Story

□Verifiable 2
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その瞳は真っ直ぐに俺を捕らえた。



部屋の明かりは消した。

ベッドサイドに置いたアロマキャンドルの炎がほんのわずかゆらり、と揺れた。


ベッドの上、勇利は俺を真っ直ぐに見つめている。


勇利の動きがやけに緩慢に思えるのは、俺の気のせいだろうか。

俺はゆっくりとベッドに乗り込む。

ふわり、とベッドが揺らぎ、勇利が揺れる。

何も纏わない勇利の体のラインを、炎は陰影をつけて照らし出す。

勇利は俺の体を美しいというけれど、勇利も美しい。

太り易いせいか、僅かに肉付きの良い体は、俺には無い柔らかいラインを持っている。



静か、だ。

勇利は何個かの枕に背を預けるようにした。

目の前に、勇利の膝がある。

それは軽く閉じられていた。

俺は、それらに手を触れる。

ゆっくり、左右に割ってゆく、と。

「!」

勇利の足の裏で胸元を押され、俺は少し体を起こした。

「勇利?」

名を呼んでも、彼は黙っている。

何を考えているのだろう。

少しの沈黙のあと、勇利の足が俺の胸元から外された。

「…っ」

真っ直ぐに、俺を捕らえる瞳に再び囚われる。

心臓の鼓動が、早くなるのを感じる。

(こんな感じ、初めてだ…)

今まで誰かを抱く時に、こんなに気を張り詰めた事はない。

軽く愛の言葉遊びを交わし、足を割り開き、組み敷いて、快楽を得る。

これは楽しむ行為だったはずだ。

(…ああ、そうか)

勇利の真剣さがそうさせているのだ。

その勇利は俺を見つめている。

そうして、ゆっくりと動き出した。

閉じられていた膝が、足が、ゆっくり、ゆっくり開いてゆく。

まるでそれは、見せ付けられているかのように。

(ああ、やっぱり美しい…)

その体も、その心も。

今から俺が抱くのだ。

勇利はどんな顔を見せてくれるのだろう。どんな風に乱れるのだろう。

そう思いながら、俺は勇利の膝頭に再び手を置く。

そのままするりと太ももに手を滑らせながら、割り開いた足の間に体を入れ、勇利に近づく。

(確かめる…)

以前勇利が言った言葉を思い出す。

彼は俺に触れて、俺を確かめるのだと言った。

(今俺が感じていることは、勇利と同じだろうか)

勇利に、触れている。

この行為が、勇利を確かめていることの様に思えてくる。

ふ、と顔を上げると、勇利と目が合う。

試合直前のような顔つきの勇利に、思わず笑ってしまう。

勇利は少し、不思議そうな顔をした。

そっと勇利の顔に、顔を近づける。

触れるか触れないかの所までいってようやく、その瞳は閉じられた。

軽く、唇を触れ合わす。

その柔らかい唇は、微かに震えているような。

「勇利」

唇を触れ合わせたまま名を呼べば、その唇は開かれた。

「ん…」

「っ、ふ」



それを合図に、始まった。




深く、より深く相手を知ろうと口付ける。

たどたどしく、勇利の舌は俺に答えてくる。

勇利の両手が俺の頭を包み込んだ。

俺は太ももにあった手の片方を、するりと勇利の胸元へと滑らせる。

もう片方は、太ももの裏側へ。

きめ細やかな肌を堪能する。

キスを首筋に贈ると、勇利の匂いが鼻腔をくすぐる。

甘いような、どこか安心するような匂いだ。

体を密着させたまま、キスを続けた。

ふ、と。

あることに気がついて、俺は体を起こした。

勇利の欲は、くったりとしたままで佇んでいる。

「勇利、緊張してる?」

そう問うと、勇利は腕で顔を隠した。

僅かに見える耳が赤い。

「それは、そうだよ…」

「この前はあんなに乗り気だったのに?」

数日前、勇利は俺を抱いた。

「あの時とは、違うよ…」

初めてだったからこそ、欲をむき出しに出来たという事だろうか。

それとも抱く立場だったからか。

「勇利」

腕を取って顔を露わにすると、眉毛が八の字になっていた。

さっきまでの真剣勝負の雰囲気はどこへやら、一変して弱気な彼が顔を覗かせている。

(本当に勇利は…)

ころころと変わる表情が愛おしい。

「…勇利。嫌だったら、言って」

「ヴィクトル、な、に、…」

俺はそのまま体を下にずらすと、勇利の欲にキスをした。

「っ!」

勇利の体はびくりとはねる。

俺は気にせず、柔らかいそれを舐めあげて、そのまま口に含む。

「ん…」

「ヴィ…!」

口の中で慰めてやる。

それはあっという間に硬さを持った。

全部は口の中に入りきらなくなったので、出来る所までを口に含んだまま舌を動かしてゆく。

「っ、ぁ、はっ」

息をつめたような声が聞こえて、そのまま視線を上げた。

勇利と目が合う。

(…っ!)

欲を湛えた瞳、薄らと開いた口元。

雄の顔でこちらを見ていた。



俺は視線はそのままで、ちゅる、とわざと音を立てて口を離す。

下から上へとそれを舐め上げると、勇利は甘い吐息を漏らした。



この男と、交わるのだ。

「…俺の方が食べられそう」

「んっ、何?」

「何でもなーいよ」

手にローションを足し、屹立したそれに塗りこめる。

勇利の体がふるりと震えた。

そのまま指を、勇利の秘穴へと滑り込ませる。

「んっ!」

ちゅるりと屹立した物を口に咥え込む。

片手を添えてそれを愛してやりながら、指をゆっくりと中に進めた。

勇利は俺の髪をぐしゃ、と撫でる。

少し強くそうされ、勇利の余裕の無さを感じる。

「…勇利、平気?」

「う、ん」

指一本を残したまま問うと、勇利はそう答えた。

ぬるぬると動かしてみる。

「な、んか、変な感じ」

「…ゆっくり行こう」

つぷ、と指を二本に増やしてみる。

思いのほかよく動かせるのは、勇利がちゃんと準備をしてくれたからだろう。

ゆっくりと、穴の中の壁をなぞりながら中を広げていく。

もう片方の手や、舌で勇利の欲を撫でてやる。

勇利はふるふると首を振った。

「ヴィ、ク、トル、もう、入れて」

「まだ無理だよ」

「なんか、でも」

「気持ちよくない?」

「そうじゃ、ない、けど…っ」

指で腹の方の壁を強く押し込んでみる。と。

「んんっ!」

勇利がぐっと背を丸めた。

「な…?、ん、んんっ、ふっ」

続けて押し込むと、指のタイミングと一緒に勇利の腹筋に力が込もる。

「勇利、これ気持ち良い?」

「っ、わっ、かん、ないっ!」

次第にそのペースを速めながら、勇利の欲を搔き揚げる。

勇利は手を、勇利の欲を慰めている俺の手に添えた。

もう片方の腕は、あちこち彷徨い辿りついたシーツを掴んで手繰り寄せている。

手は勇利に強く握られて入るものの、それは俺の動きを妨げるような感じでもない。

勇利の瞳はもはやきつく閉じられて、荒い息だけが口から漏れている。

「…っ、勇利っ」

俺は体を起こすと、勇利に欲に満ちたそれを宛がう。

「っ、あ、は…っ、ヴィ…んあっ!」

「くっ、…んっ、ふ」

ゆっくりとそれを推し進め、一番大きな所までを飲み込ませた。

「っ、は…。ゆ、り」

名を呼んで勇利をみると、浅い呼吸を繰り返している。

「勇利、大丈夫、大丈夫だから」

何が大丈夫なのだろう。

自分でもよく分からないまま、勇利に慰めの口づけを落とす。

一つ、二つ。

強く突きたくなる衝動を何とか抑えて、キスを繰り返す。

「勇利、息吐いて」

そう言われ、勇利は大きく息を吐いた。

吐き終わると、ぱちり、と、勇利の目が開く。

勇利と目があった。

「ヴィクトル」

勇利は俺の名を呼んで、俺の頬から頭にかけてをなで上げた。

「少し、このままで居て」

そう言って、勇利は俺の体を引き寄せた。

肌が触れると、汗でひんやりとした表面とは裏腹に、勇利の体は熱い。

勇利は俺を抱きしめると、また大きく息を吐いた。

「…ヴィクトルが、中に居る」

「…うん」

「気持ち良い?ヴィクトル」

「うん、気持ち良いよ」

「…そんな分けないよね。動いて良いよ」

「勇利」

「大丈夫だから。でも、少しずつね」

俺が顔を上げると、勇利は俺を見て笑った。

俺でもそんな顔をするのか言って、また笑う。

「結構大丈夫なもんだね」

本心なのか、空元気なのか。

そう言って勇利は、俺の鼻先にキスをした。

これではどっちが抱いているのか。

「…きつかったら、言って」

「うん」

「勇利」

「何?」

「愛してる」

俺は体を動かし始めた。

ゆっくり、でも奥へ奥へと何度も勇利の体を突き上げる。

勇利の返事は聞けなかったけれど、俺の背に回された腕が、俺に触れる唇が、潤んだ瞳が、それが全てだと思った。

激しく打ち付けると快楽の波が押し寄せる。

流石に早すぎるだろう、と、ほかの事を考えて気をそらそうとするのだが。

「ぁ、ヴィ、ヴィクト、あ、あ、あ」

色づいた勇利の声に、そうすることさえ出来なくなる。

「んぅっ!」

ぐ、と勇利の奥に欲を差し込んだまま、勇利に口付けをした。

「ふ、ぁ、は…」

「ぁ、ぁ…」

荒く口内を舐めあげると、勇利の体がひくひくと揺れる。

ちゅ、と音を立てて唇を離すと。

「…!」

目に飛び込んできたのは。

「なんて、顔を…」

その欲に蕩けきった顔に煽られて、こらえきれずに俺は、また体を動かし始めた。

甘やかな声が、その姿が、堪らない。

「ゆ、り、おれ、もう」

先に行くのは憚られ、残っているわずかな理性で勇利のそれを握りこみ、擦りあげる。

「うぁっ、ヴィ、ク、ふっ、あ!んっ、あ、あ!!」

勇利は俺の手の中に欲を放った。

「ふっ、ゆ、りっ…!」

両方の腰骨を掴み、叩きつけるように何度も腰を打つ。

「んっ、ぁ、あ…、っ!、っ!」

快楽に震える勇利の中に、俺は何度も欲を残した。





「ん…」

人が動く気配に目を覚ますと、勇利がベッドに戻って来た所のようだった。

「ごめん、起こした?」

「いや…、いま何時?」

「まだ夜中。寝て良いよ」

勇利にそう言われ、俺は勇利に向けて両手を伸ばした。

「…」

勇利は少し困ったような顔をしたけれど、思いのほか素直に俺の腕の中に納まった。

俺は、その温もりを感じ、大きく息を吐く。

カーテンの向こうはまだ暗い。

このまま眠りについても良いだろう。

俺がうとうととし始めた時。

「ヴィクトル」

勇利の小さな声が聞こえた。

「何?」

「…なんか、ね」

「うん」

「ヴィクトルが、まだ僕の中に居るみたい」

「…!勇利」

「あ、痛いとかは無いから!なんか、そんな感じ、ぐらいで」

「本当に?」

「本当。…ヴィクトルが、凄く近くにいるみたい」

「…!!」

あまりの言葉に勇利の顔を覗きこむ。



勇利はもう夢の中に旅立っていて。

「…ゆうりぃ」

俺は大きなため息をもらした。

眠れぬ夜をもたらしたスリーピングビューティの額にキスをすると、俺は大人しく彼を抱きしめ直したのだった。


end


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