
幼い双眸の物問いたげな視線には勝てぬか、

「…ああ、それ以外の異状は起きぬから案ずるな。」
「おお、経験者。」

茶化すような合いの手が入って、
いやぁ、それはそれは可愛かったものねぇとうっとり思い出す人がおれば、
それと判る態度を取ってなかっただろうが手前はよ、さんざん鼻で馬鹿にし倒しやがってと、
当時をお怒りと共に思い出しておいでな人もおり。

「幾つという調整は出来なくて相手の半分の歳をむしり取る。
 奪った年齢は自分の身へ吸収されるから、
 女性としてはさほど楽しい異能でもないらしくてね。」

 あと、同じ人に何度もは効かない。
 免疫でも出来るのか一人に一度だけだそうで。

「本来はずっとベテランな練達の、
 特殊な異能が要る時なんかに駆り出されていたと記憶しているのだが。」

そうと説明した太宰が、
中也と芥川というこの場の責任者だろうマフィア側の顔ぶれへ視線を投げたが、
彼らも彼女が加わっていたことへは気づいていなかったようで。
どういうことかと芥川が視線をやった先、
ちゃんと補佐として同行していて待機していました、
黒スーツが凛々しい樋口嬢が手元のバインダーをちらと見やって言うには、

「今回は異能に関係なく、一般人の来訪者を装う役どころで加わってたらしいです。」

のちに問い詰めたら、
いい年頃のお姉さんになってた時に知り合った男性とのデートの予定が入っていたとかで、
完全に私的な悪用だということで、
公私混同への厳しい処分が下ったそうだが、それはさておいて。

 「さて、それじゃあ社の方へ戻ろうか、敦くん。」
 「何言ってんだ。これじゃあ仕事になるまい。」
 「? だから?」

ばっと芥川の前に立ちふさがり、太宰の伸ばす手を払ったのは中原で。

 「ウチのがやらかした不始末だからな。元に戻るまで面倒みるってことよ。」
 「何を言い出すかな、害のない異能だろうが。効き目は丸一日だって話だし。」

それを聞いて、小さな敦くんが見るからにホッと胸を撫で下ろしておれば、
小さな手で掴まっている黒衣の持ち主が 慎ましい笑みを頬に滲ませる。

「…。」

無言のままながらも、良かったなと目許を和ませる芥川なのへ、
傍にいた金髪のお姉さんが頬を真っ赤にしており、

 「そそそそそうですよね。ウチでお預かりするのが筋というもの。」
 「???」

妙に積極的になって、先輩の背を押し、
もう発ってしまった移送車とは別に待たせてある車の方へ戻ろうとする。
しかもしかも、それへ逆らわず進みかかる漆黒の覇者殿であり、

「芥川くん?」

君までどうしたんだと慌て気味に声を張った太宰だったが、


「…太宰さん。もしかして与謝野女医に治療させるつもりでは。」
「いくらせんせいでも異能まで治せはしないよ。」

ああそれを恐れての庇い立てかと、
彼までもが自分たちの陣営へ預かりたがる理由に合点がいったものの、

「だから返したまえというに。」
「いい機会ですからお預かりしますって。」
「そうだ、樋口、そのまま車出せ。」

お互いに此処へ来た当初の目的はどこへやら、
小さくなってしまった虎の子くんを巡って、
微笑ましい争奪戦の幕が切って落とされたようである。





  〜Fine〜 17.06.07






 *…と、ここまで書いたはいいのですが、
  すでに結構な行数を稼いでいたので、拍手お礼には無理と断念し、
  クライマックス半ばのお話を差し置いてのUPです。(苦笑)
  よろしかったら誰か続き書いてくださいませんかvv (こら)
  

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