連載のブック

□小さい噂
1ページ/2ページ

    



それは一つの書き込みからだった。

「友人が脅されているから助けてほしい。お返事をいただいてから直接会って説明します。どうかよろしくお願いします」


「これは?」

掲示板を見せられた暁が掲示板の管理人である三島に聞いた。

「最近の書き込みなんだけど他の書き込みと違って詳しい内容がかかれてないんだ、でも脅されてるって書かれてたし。かなり短い文章だから何かあると思ってね」
「それで?」
「返事をしたら一方的に待ち合わせ場所と時間帯を押し付けられてそこから返事がないんだ」

「原宿駅前。翌日18:00に赤い鞄に黒猫のぬいぐるみをつけてお待ちしています。」

文章を見て暁は三島に適当に返事をして席に戻り、全員にチャットを送る。


・掲示板のあれか
・要件だけなんて怪しすぎない?
・でもよ、脅されてるってのが本当ならヤバいんじゃねーの?
・そうだけど…

あまりにも短い文章にほかのメンバーは疑問を抱いている。暁もそうだった。

・すまん、読むのが遅れた。

ここで新しいメンバーの喜多川祐介がチャットに加わった。

・おせーよ
・一応授業中だからな。
・まぁね、で、祐介はどう思う?
・確かにこれだけでは怪しすぎる。
・だが、無下にもできないだろう。
・どうしよう暁
・会うだけ会ってみたらいいんじゃないか?

もちろん、一人ではなく全員でだ。スルスルと画面をスライドして文字を打ち、返事を待つ。

・まぁ会うだけ会ってみても遅くはねーよな
・本当だったらほっとけないもんね
・俺も特に意見はない

全会一致で目的の場所に集合となった。これが嘘だったり嫌がらせ類のものであったら三島のほうにも言っておかねばならないだろう。








「駅前だったよね?」
「そのはずだ」
「黒猫のぬいぐるみと赤い鞄だったか、目立つ持ち物だな」

時間通りに場所にたどり着いたメンバーはその目的の人間を探す。人混みの中から赤い鞄を探し、黒猫を探す。

「あ、オイあいつじゃね?」

竜司が一人の人間を指さした。肩にかけられた赤い鞄にかわいらしい黒猫のぬいぐるみ。さらに周りをキョロキョロと見回していて明らかに誰かを探していた。

「あの」
「っはい」
「この掲示板に書き込みしたのは、あなた?」
「…はいそうです」

杏が声をかけたのは眼鏡をかけ、二つの長い三つ編みを前に流すいかにも地味な優等生のような女子高生だった。

「えっと私たちが待ち合わせの相手なの…」
「…あのっひ、一人じゃないんですね…」
「あぁまぁ…ガセネタとかだったら、こっちもたまったもんじゃないから」
「そ、そうです、よね…すみません」

内気な子のようだ。杏のうしろにいる男子、特に竜司にビクビクしていた。

「君、洸星高校の生徒か」
「へっ…そ、そうで…す…」

同じ学生である祐介が声をかけて彼女に確認をとる。彼女は祐介の顔を見て驚き、下を向いて質問に答えた。見覚えはあるようだ。

「ってことは祐介のこと知ってる?」
「その、特待生だって…」
「なるほど、有名人だなお前」
「…」

竜司の冷やかしに無言で答える祐介は少し考えるそぶりをしていた。

「いい加減本題に入らないとね!あの掲示板の…」
「私の友達が脅されてるんです!もうあの子じゃどうにもできないんです!」

今までのおどおどしていた雰囲気から一変して杏にすがるように叫んだ。

「あっ…す、すみません…ここじゃ、ちょっと話にくいので…ど、どこかに入ってもいいでしょうか…」

彼女の表情からするにどうやら本当のようだ。メンバーは頷き、近くのカラオケ店に入った。

「あの、私の友達、名無しの名無しさんって言うんですけど…」

そう言いながら彼女はスマホの写真を皆に見せる。

写真には笑って写る彼女と少し微笑んでいる綺麗な女性の姿があった。おそらく名無しの名無しさんという女性だろう。

「この人は…」
「あ、喜多川さんはご存知、ですよね…」
「あぁ、はっきり覚えている」

すると一瞬で祐介の顔が歪んだ。

「どんな関係なんだ?」
「誤解を生むような発言すんなよ!」

暁のワザとじゃない発言に竜司が突っ込みをいれつつ祐介の言葉を待つ。

「彼女は音楽の才能を持った天才だ」
「音楽?」
「はい…名無しさんは音楽が得意で、特に、歌が上手いんです」
「確かコンクール、いや歌手デビューしているとか噂で聞いたんだが…」
「うっそ!マジで!?」

杏が驚いて写真の名無しさんを見つめた。

「そうですね…前から歌手になるのが夢だって言っていて、その、駅前で歌ったりとかしてまいました…」

デビュー前は路上ライブ、会社にも面接に行っていたようだ。しかし、ある日突然音楽会社の社長から声をかけられたのだという。

「最初は見たことも聞いたこともない会社だったから不安だったみたいで…私に相談してくれました、コズミックという会社です…」

彼女の言葉に杏が反応する。




    
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ