Story

□銀世界
1ページ/1ページ


(久しぶりだな…)

雪深い、田舎町。

最寄の小さな駅の構内には、2〜3人が座れるベンチとストーブしかない。

まだ駅員がいるだけましな方だった。

「…」

ユーリが外を見ると、雪が窓ガラスに打ち付けられては、滑り落ちてゆく。

ガタガタと扉の揺れる音もした。

駅に着く時間は連絡したのだが、この雪だ。

迎えに来るはずの祖父が、立ち往生していなければ良いのだが。

(早く免許取りてぇ…)

そうすれば、近くの大きな駅からレンタカーでこちらへ向かえるものを。

幼い。

自分の歳を思い、ユーリはため息をついた。

と、からりと扉が開いた。

「…ユーラチカ!」

帽子で体中の雪を払いながら、コーリャは破顔した。

ユーリは慌てて近寄ると、自分のかけていたマフラーを祖父にかける。

「こら、濡れるぞ」

「いいよ別に」

そういいながら、祖父の雪をパタパタとはたいて落としていった。

「車が途中で止まっちまってな。歩いてきた」

「やっぱり…」

「何、もうしばらくしたら止むだろう」

なぜかは分からないが、祖父のそういう勘はよく当たる。

ユーリは連れ立って祖父とベンチに座った。

幸いといえばいいのか、次の電車が来るまで30分はある。

のんびりとしていても文句は言われなさそうだ。

それどころか、駅員はどうぞと温かい紅茶を持ってきてくれた。

二人でそれを受け取って、礼を言う。

カタカタと、窓が風で揺れていた。

薪式のストーブは時折パチリと木の割れる音を出し、火が燃え盛っている事を伝えてくる。

小さい音が、静けさを運んでくるようだった。

「なかなか、試合会場まで行けなくてすまんな」

「そんなこといいよ」

「この前の試合、生中継で見たぞ」

「!、あれ夜中になっただろ!そんなことしねぇでちゃんと寝ろよ」

「楽しみで眠れんわい」

「そ、っか…」

カタカタ、カタカタ。

窓はまだ揺れている。

「でも、俺…」

「うん?」

「…」

ユーリはカップを握り締めたまま、項垂れた。

「…っ、ごめん、じいちゃん」

綺麗な金色の髪が、ユーリの顔を隠す。

コーリャは黙って、ユーリの頭に手を乗せた。

「何を言っとるか…」

「…っ」

「銀メダルだって、凄かろうが」

「っ、でも、俺…っ」

「…負けず嫌いは、誰に似たのか」

呆れたようにそう言われ、ユーリは鼻水を啜る。

「っ、じいちゃんだろ」

「そうか?」

「そうだよ」

「はて?」

「俺がちっさい頃…」

パチ、パチと音を立ててストーブの炎は揺れる。

ストーブの上に置かれたケトルから、湯気が湧き出してきていた。

駅の中に、楽しそうな声が響く。

いつの間にか、窓を鳴らしていた風は止み、窓がキラキラと輝き始めていた。

「…お、止んだか」

「…おっし、帰るか!」

「急がないとな。近所中集まって待っとる」

「マジ!?」

「ああ、マジ!じゃ」

コーリャはからりと扉を開ける。

その世界の眩しさに、目を細めた。

「ユーラチカ」

「うん?」

「銀色も悪くないだろう?」

「…!」

ユーリは外に出る。

生まれたての雪が、輝いて見えた。

キラキラ、キラキラ。

雪に乱反射して、世界中が光に包まれているようだ。

「まるでお前の銀メダルのようだろう」

「…じいちゃん、詩の本でもだしたらいいんじゃね?」

「ははは」

ユーリもつられて笑った。

次こそは。

そっと心に誓うと、ユーリはコーリャと共に歩き出した。

今日の誕生日はきっと、いつも通り賑やかになるだろう。

そんな事を、思いながら。




end


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ