連載のブック

□アイリーン
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「うぅっ…うううああっ!!!」

引きちぎるように両手で仮面を剥がし、どす黒い血が飛び散る。それはやがて青い炎となり彼女を包む。大きく広がった炎はかき消されるように乱れて、包んだ少女の視界を開けた。

「名無しのさん…」

全身黒のレザーパンツに高いピンのロングブーツ、上半身はシルク生地にフリルやレース、腰からは後ろにかけてドレスのように広がる布がふわりと浮いていた。体のラインがぴったりと出る形だが、彼女はそれを着こなしていた。

「私、歌が好き。私の歌で誰かが元気になることが嬉しい。ただそれだけだった。それでよかったの…!」

コツコツと靴を鳴らせて近寄る。後ろからまた炎から生み出た彼女のペルソナが姿を現した。
こちらは完全なドレスだが靴が鮮やかな赤ではなく血色のもの。歩くたびに血しぶきがあがり地面を汚した。人形のように動かない真っ白い顔と頭から垂れ下がる黒のレースがより不気味さを増していた。

『な、なんだ…これは…!何をした!!』
「お前に本当の歌を聞かせてやる!」

彼女が息を吸い、天をあおぐ。
声を高らかに口から吐きだす。

「       」

歌が響いた瞬間、空気も雰囲気も何もかもが変わった。部屋が一瞬でコンサートホールのようになったのだ。

「……すごい…」
「にゃ!?な、なにが起きたんだ!?」
「…え、名無しのさん?」
「ジョーカー、何が」

彼女が歌い始めて、メンバーが目を覚まし始めた。認知の彼女が歌う声とは真逆で、聞き入り、魅せられ、温かい。

「何がどうなってんだ!?てか、歌めっちゃうま!!」
「歌手なんだから当たり前でしょ!っていうか、あれってペルソナ!?」
「彼女もペルソナ使いだったってワケだな…!」

立ち上がり、状況を飲み込みはじめた。そして逆に座り込んでしまった相手を睨む。

『耳障りだ…!!オイ何してやがるさっさとかき消せ!』
『   』

彼は檻を蹴って催促する。彼女は再び歌い始めたが、怪盗団の耳には入らない。

「ぜんっぜん聞こえねぇ!つーか逆に元気でてきた!」
「これも能力か…?」
「とにかくチャンスだ!」
『このドブネズミ共がぁ!!』

「お客様、よそ見をしたら勿体ないんじゃない?」

メンバーに視線を向けた相手に彼女は妖美に笑って言った。

「さぁ、私から目をそらすんじゃないわよ!!」
『な、なに!?貴様!!奴らをどこへやった!!?』
「えっなっなに!?」
「…まさか、ターゲットを自分に向けたのか!?」
「無茶な!」

部屋にいる全員が彼女を見た。すでに攻撃は始まっていた。

「やめろ!!」
「 」
「無理よ!お願いそんなこと…」
「…私はアーティスト、他人なんか視界に入らないくらい魅せなきゃ意味ないのよ!それに、私にはこれくらいしかできないしね」

名無しのは今まで見せなかった別の笑顔で怪盗団に言った。そして足と手を位置づけてリズムに合わせて歌い、踊る。背後のペルソナの口から歌と楽器の音が流れ、上半身を動かして部屋全体に音を響かせる。

「あいつがくれたチャンスだ!!オメェら逃すんじゃねぇぞ!」
「!…そうだな、このまま見てたらあいつが死んじまう!」
「なら、私たちは邪魔をする敵を倒す!」
「イベントの邪魔はマナー違反だ」
「あぁ、蹴散らすぞ!」

怪盗団の快進撃がはじまった。

「踊れ!カルメン!」
「奪え!キッドォ!」
「蹴散らせ!ゴエモン!」
「意を示せ!ゾロォ!」
「アルセーヌ!」

ペルソナが一斉に攻撃するシャドウを追いかけて潰していった。次々にでてくる敵を近づけさせまいと一匹残らず応戦していく。やがて、認知の彼と彼女だけになった。

「っしゃぁー!どんなもんだ!!」
『ひっ…ひええっ!』
「あっ逃げた!!」
「追うぞ!」
「まて!彼女が…」
「     ……もう、貴方しかいないのね」
『…』

歌をやめた名無しのは檻に残された彼女に近づいた。おいて行かれた自分を見つめて、それから黙って倒れるように座り込んだ。

「!」
「…私、これっぽちの人間だったんだね……」
『私は、ただの人形よ、それ以外のなにものでもないの』
「そう、なの…」
「大丈夫!?」

座りこんだ彼女を心配してみんなが近寄る。

「ごめんなさい…ちょっと、疲れちゃって…」
「パレスから出よう」
「立てる?」
「ええ…」

パンサーに支えられながら立ち上がり、ふらふらと歩き始めた。全員が彼女を気遣いながら出口へとすすみ、パレスを抜け出す。

「……??ここは…?」
「現実、とりあえずいろんなこと聞きたいけど…今日は帰ったほうがいいかな…?」
「あぁ、説明なら後日でも…」
「大丈夫、聞かせて、あれは何?」
「……わかった、どこかに入ろう」

そのまま歩き、近くの喫茶店に入る。
それから、今までのこと、世界のことをすべて話た。



    
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