連載のブック

□オタカラ
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「こちらから音がします。少し待ってから行きましょう。え?聞こえませんか?」
「壁の向こうで足音がします。部屋…いいえ廊下。え?歩き方でなんとなく…」
「私が声を出して誘導するのでそのスキに行ってください。私はあのシャドウになってみます。え?見た目だけならできると思って」




「あの…ディーヴァ」
「はい?」
「いや、なんかすごいな…」
「そんなことありません。皆さんに頼りきりです」

ディーヴァが仲間になってからというもの、パレスのシャドウの遭遇率がうんと下がった。

「よく音なんか聞こえんなー俺ぜんぜんわかんねぇ」
「私も」
「私も普段そこまで聞こえません…でも、この世界ではよく聞こえます。ペルソナのおかげなんでしょうか?」

みんなが首をかしげるが助かっているのでそんな感じなんだろうという気持ちで終わった。

「アーティストとして、やはり耳は肥えているな」
「どうでしょうか?確かに普段から音は逃さないようにしてはいますが…」
「怪盗にとって必要なスキルだな!オマエらも見習えよ?」
「猫だからよく聞こえるもんな、お前」
「ネコじゃねーーーっ!!」

今までの攻略より緊張感がないがこれも彼女のおかげなのだろう。するすると歩いて、無事に最奥までたどり着けてしまった。

「この部屋か?」
「地図でもここが一番奥のはずだ」
「音はするか?」
「いいえなにも…ただ…」
「?」
「扉がまるで…あの人の部屋みたい……」

彼女はおずおずと、しかししっかりと扉に手をかけてゆっくりと開ける。
中は、ドラマでよく見る社長室。

金も、金も、何もない。どこにも欲が見えない部屋だった。

「なんか…いままでよりなんもねーんだな」
「一般、という言葉が似合う部屋だ」
「…………いいえ」

コツコツとヒールを鳴らして、ガラス張りの棚に近寄り、開けた。

「なっ」
「…」

中は目をつむりそうなくらい眩しい物から近寄らないと見えない物までサイズも色も文字も様々な勲章や象。

賞。

「これは…」
「…」
「なによ、この数…」
「これ、全部オマエがとったやつか?!」
「……」

彼女は答えない。

「…だが、オタカラはこれじゃないな」
「あぁ……モナが反応しない」
「ワガハイを探知機みたいに言うんじゃねー!」
「…これが、宝じゃない?」

やっとディーヴァが言葉を発した。

「オタカラはそいつが狂った原因なんだ」
「でも、これを大事にして…あの人もこれを気にしてて……」
「オタカラってね、形が見えないの」
「見えない?」

オタカラとは、パレスの主が警戒して初めて形になること。形にならないと盗めないこと。オタカラの形は光っていること。

「そうだったんですか…」
「探そう」
「それなら、もう一つだけ、部屋があります」
「もう一つ?」
「この部屋はあの人の社長室そのものなんです。それなら、あの部屋だってあるはず…」

再び歩き始めたディーヴァは一つの棚の前に立ち、手で押さえて横にスライドさせた。簡単に棚は動いてしまったのだ。

「えぇっ!?」
「これは…」
「…隠し部屋です。最近知ったので私も入ったことはありません」

扉は錠前型の鍵がかかっており、開けられそうにはない。

「鍵!?」
「ここに来て古典的な…」
「どうする?班目の時みたいにやる?」
「前はごまかしていたが、今度は隠されているものだ…不用意に開けて彼女が無事な補償はない。身元も、保証もすべて奴が握っている」
「ここに入ればいいじゃねーか」
「ディーヴァの家族も危ないって言ってんのよ!」

やいやいする中で本人のディーヴァは錠前を眺めて指で触り、指で弾いたりしていた。

「ディーヴァ?」
「少し、試したいことがあります。静かにしていただけますか?」
「あぁ…皆」

ジョーカーの声に皆が反応し、静かに少し離れてディーヴァを見つめた。
彼女はしばらく錠前を触って、声を出し始めた。

音を確認するだけの声。
だがそれをずっと同じ音、同じ距離で錠前に聞かせた。



    
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