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□ONE FINE DAY
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 七転び八起きなんて言葉がある。何度失敗してもめげずに挑戦することをやめないこと。または人生には浮き沈みが多いということを意味しているらしい。自分の人生と他人の人生を比べることはできないけど、それでも俺のこれまでの人生はやっぱり浮き沈みの幅が激しかったと思う。数えきれないほどの失敗、挫折、焦燥、そして栄光、感謝、幸福。いつでも相反するそれらは交互にやってきた。人生が一筋の川だとすれば、人生を生きる俺はそこに浮かぶ一艘の舟だ。嵐の中濁流になぶられることもあれば、あたたかな日差しに包まれながらさらさらとせせらぎをゆっくりと下るような日もあった。そうした七転び八起きを通り過ぎながらここまでやってきたし、これからだってそうして生きていく。

 今、俺自身の状態を例えるなら船は乗るべき流れを失い、見えない何かが川の水をどんどんと干上がらせていっているみたいだ。俺は自力ではどうすることもできず、乾いていく川をただ茫然と見つめながら、己の無力感だけをやけにはっきりと感じている。


 7年間を共に過ごした俺たちに、8度目の春は来なかった。


 予感がなかったわけじゃなかった。この業界でそういう事例は嫌というほど目にしてきた。そのたびに自分たちは絶対に大丈夫だという自信と、でも彼らだってそう信じていたんじゃないのか、それでも最後はこういった結果にならざるを得なかったんじゃないのかという不安とがマーブル模様に混在した気持ちに覆われた。

 メンバー以上の感情、ただのメンバーには思わないこと、ただのメンバーには言わないこと、ただのメンバーとはしないこと。
 7年という歳月のうち、一体いつからいつまでが彼を恋人と呼ぶべき期間だったのか、今となっては分からないしそれはさほど重要なことではなかった。終わらないと思っていた、終わらせたくないと願っていたものが終わる。終わらせたのは他でもない彼自身。その事実を俺はどうやってかみ砕けばいいんだろう。いつまでも鮮明な彼との時間を、どうやって思い出に変えていけばいいんだろうか。

 あの日もちょうど今日みたいに、青空というよりは蒼空で、残酷なまでに晴れた空だった。

 仕事のスケジュールが合わず、なかなか2人きりになれていなかった俺たちは約1ヶ月ぶりに顔を合わせた。ここ一年くらいは彼が俺たちの宿舎に帰ってくることも少なくなり、むしろ少しずつ一人暮らしの準備を始めようとしていたことを俺は知っていた。
 すっかり彼の気配だけが薄れてしまった宿舎で、いつものように起床してリビングに向かうとソファに座っていた彼と目が合う。

「あれ、ジニョン?」
「おはよう」
「帰ってたんだ、珍しいな」
「うん、たまにはね」

「お前、痩せた?」
「そうかな」
「ちゃんと食べなきゃだめだよ」
「はは、その小言も久しぶりだと新鮮だな」
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