短編

□たまには本音もいいんじゃない?
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ひょいと肩の上へ担ぎ上げられ、ゆらゆら運ばれているのは察していた。
太宰さんと中也さんが話してた声も聞こえてて、
どうやら匂いだけで酔っ払った自分らしいというのが我ながら恥ずかしい。
ガチャリという物音がして、やや慎重に抱え直されると
そのままクッションの利いたシートへ下ろされる。
眠気が去らぬ中では、間近でバタンとけっこうな勢いでドアが閉められても反応は薄く。
だが、少し離れたところで再び同じような音がしてドアが閉じられたそのあと、
ふわりと自分をくるんだ温みと香りがしたのへはさすがに気づいて、
身のうちで丸くなってた意識がフワフワと浮き上がる。
運転席と助手席の間のギア部分をまたぐよにしたそのまた遠く、
こちらのシートベルトが収納された所まで、
よいせと身を伸ばし手を伸ばしている中也さんで。
いつも敦がもたつくのを見かね、ほれやってやろうと
毎度毎度こちらへほぼ覆いかぶさってはベルトを引き出し、
しっかりセットしてくれるのが習慣化しており。
ああそうだった、これって実は恥ずかしいんだけれど、でも、
ぎゅってされてるみたいで嬉しくもあって。
間近になった中也さんの明後日向いてるお顔がいやに男臭くって、
ああやっぱり好きだなぁと実感する。

「…我儘ですよね、ボク。」

ぽつりと呟いたのが、丁度金具をかちりと止めるのとかぶさって、
ああ聞こえなかったかなとしょぼくれておれば、

「何でそうなる。」

中也さんの低い声が返ってくる。
夜陰が垂れ込める駐車場、
車内は静かで、シートの上での身じろぎがきゅうきゅうと響くほど。

「だって、柔らかくてかわいくて綺麗な女の人の方が、
 一緒にいて気持ちいいに決まっているのに。」

そんなの男の人なら当然だろうに、中也さんがそうなのがヤだなんて駄々こねて。

「別に僕のことを嫌いだって言ってるわけじゃないのに、勝手にむっとして拗ねて。」

はあと一丁前な吐息をつくあたり、本当に酔っ払ってるような雰囲気。
だとしたら、酔っ払いのたわごとなんて話半分に聞き流しゃあいいのだが、

「……。」

いつもあまり我儘を言わない少年なだけに、
もしかして抑え込んでるものがこの機会に聞けるかなと。
そんな気がして黙っておれば、

「ボクなんて、世間知らずだし物知らずだし行儀悪いし、
 匂いで酔っちゃうし大食らいだし、中也さんより背ぇあるし。」
「おい。」

どさくさ紛れに何付け足してんだと、ついつい突っ込んだが、
それはあっさりスルーされ、

「女の人の方がいいですよね、やっぱり〜。」

唄うように投げ出すように言い散らかすものだから。
詰まるところはそこに、当人も意識せぬまま引っ掛かっていたらしく。

「…手前がそれ言うか?」

はぁあと呆れたような吐息をつけば、むうと一丁前に目許を眇め、

「ボクの方から付きまとったからですか?」
「じゃあなくて。」

今宵は接待だということもあり、帽子は車内へ置いてった。
そんなせいで前髪が日頃より落ちかかるのを、手ぐしでぐいと掻き上げてから、

「柔らかくて他愛なくてコスメの匂いがしてキャッキャはしゃぐのが華やかで、
 男の DNAへ直接ときめき送って来ては期待させて、押し倒したくなるのが女なんだろけどな。 」
「うう…。」

自分が並べたより詳細が増えてる言い回しをされ、
やっぱり〜〜と口許歪め、泣きそうな声を上げる虎の子へ、

「そういう女どもより手前の方が、
 気になるわ、くっつきたいわ、笑っててほしいわ、
 髪の毛わしゃわしゃ掻き回したいわ、
 隙あらばキスしたくなるわって、
 そんな風に思っちまう俺はじゃあ、どうすりゃいいんだよ。」

「ううう。////////」

いくら二人きりでも、そうまで赤裸々に連ねるなんて。
しかも、隙あらばキスしたくなるというのは初耳で、
一気に心拍数が跳ね上がる。
先に告白したのは敦のほうだが、
こうまで情熱的なこと言われては、
自分のエイッという勇気出した覚悟なぞ全然敵わない、
幼稚な思い入れみたいに思えて来て。

「そうそう、俺よりタッパもあんのにな。」
「ごめんなさい〜〜。」

わぁんと手を伸ばしすぐお隣にいる中也へ飛びつきかけたものの、
しっかりシートベルトが締まっていて身を起こせずの自由が利かない。
じたばたともがくのが何だか可笑しくて、
ぷっと吹き出せば、あああ非道いとまたぞろ泣きそうになるあたり、
まだまだ酔いは冷めてはないようで。

「ちゅうやさぁんっ。」
「ああ判ったから、一旦静まれ。」

まったく手のかかる酔っ払いだなと、
くつくつ笑いながらベルトの留め具をはずしてやれば、そのまま飛びついて来て、

「わっ。」

ハンドルに二人まとめて転げかかり、クラクションが盛大に鳴り響く。
どんな襲撃よりも心臓に悪かった、静寂の中のぱぁんという一喝へ、
わあぁっとびっくりしたらしい敦が
中也の懐ろへ逃げ込むようにしがみついて来て。
ああ、ぎゅむと接したところへすぐにも骨があたるよな
まだまだ頼りない肉づきが伝わって来るのが、
庇護欲を盛大に掻きたてられての何とも愛おしい。
よしよしと肩やら背中やら撫でてやっておれば、
こちらの肩口へ頬を擦りつけ、少しは落ち着いて来たらしく、
覗き込んだお顔はもうもう真っ赤で、
果たして酔っていての赤さか恥ずかしくっての赤みか、
判別なんて出来なくて。

 “…ま・いっか。”

もう少し落ち着いたらシートベルトを締め直して、俺ンチまで連れ込もう。
どさくさ紛れに“キスしたい”なんて言ってしまったから、妙な意識をされるかな?
とりあえず、日付が変わるまでは起きててほしいが
きっと直前辺りで沈没するのは目に見えてるから、
ハッピーバースデイは明日の朝にでも囁けばいっかと。
思わぬ奇遇で想定外にも本人を捕まえられた幸いに感謝しつつ、
引っ掻き回されては退屈しない日々が送れていること、
苦笑交じりにしみじみ実感するマフィアの幹部様なのであった。



  HAPPY BIRTHDAY! ATUSHI NAKAJIMAvv






 *ここ数日、ニコ動にハマっております。
  君色に染まるとかエイリアンエイリアンとか。
  新双黒が可愛く仲良く歌って踊る動画にニマニマしております。
  やつがれくんが目を細めて笑ってると、胸がムズムズしちゃいます。
  ああ、末期だ…。

 *それはともかく。
  中也さんて小柄だけれど存在感があるので、
  マフィアの怖い人だっていう肩書を知られてなくても結構モテるのではなかろうか。
  (なんかついつい身長を気にするのは、
   敦くんや芥川くんの身長を知っちゃったからかもしれない。)こら
  でも、ウチの彼って“おかん”イメージもなくはないからなぁ。(笑)



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