連載のブック

□アイリーン
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「……そう、あの世界があの人の本心なのね…」
「本心というか、歪んだ欲望っていうか…」
「オイ、今度はこっちから質問いいか?」
「…猫がしゃべってる!!」
「ネコじゃねーよ!」
「えっこれも認知のせい?」
「聞けよ!!」
「あぁ、モルガナが話せると認知したからだ」
「モルガナ…?確かに、人間とは思えない生き物がいた気はしたけど…」
「もしかして、見てねーの?」

モルガナは小さくまして全身が黒い。あの状況で確認するほうが無理な話だろう。

「てか、今はワガハイのことじゃねぇ!!」
「あーそうだったそうだった、名無しのさんはどうしてあの世界に行ったの?」
「携帯に変なアプリが入ってました、あなた達の携帯に入ってるアプリと同じ…」
「!?まて、いつ見たんだ」
「通りすがりに見ました、いつもビル前で囲って下を向いていたしそこに集中してたから近寄っても平気でした」

今後の改善点を頭の隅に置きつつ、話を更に続ける。

「じゃあ、消えるところも…」
「はい」
「うわぁ…」
「だが、あれは特定の言葉が必要になる…」
「それもあなた達から」
「いつ!?」
「様子を見ていた時です。場所と、名前と、そこをどう思っているか…あなた達が『どう思っているのか』で悩んでいた時、もしかしてと思ってヒントを出してみたんです」
「ヒント?」

杏が首をかしげた。

「聞こえませんでしたか?鶏の声」
「あぁーすげぇ不自然で記憶にあるわー……え?あれ?」
「何故知っている?」
「あれは、私の声です」
「はぁーー!!?まんま鶏だったぞ!!嘘だろ!?」
「俺にも教えてくれないか?」
「おめーはもうちっとなんかあんだろ!?」
「しかし、先ほどからの言いぶりだと初めから知ってたみたいな感じだな…」
「……そう、私は知ってました、貴方たちの顔も人数も名前も…」
「でも、祐介ならともかく私たちは初対面だったはず…」
「変装してたから」
「は?」

そう言ってカバンから化粧道具と小物、ウィッグ類を取り出す。

「これは…」
「簡単な変装グッズです。これだけでも顔は変えられるし、ぱっと見じゃわかりません」
「いやいやいや無理だろこれ!!」
「やってみましょうか?」
「え?」

名無しのは道具を選び、鏡を取り出してその場でメイクをしていく。全員がじっとそれを見つめているが彼女は気にせず完成させていく。数分で化粧をやめてウィッグを取り付け、最後にメガネをかけた。

「あれ、どっかで見たような…」
「依頼してきた子じゃん!えっウソ!?」
「けど、変装だろ?ワガハイたちそんな騙されるほどバカじゃねーぞ」
『こ、これでも信用していただけませんか…?』
「………声、どこから…」
『もちろん、私からですよ』

たった数分で別人になってしまった名無しのに唖然とし、全員が見つめた。何より驚いたのは声の違いであった。

「まんま同じじゃねーか…」
「同じというか、私が作った人間だから同一人物…ってことになるのでしょうか」
「あの子は、君なのか?」
「はい」
「なるほど…違和感はそれだったんだな」
「喜多川さんを騙せるかどうかはちょっと不安でした」

祐介は腑に落ちた顔をして納得し、名無しのは苦笑いで答える。

「君をモデルに選んだ時も、見かけるときも隣には誰もいなかったからな、そこで相談できるほどの友人がいたということに違和感があった」
「やっぱり、観察眼はいいですね」

ウィッグを取り外した。それから続けて話す。

「あの会社のアーティストは、実在しません。全部私の声なんです」
「え?え!?全部って…所属してたアーティスト全部!?」
「はい」
「待てよ!男の声もあるだろ!いくらなんでもそんなことできるわけねえって!」
「ごめんなさい、私なんです…そうですね、今のあなたの声を出してみましょうか」
「へ」

咳払いをして喉の調子を整える。

『こんな感じでどうだ?』
「えー!?俺だ!」
『もちろん皆さんの声を真似ることもできます』
「ちょっ気持ち悪い…」
「言ったの俺じゃねぇよ!」
「信用していただけたでしょうか?」
「なるほどな、その特技でアイツに脅されてたってわけか」
「…あの人に見つけてもらって、アーティストに必要な教養もレッスンもすべて受けさせてもらいました。でも、だからって人の声を使うなんて…」
「人の声を使う?」

カランと氷の入った水が音を立てる。

「オーディション、不思議に思ったでしょう?」
「あぁ…まるで面接みたいなものだった。かといって履歴書は必要ない…」
「当然です、あのオーディションは売れる声を見つける行為。その人の経歴なんてどうでもいいんですから…」
「売るための声…」
「私の声を知った彼は、声を見つけてその声の真似をして歌えと言ってきたんです…その人が書いた歌詞も曲もところどころ手を加えて、まるで自分が作ったように偽装したんです」
「パクリじゃねーか…」
「初めは、この声と歌で進んでいくんだと思ってました。でも次に渡されたものは別の声と曲…それを永遠に繰り返してきたんです」

うつむき、手を握る。

「警察には?」
「…言えません、つてがあるんです。言ったところでもみ消されるだけ…声の持主も同じです…先に世にでてしまったほうが勝ちですから、いくらあれが自分の曲だと訴えても信じてくれない。なによりそんな証拠はない……」
「サイテー…」
「奪ってしまった罪滅ぼしにと、彼らの歌を必死に歌ってきたけど、そんなのエゴでしかない。どんなに気持ちを込めても作った本人の気持ちなんかわかりっこない…本当の意味で歌を届けられない。それが私には耐えられなかった……だから、掲示板に、賭けたんです」
「その賭けは正しかったな」
「おう!夢を横取りしてくなんてサイテーなヤローは俺たち怪盗団が相手してやるぜ!」
「…その、怪盗団のことでお話が…その、私も入れてもらえませんか?」

やっと顔をあげて伝える。

「ずっと仲間にしてくれなんて言いません!せめてあの人を止めるまででもいいんです!お願いします!足手まといにはなりません!」
「……願ったりかなったりじゃねーか!これでパレスの攻略ができるってもんだぜ!」
「…え」
「歌に対抗できるなら心強い。耳栓をしなくて済む」
「ていうかあれ壊れたしね!」
「あぁ、名無しのさん、よろしく頼む」
「…はい、これからしばらくよろしくお願いします!」

怪盗団に新たなメンバーが入った。



     


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