Story
□First contact
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勇利は部屋のドアを閉めると、大きく息を吐いた。
温泉 on Iceが終わった。
寝不足のままようやく家までたどり着いたところだ。
リンクで簡単にシャワーを浴びては来たけれど…
(温泉、入りたい…)
ふらりとベッドに倒れこむ。
ヴィクトルが来てから、怒涛の2週間だった。
(こんなにずっと、一人の人の事を考えた事ってなかったな…。優子ちゃんの時でさえ、スケートをしている時は考えなくて済んだ)
そう考えて、はた、と気づいて勇利は首を振った。
(ヴィクトルは、尊敬する人、で、好きとか、そういうのとは…)
そこまで考えて、考えを放棄した。
その原因は。
「…」
そろり、と勇利は下半身に手を伸ばす。
屹立した物が、手に触れた。
(ダイエットは慣れてるけど、こればっかりは)
食べる事を控えていると、何故かいつもこの現象が頻繁に起こるようになる。
食欲と性欲は、何か関係があるのだろうか。
(…疲れてるせいもあるんだろうけど)
それは治まる気配を見せない。
(ヴィクトル、お風呂来そうだよね)
見られたら何といわれるか。
勇利はため息を一つつくと、体を起こし、ベッドの上に足を放り投げるようにして座った。
枕をベッドヘッドに立てかけ、背を持たれかけさせる。
(さっさと抜いちゃおう)
ティッシュを用意して、服をずらすと、それを握りこんだ。
「んっ、…っ」
寝不足も重なっているせいか、なかなか上手くいかない。
「ふ、っ…」
ようやく上り詰めそうだと思った時だった。
スラリ、と部屋のドアが開いた。
「ね、勇利。さっきの鞄に」
「…!!」
勇利が見上げたその先には、館内着に着がえたヴィクトルの姿が。
「…」
「…」
固まった二人に追い討ちをかけるように、声が聞こえた。
「勇利!部屋?」
真利の声だ。
勇利が固まったまま動けないでいると。
「マリ、勇利寝ちゃってるみたい」
ヴィクトルが代わりに返事をした。
真利の姿は勇利からは見えない。
階段の所にいるのだろうか。
「ええ、夕飯どうすんのよ」
「少ししたら起こすよ。今日はミニカツ丼にしてあげて」
「いいの?」
「頑張ったからね」
オッケー、という声と共に、真利の足音は遠ざかっていった。
「…」
「…」
「あ、りがとうございます」
もぞもぞと僕は布団を手繰り寄せ、それを隠した。
「ね、勇利」
す、と部屋の扉が閉められる。
「良い機会だから聞いておきたいんだけど」
「…なん、でしょう」
「勇利はそういうことで調子を崩す方?」
「そういう、とは」
「性欲が溜まると、スケートに影響が出るのか。上手くいくとか、逆に集中できない、とか」
「ええっと…」
こういう時はすぐに出て行くのでは?とか、こんな時もスケートの話なのか、とか。
そんな事をぐるっと考えながらも勇利は答えた。
「あまり、意識した事無かったです」
「ふうん」
「ダイエットすると、結構溜まり易いですけど」
「そうか。そういう時どうするの?」
「どう、って」
「恋人はいるの?それともプロと?」
「っ!」
「以前はこの質問、はぐらかされちゃったけど。恋人がいるなら、デートする時間も大事だからね」
「…いない、です。プロとかもあれなんで、自分で」
「…そうか」
「はい。あの、そろそろ…」
「ああ、つらいよね。ごめん」
「…ヴィクトル?」
ぎし、とヴィクトルは勇利のベッドに膝を乗せた。
す、と美しい顔が勇利の目の前、触れるか触れないかの位置で止まる。
「な、に」
戸惑う勇利に、ヴィクトルは低く小さく、その滑らかな声を響かせた。
「勇利は、人肌が恋しい時はない?」
「っ…!」
ヴィクトルは僕の手を取ると、自身に触れさせた。
「今日は勇利に興奮させられっぱなしだよ」
それは勇利と同じく、大きくなっている。
「えっ、ちょ、なんっ」
「今日のスケーティング、凄く素晴らしかった」
「あ…」
スケーティング?
僕の演技を見て興奮した、ということ?
寝不足の頭では上手く思考が働かない。
ヴィクトルはそんな勇利を知ってか知らずか、更に距離を縮めてきた。
「ね、勇利。俺の事、もっと知りたくない?」
ふわり、と眉間にヴィクトルのまつげが触れる。
(そ、ういう言い方は、ずるい…)
触れそうで、触れない距離。
ヴィクトルの熱だけが伝わってくる。
どこを見たら良いか分からず、何をして良いかももう良く分からない。
勇利がそんな事を思っていると、ヴィクトルは勇利の布団を払いのけた。
そうして勇利の屹立したものの先端に指を置く。
一滴の欲を、指で先端に塗りこむように動かした。
「…っ、ヴィ」
「ね、勇利」
勇利は屹立したヴィクトルのそれに触れたまま、手を離す事も出来ないでいた。
すり、とヴィクトルは勇利と眉間をすり合わせてきた。
「…っ」
ギシ、とヴィクトルが勇利に近づくと、勇利はヴィクトルの欲をより強く手のひらに感じた。
「っぁ!」
きゅ、とヴィクトルにそれを握りこまれ、勇利は声を上げる。
続けて動かされ、堪らず勇利はヴィクトルの両腕を掴んだ。
「あ、は…」
人の手の温もり、が、気持ち良い。
「…」
ヴィクトルは勇利の太ももの上に座り込み、自身のそれを取り出した。
二人のものは、ヴィクトルの館内着の裾に隠されて勇利からは見えない。
「…っ!」
手、とは明らかに違うものが、勇利のそれに触れる。
「んっ、ぁ」
「…ふ、んっ」
ヴィクトルは二人分のものを握りこみ、手を動かし始めた。
濡れた音が、部屋に響き始める。
ヴィクトルは勇利の肩に額を乗せた。
勇利の耳元で、ヴィクトルの荒い息遣いが聞こえる。
「んっ」
「あ、あっ、は…」
「っ、」
ヴィクトルの甘く蕩けた声に、耳からも欲情して勇利の欲は一気に高まっていく。
「ぁ、ヴィ、僕、もうっ…」
「おれ、も…っ」
「んんんっ…!!」
勇利は一気に精を放った。
ヴィクトルはまだのようで、勇利の精が放ち終わったのを見届けると、自身のそれを手に握りこむ。
「んっ、ふ」
荒い息の中、ヴィクトルの自慰を見せ付けられて。
「…ゆうり?」
ヴィクトルの手に、勇利の手が触れた。
「僕にも、させて」
「っ、んぅっ、ぁっ」
「っ、こ、う?」
「んんっ、そう、いい、よ」
勇利の手の動きに合わせ、ヴィクトルの息が荒くなる。
(こ、んな風に、なるんだ…)
館内着の隙間から覗く白い肌はほんのりと赤く染まり、頬と同じ色をしている。
潤んだ青い瞳に、銀の髪が揺れる。
「…っ」
その欲に潤んだ瞳が、ふ、と勇利を捉えた。
勇利が見ているのに気づいたのか。
ヴィクトルの舌が、ぺろり、と自身の下唇を舐める。
達したばかりなのに、ぞくり、と勇利は震えた。
「も、少し、…んっ」
ヴィクトルの瞳は刺激に伏せられた。
勇利の心臓の高鳴りだけを残して。
「ぁっ、っ、っ!」
「…!」
ヴィクトルの精で、勇利の手は濡れた。
「勇利、勇利!」
ボスボス、と部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「んぁっ?」
「起きた?」
「ん、んん」
「片付かないから、夕食食べちゃって」
「わかった」
ドア越しに真利と会話をする。
部屋の中は、もう暗くなっていた。
(…夢?)
一体どれ位寝ていたんだろう。
部屋の明かりをつける。
別段変わった所は無い。
ヴィクトルもいなかった。
「…」
そろり、とゴミ箱を見る。
中には何も入っていなかった。
「…ゆめ、かなぁ」
ぼんやりと、勇利は部屋のドアを開けた。
下に降りると、ヴィクトルは丁度夕食を食べ終わった所の様だ。
「Hi、勇利」
「…う、ん」
普通にヴィクトルに話しかけられ、勇利は拍子抜けした。
(やっぱり、あれは夢、だったのかな…)
ヴィクトルの側に座ると、真利が丁度夕食を運んできた。
「結局私が起こしたじゃん」
「だって勇利、何度呼んでも起きなくて」
そんな会話を聞きながら、目の前にある食事に勇利は気をとられている。
小さいサイズだけれども、カツ丼がそこにあった。
「カツ丼…」
そう呟くと、真利もヴィクトルも勇利の方を向いた。
「今日はユリオに勝ったからね」
「…」
「また食べようね」
「…はいっ」
そう言って、食べ始める勇利を見て、真利は笑ってその場を後にした。
「さて、俺は風呂に行こうかな」
「いってらっしゃい」
ヴィクトルはゆっくりと立ち上がる。
勇利は、ぽん、と肩に手を置かれた。
『 』
耳元で何かを囁いた後、ヴィクトルは部屋を出て行った。
勇利はもぐもぐと食べながら、単語の意味を考える。
「…!うまか〜!!」
美味しいカツに、考えるのを放棄した。
(あ、そうだ。太もも、だ)
食べ終わってお茶を飲んでいるとき、勇利は、ふ、と先程のヴィクトルの言葉の意味を思い出した。
「…」
ぺろり、と服を捲ってみる。と。
ひとつ、右の内腿の辺りに、ほんのりと赤い痕、が。
(これって、いわゆる、あの、き、きす、まー…)
ごしごしと擦ってみても取れる気配が無い。
「勇利?」
「うわっ、あのっ、ごちそうさまでしたーっ!」
「?」
真利に声を掛けられた勇利は、飛び上がるようにして部屋へと駆け戻っていったのだった。
end