ヒロイン生活始めました。
□04.銭湯
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■一松side■
「あら、じゃあ凛ちゃんご近所さんなのね〜。なら気軽に遊びに来て頂戴」
『ほんとですか!?もうそんなこと言ったら毎日来ちゃいますよー!』
「あら、なんならいっそ嫁に来てくれてかまわないのよ?あぁそうだわ、今夜は泊まって言ってね凛ちゃん。父さんにも会わせたいし」
『いいんですか!?やったー!あ、晩御飯の準備私も手伝いますね!』
「あらいいのに。…でも私も娘と料理するのが夢だったから、一緒にやってもらっていいかしら?」
『勿論です、いーちゃんママ!』
………あっ、どうも。松野一松です。
いきなりなんなんだって話だよね。うん、僕も色々ありすぎて頭が追いついてないんだけど……まぁとりあえず今のが約2時間前の母さんと凛の会話。
僕も正直今の状況についていけてないから、とにかく順を追って説明しようと思う。……僕の心の整理もこめて。
まず、凛の"いーちゃんママ"発言から昇天していた母さんが意識を取り戻した後、二人はなんだかんだ意気投合、なんか泊めることになって仕事から帰った父さんを迎えたんだよね。
事情を知らない父さんは、いきなり知らない女の子が出迎えたもんだから、玄関先で硬直、母さんが僕のお嫁さん(←)だとか紹介して満更でもない凛の嬉しそうな顔にキャパオーバーしそうな僕だったけど、父さんがこの世の終わりとばかりに顔を青ざめさせて僕の肩に手を置いたことで色々現実に引き戻されたよね。
「……い、一松……お前……このお嬢さんに一体何をしたんだ?……お、脅したのか?ストーカー?そ、それとも監禁!?」
………信用ないわー。まぁ分かるけど。分かるけどデジャヴ。それさっき母さんときに体験済みのやつだわ。
父さんの誤解も母さんと兄弟たちがなんとか解いてくれて、凛は我が家で夕飯を共にした。勿論凛は僕と十四松の間で。
食後も忙しなく片付けを手伝おうとする凛を母さんがお客さんなんだからと断ると、『それじゃ、いーちゃんパパのお酌しますね』と凛は父さんのところへ。
「悪いな〜凛ちゃん」とか言ってる父さんの顔はデレデレ。……おいクソジジィ〜!てめぇには松代がいるだろーが!ペチャパイの松代がいるだろーがぁぁぁ!
でも凛に父さんにまで妬いてるなんて思われたくないから、部屋の隅からとりあえず松造に呪詛だけ送っといた。……5年後ハゲる呪いを。
で、その後僕たち兄弟は凛を連れて銭湯に向かったんだよね。
え、急に話が跳びすぎだって?
……いや、あの後すぐに母さんが凛をウチの風呂にすすめたんだけど、僕たちが銭湯に行くって聞いたら案の定凛が私も行きたい!ってなって……。
それなら銭湯行くついでにマンション寄って着替えとかも持ってきたいって凛がいうから、銭湯の通り道からちょっとだけ逸れるけど、兄弟たちとマンション前で凛を待った。
凛のマンションを初めて知った年長松二人のテンションがウザかったけど完全にスルー。部屋番号をしつこく聞かれたけど絶対に口を割るもんか。知られたら押しかけるに違いないし。
そんな兄弟間の攻防を知るよしもない凛は、5分くらいでいつものラフなカッコに着替えて出てきたから、それから僕たちは銭湯に向かった。
……んだけど、おそ松兄さんがその後も凛にまでしつこく部屋番号を聞いてきたから十四松に卍固めをキメてもらった。長男マジでしつこい。
まぁ、ここまでが回想。
……両親に紹介したってだけでもうキャパオーバーなのにウチに泊まるとか……マジか、マジなのか神よ。
『ねぇいーちゃんたち何分くらいでお風呂でる?』
お泊まりセットを持って、一人荷物の多い凛がいつもより不審な僕を隣から覗きこんで聞いてくる。
……ほんとに今から凛と一緒に銭湯行くのか。だいじょぶかな、僕。
なんて心配をしつつも、凛からお泊まりセットの入ったバッグを奪って兄弟たちの後をついて歩く。
……乱暴にバッグ奪ってごめん。でも荷物持つよ?なんてトド松みたいな気のきいたセリフなんて吐けないし。
それでも凛は嬉しそうにありがとうと笑ってくれたけど。……マジで女神かよ!
「……その日によってバラバラだけど……まぁ15分くらいじゃない?」
ようやく貰えた返事に凛はマジか、と呟く。
『私髪乾かしたいからせめて20分にして〜』
「凛さん急がなくていいよ〜。一応凛さんも女の子だし、今日は僕たちもゆっくり入るからさ」
「そうだぞ、凛さんも禁断の花園で他の華たちと聖なる泉に『ねぇ最近トッティ私にトゲない?』…えっ、」
「やだな〜、そんなことないって凛さん」
「えー凛ちゃん一緒じゃないの〜!?へこみ〜」
『さすがに男湯は無理があるかな〜』
「なら今度はウチの風呂で俺と一緒に…「言わせねぇぞクソ長男!」なんだよチョロシコスキー」
チョロシコスキーって呼ぶなよ!!と怒鳴るチョロ松兄さんを無視して、凛に30分後に出る約束を交わして僕は男湯の暖簾をくぐった。
……どうしよう。隣に裸の凛がいると思うと勃起しそうなんだけど。
そんな心配をしながらパーカーを脱いでいると、一足早く裸になったおそ松兄さんがニヤニヤしながら話し出した。
「なんかさ、隣に凛ちゃんが裸で俺らと同じ銭湯に入ってるって思ったらなんかすごくエロくない?」
…アッ、……うわぁ、クソ長男と同じようなこと思ってたよ。よし、死のう。
「たしかにエロいね!」
クソ長男のクソ話にいち早く反応をしたのはまさかの十四松だった。
「いいよな〜一松。あんな美人が彼女で。しかもこれから裸見放題じゃん!うらやましい〜。ねぇお兄ちゃんもまぜて?」
ふざけんなクソ長男!誰がまぜるか!てか裸見放題とかありえないし!いや見たいけど……見たいけど堪えられる気がしない!色々と。
「一松兄さんセクロス!?」
だぁぁぁぁ!?だから直球やめて十四松!?僕まだ自分から凛にキスだって出来ないごみクズ野郎なんだよ!
「たしかに今日の凛さん可愛かったね〜。女の子に見えた。ウケる(笑)」
いや何ウケるってトド松。お前のその上から目線ムカつく。てか今日に限らずいつだって可愛いし!凛は常に365日可愛いし!
「何を言ってるんだトド松。凛さんは常にキューティキティじゃないか」
クソ松とまさかの同意見!お前何、凛をいつも可愛いって思って見てんの?死にさらせ!!
「たしかに凛ちゃん普段がアレだから忘れがちだけど、完璧に一軍様だからね」
いや普段がアレってなんだよチョロシコ兵長!あれだよね、兵長とか言われて完全に調子のってるよね。
イライラとしたオーラを漂わせている僕に気づかないのか、おそ松兄さんは嬉しそうに鼻の下を擦りながら兄弟たちに言う。
「ねぇみんな気づいてる?凛ちゃんが一松の彼女ってことは置いといて、今日!ウチに!一軍の女の子が泊めるんだよ!?ヤバくない!?」
「「「「ヤバい!!」」」」
クソ長男の発言に同調した他の4人も、とりあえずスタンドの虎の餌にしてやった。
「ギャー!!い、一松!!俺が悪かった!だから助けて!?」
おそ松兄さんが叫ぶ声を無視して風呂場の扉を開けると、珍しく貸し切り状態。……あ、いつもより早いからか。
『いーちゃん〜?』
体を流そうとシャワーの前に座ると、隣の女風呂から凛の声が響く。
……マジか。意外と聞こえるんだな。
「……何。恥ずかしいんだけど凛。」
いつもより大きな声で返事を返す。……風呂誰もいなくて良かった。
『女湯私しかいなーい!すっごい広い!』
「こっちも俺しかいないよ。」
『えっ、みんなは?』
「死んだ。」
『何があった!?』
驚く凛に脱衣所で虎と遊んでる、と説明すれば理解したようで、とんでもない一言を言ってきた。
『じゃあ二人っきりだね!いーちゃん!』
「ブフーーーーーーッ!!!!」
はい、吐血したよね。
目の前が真っ赤に染まって意識が遠のく間、凛の心配する声が銭湯に響いていたーーー。