Story

□続・ヌ○ロ撮影風景
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「う、わあ」

出来上がった写真達がPCの画面にずらりと並んでいる。

(凄いな、さすがプロ…)

モデル経験の無い自分でも、それなりに見える。

「好きなのを、一枚選んでください」

「えっと…」

カメラマンにそう言われて、正直良く分からなくて悩んだ。

「んー」

「あ、俺これがいい」

横に居たヴィクトルが指差したのは、外を歩く僕の写真だった。

画面をタップすると、それは大きく表示された。

「ダッさ」

その写真を見て、ユリオはストレートな感想を言う。

正直、僕もこの写真は格好良い部類には入らないと思う。

雑誌にも相応しくないような…。

「そう?これ勇利らしさが一番出てるよ」

ヴィクトルは続けて話し始めた。

「撮影、ちょっと困ったな、って顔」

「あ、う」

まったくその通りだった。

自由に過ごして、と言われてもなかなか上手く行かずに撮影は進んでいったのだ。

「こういう顔、ストレートに出来ちゃうのって勇利らしいよね」

「できちゃう、っていうか、なっちゃう、っていうか」

「うん。決め顔、って感じじゃないのが凄く好き」

「そ、う?」

「俺は逆に、こういうのが苦手だから」

「ふうん」

どれを選んで良いのかも分からないし、それならヴィクトルが好きだと言ったものでいい。

そんな思いから、僕はその一枚を選んだ。

「ヴィクトルは…わあ!さすが」

並べられた写真のどれをとっても、素晴らしい。

「ね、勇利はどの俺が良い?」

「…。これ、背景がぼやけ過ぎ。これはもう少し引きで見たかったな。これはジャケットの裾がちょっと。んー」

「…ヴィクトルの事だと言えるんだな」

ユリオが呆れた声を出した。

「あ、これ、かな」

「これ?」

「うん。ヴィクトル、とても気持ち良さそうな顔してる」

「ああ。丁度風が心地よくてね」

「スーツも綺麗だし。エッフエル塔かな?背景もバランス良いし。格好良いヴィクトルも良いけど、優しい雰囲気なのは珍しくて良いね」

「そう?」

「うん」

「これ好き?」

「うん!」

「じゃあ、俺はこれ」

何だか微笑ましい二人に、スタッフから笑みがこぼれた。

「ユリオはもう決まったの?」

「適当で良いだろ、そんなもん」

「どれどれ…。ワオ」

緊張しているのか、表情が硬い。

真っ直ぐ立っているだけのものだったり、下からこちらを睨みつけている…メンチを切る?ようなものだったり。

「ユリオ、何かいやな事あった?」

「うっせ!そんな顔になっちまうんだよ」

「ユリオはもう少し、笑顔の練習した方が良いね。今度のプログラムのテーマそれにしたら?」

「うっせジジイ」

「あ、これ…」

勇利がひとつの写真に目を留める。

「ああ、これはいいね」

ヴィクトルも、同じ事を思ったようだった。

「…いつ撮ったんだ、これ」

ユリオがカメラマンに尋ねると、カメラマンは少し考えてから答えた。

「…多分、カメラテストの時かな」

「カメラテスト…。ああ。なんか照明とかやたら眩しかったやつだ」

勇利は目を輝かせた。

「これ、いいよねヴィクトル」

「うん。とても自然。洋服の雰囲気も出てる」

二人に褒められて、ユリオの頬は一気に真っ赤になった。

「じゃあ!それでいいだろ!!」

そう告げると、ぷい、と向こうを向いてソファの方へ戻ってしまった。

「素直じゃないな、まったく…」

「でもこれ、本当に凄い。このブランドの専属になっちゃったりして」

「ね、勇利」

「何?」

「俺よりユリオの方が格好良い?」

「…!」

あ、これはあれだ。

そう思い勇利はとっさに言葉を考える。

「そんな事ないよ。ヴィクトルが一番だよ」

「でもユリオの方褒めてた」

「意外だったから色々言っただけだよ」

「俺に意外性は無い?」

ああ、これはもう…。

「僕、ね。さっき思った事があったんだけど…」

「うん。言って?」

「ヴィクトルのこの写真、大きく、そりゃもう一番大っきいサイズに引き伸ばしてもらって、部屋に飾りたいな、って…」

勇利はヴィクトルの瞳を覗きこむ。

「…勇利」

「後でスタッフさんに頼もうと思ってたんだ」

そうして、少し恥ずかしげに目をそらした。演技構成点がつくならば、きっと満点の仕種だったろう。

「それくらい、貴方は格好良いよ」

「そうか…」

ヴィクトルは勇利の手をそっと掴んだ。

「彼のために、特大サイズのを一枚くれるかい?」

きらりとした瞳で、ヴィクトルはスタッフにそんな事を告げる。

「あ!二枚!二枚で」

と、勇利が更なる催促をしてきた。

「なぜ?」

「…保存用に」

「Oh…」

見つめあう二人に、カメラマンは苦笑しながら「YES」と言った。

お互いに演技でもあるが、本心でもある。


皇帝も魔性も、恋する男となればこんなものである。







後日、あの写真を飾った家の廊下の画像が、ヴィクトルのインスタに上げられたとか。



end
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