連載のブック

□足りない計算
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・どうだった?

早速とんできたチャットに返事がかえってくる。

・何にもでてこない
・知り合いに聞いてみたりしたけど、そんな話聞いたことないって
・俺も調べたが異常なものは見つからない

会社のホームページ、アーティストのサイトまで回ってみたがもちろん変な情報があるわけでもなく、ネットの評判や会社の対応などを見ても悪評がある様子はなかった。

・ネットじゃ無理かー
・見えるところにはないだろう
・別の知り合いに聞いてみる
・祐介ほかになんかねーの?
・学校で彼女に会うことはほとんどない
・デビューしてから学校も休みがちでいないらしい
・え?学校がそれ許してるの?
・元々音楽で伸びしろがあった人だ、ある意味特待生のような扱いをされているのだろう

ピッピッとチャットが更新され、話がどんどん進んでいく。

・やっぱり知らないって…
・だめかー
・明日、また行ってみよう

その足で確かめるしかないようだ。暁の言葉に全員が頷いた。




翌日、再び同じ場所に集合して様子をうかがう。

「何も変わらないね」
「なぁ、中に入ったほうがいいんじゃねーか?」

モルガナがもっともな言葉を吐く。ここでじっと見ていてもらちが明かない。それにオーディションをしているということは中に普通に入れるということだ。ならば中に入らない理由はどこにもなかった。

「けどよぉ、俺たちオーディションなんか受ける気ねーぞ?」
「受けるフリをすりゃいいじゃねーか」
「落ちてもいいしな」

あくまで調査とヒントを得るためのものであり、本気でアーティストになる必要はない。

「入るか」

ずいと足を踏み入れて扉の中へと消えていく。ビル内部はとくにこれといった異変はないが、やたらと人が多かった。

「これ、全部オーディション受けるひとたち?すごっ」
「ライブでもやんのかこれ?人いすぎだろ!」
「話しを聞いてみるか?」
「そうだな」

メンバーは暁と杏、竜司と祐介がそれぞれオーディションを受けにきたであろう人たちから話を聞くことにした。

「オーディションに受かって有名人になるんだ!俺は歌に自信があるからな!」
「受付ならもう終わってるよ、ここは待合室みたいなものさ。オーディションはそこの部屋でやっているよ」
「オーディションには何回も受けにくる人もいるんだ、あそこの人も何回も見てるよ…え?僕?…あはは」
「このオーディションは社長が直々に行っているそうよ。あぁ、そう考えると緊張してきた…」



「どうだ?」
「そんなにいい話はきけなかった」
「こっちも…オーディションに関してのことしか何もなかった…」
「目立った悪評もヒントもなしか…よわったな…」
「モルガナ、お前侵入して中の様子みにいけねーの?」
「んなもんオマエラが聞き込み中にやってたさ!でも、窓なんかなかったし出入り口はあそこの扉だけだ」

ならばそこから入るしか方法はない。

「…やる?オーディション…」
「ほかに方法がない」
「それ、誰がでんだ?」

皆が皆じっと一点を見つめる。

「…えっ…またあたしなの?」
「だって女で見た目がいいし…」
「俺は歌は歌えない」
「モルガナは連れていっていいぞ」
「もちろん!ワガハイがキチンと守るぞ!」
「べ、別にこれ!私じゃなくてもいいでしょ!?全員で行ったって平気なんでしょ!?」

前回で大変な思いをした杏は拒否をし続ける。今回は失敗すれば助けを呼べる状態ではないため、モルガナを連れたとしても不安は残るのだ。

「じゃぁほかに誰か連れてくか?」
「それなら、まぁ…」

あまり気のりはしない返事をしてしぶしぶ納得した。そこで誰を道連れにするのかを彼女は消去法で決めて暁にした。なんとも複雑な気分である。

「ならば明日だな」
「受付時間に間に合うのか?」
「放課後走っていけばギリギリ間に合うだろう」
「うぅー…」

パレスがあるとわかっている以上引けないわけだが、それでも嫌なものは嫌なのだ。杏はしょぼくれ、暁は妙な緊張感に襲われながら帰宅した。





翌日は放課後杏と暁が走ってオーディションを申し込み、近くの椅子に座っていた。

「よう、どうよ調子は」
「あんた他人事だと思って…」
「オーディションの内容はどんなものなんだ?」
「それが…特に何もないんだ」
「何もない?」

必須項目や履歴書、その他にも何かあるはずだが、特に何もないというのだ。どういうことなのかと全員が首をかしげる。

「一体何をするつもりなんだ…」
「でも特に何かされるわけじゃないと思う」
「中で何をしているのかちゃんと見てきてくれよ?」
「あぁ」

しばらく待機していると受付時にもらった番号を呼ばれ、二人は扉の中に入っていった。



   
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