短編

□今日もお元気なボクたちは
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我々という“たかが地回り”の方が強かったでしょう?と、
やんわり笑う太宰の言いように、何かしら自尊心を傷つけられたか、

「くっ。」

しわの寄った老いた顔、ますますと歪めると、
白衣のポケットへ手を入れつつ管制盤の前から立ち上がる。

「この歳になって新しいことを学ばせてもらえてよかったよ。」

そうといいつつ取り出したのは何かの起爆スイッチらしく。
スティック状のそれの頭頂、1つしかないボタンを押すと、
床の一部がひび割れて、どんどんと解体が始まってゆくではないか。

「高電圧の這うフロアへ落とす気か。」

そうはいくかと、最初に分断したあたりの床へ勢いよく屈みこみ、
こちらも懐から取り出したマイクロボイスレコーダを思わせるスティック状の何か、
楔のように突き立てる太宰であり。
すると、火花が散って崩壊が中途で止まった。
指示信号が伝わる伝達を物理的に絶ったらしく、

『詳しい理屈は知らないよ。
 ただ、乱歩さんがこういう時に使えって。』

それでもどこへ突き立てればいいかの的確さは絶妙だったようで、
何処までも至れり尽くせりな周到さなのも、
実戦隊の武力や機転のみならず頼もしい頭脳集団がついてる証し。
ただ、

 「…え?」

その太宰が立つ部分のユニットがごそりと落ちたのは予想外。
というか、ここのフロアだけは見取り図も何も資料が手に入らずだったので、
実のところは何につけぶっつけ本番もいいところ。
ほぼはったりだけでいかにも優勢だと見せていただけの話で、
そこだけは寸断が間に合わなかったか、
わあと皆が咄嗟に手や異能を伸ばすも

「あ。」
「わあ、そうだった。」
「ちっ。」

芥川の伸ばした黒獣は触れた途端に消え、
敦の手は虎の異能が消えて却って引き摺られかかる始末で、
中也の放った重力操作も見事に空振り。

「だあ。めんどくせえ奴だな、手前はよっ#」
「中也さん、中也さん。それどころでは。」

道連れは不味いと思ったか、向こうから振りほどかれかけた敦が
なんのと何とか粘って捕まえたままの手。
異能が関係なければ何とかなりそうとあって、
床に頬を押しつぶされそうなほど押し付け、
それでも手は離さぬと頑張っているそんな敦の手を伝い、
体術もこなす力自慢な中也が手を添えて一気に引き上げ。
彼らを背に負い、老学者の前に立ちはだかっていた芥川はというと、

 「これ以上の悪あがきは止せ。」

予告もなく放った黒獣で捉えて四肢をまとめ、
そこへと歩み寄った中也が縛り上げ、
自主的な遠距離逃亡を制すべく先程彼が使ったスイッチを口へと咬ませて収容終了。

「そういえば、
 一番肝心な衛星への起動になる波動とやらを担当する異能者は何処にいるんだ?」

其奴が別の組織に目を付けられたら大事じゃね?と、
忘れてなんかいませんでした、中原が訊けば、

「さてね。てっきり此処に居ると思ったんだけど。」

やや重い吐息をついた太宰が、
あまりの扱いに憤死寸前か、白目を剥いた老狂科学者を足元に見下ろし、肩をすくめる。

「そうそう何でもかんでも判りはしないよ。」

軍警の捜査に任せようと、言いはしたがいやな予感もなくはないようで。
失わぬよう、反目されぬよう、
波動のパターンだけ入手して本人は…なんてことも考えられるの、敢えて明かさず、
壁をゆるく握った拳でトントンと叩き始めて。

「?」
「どうしたんですか?」

敦の声と、その手が止まったのが重なって。
手の向きを返してやはり拳にした手の人差し指の節でこつんと叩けば、
つるんとしたステンレスか何かのようだったパネルがするすると左右に分かれ、
壁のうちへ組み込まれていた、超巨大演算機能集合体の管制パネル部分が現れる。

「おおお。」
「まだあったんですねぇ。」

もういいですとうんざりしている虎の少年だったのも無理はないが、
ちょいちょいとあちこちいじればキーボードが出て来たので、

「敦くん、さっき降りて来たリフトへのパスナンバー。覚えてる?」
「あ、はい。えっと…。」

入力していたのを見ていた敦がそれをそのまま伝え、太宰が打ち込めば、
きゅいんカチンカチンと、独特で複雑な音を立て、
液晶のパネルが光り始め、スイッチの全てへもLEDの明かりが灯る。

「使い回しはよくないね。」

何だったら今設定代えちゃおうかなんて、恐ろしいことを言う太宰が、
彼の役目はこれだった、起動を封じる設定を打ち込み始める。
メモもなしの適当な入力のように見えるそれだが、
最後のエンターをかちゃりと押せば、
液晶画面へそりゃあ膨大なプログラム画面が次々に映し出されたその片っ端から、
虫食いのようにほろほろと
アルファベットや数字やの羅列がついばまれてゆくのが展開されて…。

「さあ地上へ戻ろうか。」



     ◇◇



主犯の老人科学者を、それは中原が肩へと担ぎ上げ、
4人揃って地上へ出てみれば。
まだまだ夜半の暗がりの中、携帯で呼んだ警察車両がやって来ていて。
収容人員の多さにもめげず、周辺はたちまち移送車とパトカーで埋め尽くされる。
一応のリーダーだということで
太宰が話を通してあった対策担当の長へついさっきまでの顛末を手短に話し、
地下のフロアでのやり取りを収録したボイスレコーダを手渡して。

「お疲れでした。」
「そちらこそ。」

視線を外し合うと、あとは関わりなしとの約定。
部外者は出て出てという顔をされたのへ頬笑んでから、
皆が待つ、アスファルトも割れた旧いそれだろう搬入口まで向かえば、
錆びかけのガードレールに凭れた彼らは揃って空を見上げていて。
太宰もその視線を追うようにして天空を見上げれば、

  頭上に浮かぶは真珠色の月。

秋のそれのように輪郭が冴えているとまでは言えない、どこか霞んだ甘い顔。
それでも声なく見惚れるには十分な透徹の美をたたえており、

「ややこしいもん飛ばして何してんだってところだよな。」

通信に天候予報にと必要があっての衛星なんだろうけれど。
無くても何とかやってたんだろうにな、
挙句の果てがこんなくだらない騒ぎまで引き起こして、
ばっかじゃねと呟きながら先に立ち去る中也の足取りには迷いがなく。
その手に握った小さな手の持ち主へ、何かしら話しかけていたが、
その中で少年の綺麗な髪の先をそっと摘まんで眉を寄せたのは、
さっきの諍いの中で削がれたの、しっかと見ていてのいたわりか。

「私たちも帰ろうか。」

そうと言って太宰が振り返れば、
その横顔の輪郭もすっきりと、同じように月を見上げていた黒外套の青年が、
素直に視線をこちらへ寄越す。

「? 太宰さん?」
「…、ああ、うん。」

認めるのは癪だが、小賢しいことして馬鹿じゃないかと思うのは中也と同じ。
観たそのまま綺麗なもの、心打たれるものがこんなにあるのに、
人ってのは全く何をやってるんだか。

 車は向こうに留めたの? ああでも、少し歩こうか。
 卯の花が咲いてた?
 そうかじゃあ観に行こうよ、どんな花か教えてほしいな。
 うん、私あんまり花の名には詳しくないんだ。

こんな時間帯はまだちょっと肌寒い潮風。
晒された頬の冷たさへ指を這わせ、含羞む様子を愛でつつ歩き出す。



  〜Fine〜   17.05.19~
.





 *これもニコ動の“めかくしこぉど”新旧双黒版のを毎日観てて
  んきゃ〜っ・カッコいいよぉvvと萌えた結果の代物です。
  何て感化されやすいのだろうか…。
  大元の事件に何だか妙な風呂敷広げてますが、大袈裟にしすぎたかなとちょっと反省。
  そんなせいか終章は、大山鳴動して…もいいとこでしたね。
  あっさり伸したにもほどがある。
  依頼した筋の人に、せいぜいどんなもんだいと言ってやりましょう。(えっへん)
  別に大々的な強盗企む窃盗団の事前逮捕とかでもよかったんですが、
  日頃 角突きあってる組織同士が共闘するとなると
  このくらいのことじゃないといかんかなぁと思っちゃいましてね。
  公にはされないなら別にここまでの大義じゃなくてもいいんじゃんと、
  あとで気がついたおばさんです。頭が固いなぁ、とほほん。

 *実は落ちかけた太宰さんへ芥川くんが
  「人虎と中也さんとどっちに担がれたいですかっ」と
  本人はそれは真剣に呼びかけるというネタを考えていて、
  (落下地点まで下ろしてやるつもりで。間接的になら黒獣も使えそうなので)
  それが使えなかったのが残念です。(笑)
  天然の汚名が重ならなくてよかったね。あ、羅生門は要らないからね。


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