ヒロイン生活始めました。

□09.性夜
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■一松side■



「………クソが。」

12月24日午後4時。僕はブラックサンタの衣装を着こんで公園のベンチで道行くカップルたちに呪詛を送っていた。

………え?なんでそんなことしてるかって?

いやそれこっちが聞きたいくらいだよね。僕だって初めて凛と迎えるクリスマスにドッキドキしてたんですよ。クズなりにクリスマスプレゼントとか用意してトド松に服選んでもらったりしてたんですよ。それなのに凛がまさかのクリスマス出張!!

なんでも凛、今月係長に昇進したらしくて、引き継ぎやらなんやらで忙しかった上に部下の尻拭いで北海道に23日から25日まで出張ときた!誰だよ凛に迷惑かけやがったクソ野郎は!!おかげで今年も独り寂しいクリスマスだよ!!しかもクリスマスだからとか言って聡さんわざわざ2連休くれちゃったし!!まだ仕事してた方がよかったわボケェェェェ!!でも言えない、言えるわけない!あんな悪気ゼロの天使の笑顔で休みをくれた聡さんに言えるわけなーい!!言えてたら今こんなカッコで独り寂しくベンチに座ったりしていなーい!!

……はぁ……。おそ松兄さんとトド松に馬鹿にされたくらいで家飛び出すんじゃなかった。

「え?何、一松凛ちゃんとクリスマス過ごすんじゃなかったの?」
「やめてあげて、おそ松兄さん。凛さん急な出張で今北海道なんだから〜♪お土産楽しみだなぁ♡あ、で一松兄さんは一人でどうするの?せっかくだからこの間買った服着て出掛けたらぁ?」
「え、何何一松ぅ〜。もしかしてクリスマスに凛ちゃんとセックスするつもりだったの?いや〜それは残念だね〜www」


………………いや、これはぶっ殺して家飛び出すレベルだろ。思い出したら余計イラついてきた。

片膝をついて舌打ちを溢したその時だった。


「「あーーーーっ!!」」


目の前を通り過ぎようとしたカップルが、僕を指さして近寄ってきた。

……え、な、なに、怖いんですけど!?

思わず吃驚してベンチの上で体育座りになる僕。

……あれ?いやこの二人もしかして……。


「やっぱり!去年のブラックサンタさんだー!」
「ちょうどサンタさんの話してたらまた会えるなんて!覚えてますか僕たちのこと!?」
「……あ、は、ハイ。その節はどうも。」

覚えてる、覚えてますとも。去年この公園であったクソリア充カップル。しかもその後、家出して凛の家に転がりこむ前、飯奢ってもらってるし。あんなことしてクリスマス台無しにした僕に声をかけて飯奢ってくれたクソ優しいカップル。

「隣座ってもいい?」
「……え、あ、ど、どうぞ。」
「でもほんと偶然!あれから見なかったけど家には帰れたの?」
「あー、…おかげ様で。」
「「よかったー!」」

……すごい久しぶりに会ったけど相変わらずこんなクズ心配して馬鹿じゃないの。……てかそれより気になってることがあるんですけど。大分前から気になって見てたけど、それ、彼女が抱いてるやつ、赤ん坊じゃない?

「あ、実は僕たち今年結婚して……」
「今日はこの子の定期検診の帰りだったんだー」
「……結婚……定期検診……。」

目の前で更に幸せオーラを放つ二人を見て思わず身体から炎が舞い上がる。

「「わぁーー!?また人体自然発火だー!!サンタさん落ち着いてぇー!!」」



それからどうにか消火してみせた僕に二人はまだ首のすわらない赤ん坊を紹介して見せ、今はこの近くの若妻団地に住んでいることを話してくれた。

僕も今は実家に戻って施設で働き始めたことを話せば、二人は自分のことのように喜んでくれた。ほんと変わってるよね、この二人。

日も暮れ始めて寒くなってきたから早く帰りなよ、と言えば、二人は名残惜しそうにベンチから腰を上げた。


ーーーその時だった。


『ーーーーいーちゃーん!!』

公園の入り口からキャリーケースを引き摺って走ってくる凛の姿が目に入ったのは……。

「……え。凛!?」

思わずベンチから立ち上がると、二人がそわそわとし出したのが分かった。

『マッハで仕事終わらしてきた!明日はばっちり休みにしてきたから今日ゆっくりできるよ!ていってもクリスマスっぽいこと何も用意できてないんだけど……ってごめん、いーちゃんのお友達?』
「……え、あ、この人たちは…

「「サンタさん彼女いたの!?」」
「えっ!……あ、あー、ハイ。か、彼女の……凛デス。」
『っ!!あ、あー、一松くんの彼女をさせてもらってます、成瀬凛です!』
「「美人さんだー!」」

凛を紹介してもらって嬉かったのか二人は終始キャッキャしながら手を振って帰って行った。

凛に至ってはずっと顔赤いし。いや僕の方が赤いかもしれませんけど!

この残されたあま〜い空気に物凄く堪えられなくなった僕は、凛のキャリーケースを右手で無理矢理奪って空いていた左手で凛の手を握った。

「……ケーキ、コンビニでもいいでしょ。」

そう言って手を引けば、凛が僕の左手をギュッと握り返してくる。

『……十分すぎるよ!いーちゃん!』

初めてのクリスマスにコンビニのケーキで喜ぶなんて、凛って安上がりな女だよね。……もういつ死んでもいい!








「あー凛さんやっと帰ってきたぁ!お土産は!?お土産♡」
「いちまっちゃーん?もしかしてなんか期待してたぁ?お前だけ抜け駆けとか許さないよ?お兄ちゃん」
「出張と見せかけて二人でイチャこらする気だったわけ?一松?ケツ毛燃やすぞコラァ!!」
「oh…、抜け駆けはノンノンだぜブラザー?聖なる夜に響く…「凛ちゃんおかえり!ぼくケンタ持ってきたよ!」…じゅーしまーつ?それは俺が買ってきたケンタだぞ」
「……なんでお前ら凛のマンションにいるわけ。」
『……しょうがない、買い出し行ってみんなでパーティーしよっか!』
「(こいつら後で絶対殺す。)」









■おまけ〜その後の彼氏くんと彼女ちゃん〜■


「いやーサンタさんの彼女美人さんだったねー」
「うんうん!しかも彼女だって紹介したときの二人の顔!」
「「めっちゃかわいかった!!」」

こうして二人は本人たちの知らぬうちに隠れファンになっていたのだったーーー。












ー補足ー

彼氏くんと彼女ちゃん、勿論ブラックサンタ回の二人です。
サマー仮面のとき、臨月近そうだな、と思い、勝手ながらあの聖夜に宿された子だと妄想。10月末に生まれた設定で書いてます。

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