短編

□黎明の睦言
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■ おまけのもう一方


卒がないお兄さんが、ちゃんと出立時間を逆算しての押しかけており、
しっかりとお別れを惜しむように一晩過ごしてから、
翌朝、いとし子が身支度するのを布団の中からうかがって。

「もう出るの?」
「はい。」

初期の仕込みの影響か、
日頃の戦闘の非情さ加虐さが想像できぬほど、
師でもある想い人へはそれは行儀よく楚々と振る舞う彼であり。
起こさぬようにと気を遣ったらしかったが、
朝餉にか味噌汁まで作られては気づかない振りも難しく。
床で身を起こし、おいでおいでと手招きすれば、
見慣れた黒外套に小ぶりのボストンを提げて
ベッドの傍らまで素直に近づいて。
すぐの間近へそおと腰掛ければ、
上背のある想い人が、長い腕をくるんと回し、
壊れものを扱うように背から肩から掻い込んでくれて。
そのまま 少し猫っ毛なこちらの髪に鼻先をうずめ、
すうと深々息をするので、
どうしたのかとキョトンと相手のお顔を見上げれば、

「おや、私の匂いしかしないぞ、芥川くん。」
「…っ!」

 嘘だよ、びっくりした?
 もう……。

ほうと脱力する痩躯を大事そうにキュッと抱きしめ、
中也をせいぜい顎で使って早く片付けておいでね、
でも怪我はしないようにねと、
甘い声音で勝手なお言いようを付け足してから、
う〜んと残念そうに眉を寄せる。

「あああ、私に立案を任せれば、3日で片づけてやるのに。」
「…無茶言わないでください、太宰さん。」

確かにこういう戦略などを扱わせれば、
天才的な策を幾つでも易々とひねり出すだろう彼なれど。
建前上、警察や公安側の存在のくせに
マフィアの抗争に加担して片やに有利な戦術を描こうというのだから
まったくどっち向いての発言なのやら。

「ほら、もっとお寄りよ。
 キミの匂いとか温かさとか、しっかと覚えさせて。」

そんなロマンティックなこと、日頃は欠片も思ってないくせに。
ただただ愛し子と少しでも一緒にいたいだけのくせに。
ぎゅっと掴まえた痩躯をなかなか離しはしないようで、
こちらは出かける側が大変なお見送りになりそうです。

 ……………で。

中也さんは留守中の心得として
敦くんへ自分がヨコハマに居ないことを悟らせるななんて言い置くのですが。

「おし、1日で制覇するぞ、芥川。」
「応。」

血気盛んな重力使いさんと、
何故だか不敵に笑っておいでの芥川の兄人と来て、
お仲間の身内たちまでもが戦慄して見せ、
血の雨が降りそうな山口地方だったそうで。
探偵社の方は方で、
約2名がため息つきまくりで使いものにならず。
そんな態度からあの二人が不在だというのも
そのすじでは早くも広まってしまったり。

「裏世界の連絡網ってどうなってるんでしょうかねぇ。」
「誰かさんの影響力が大きいのは確かだな。」

あああ、キリがないぞ。(笑)
 




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