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□崇拝
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「暁はいい人だね」
「そんなことないよ」
「いい人だよ」

暁は笑って名無しさんに答えた。

「いい人っていうのは名無しさんみたいな人を言うんだよ」
「そうかな」

不思議そうに彼女は答える。暁は変わらない笑顔で答えた。

「俺はそう思うよ。でも名無しさんが俺のことをそう思ってくれてるなら嬉しいな」
「思ってるっていうか、事実なんだけどなぁ」

のんびりと暁を見つめて笑う。暁は目を伏せて自分の手を見た後に彼女に微笑んだ。

「そっか」
「ふふ、私は幸せ者だね」
「そうかな」
「そうだよ、だって暁と恋人なんだもん」

少し恥ずかしそうに、幸せそうに彼女は言う。暁は目を少し見開いて、それからへらりと笑った。

「そういってくれると俺も嬉しい」
「暁も、もっとみんなの前で笑えばいいのに」
「笑ってない?」
「んー…なんだろう、さっきみたいに笑ってないっていうか…」
「……名無しさんは、笑ってたほうがいいと思う?」
「えっ?うーん…」

名無しさんは考える。暁は人が好さそうな笑みを向ける。

「笑ってたほうがいいけど、今の笑顔は無理にしなくていいかな」
「どうして?」
「私だけの特権みたいでしょ?わがままだけど、それでいいかなって」
「そう、わかった」

暁はすっと笑みを変えて頷く。

「名無しさんは俺が笑ってくれると嬉しい?」
「え、うん」
「俺が頑張ってるのは?」
「素敵だと思う」
「俺のこと好きでいてくれる?」
「嫌いになるわけないじゃん。暁はたまに変なこと聞くね」

彼は「そうかな」とあいまいに答えた。





放課後、彼は携帯を見て手帳を取り出す。文字がびっしりと書かれた隙間に文字を付けたし、一部を線で塗りつぶした。

「…いい人か」

幸せそうに彼はつぶやいた。

「名無しさんが好きだって言ったからそうしたんだよ、君が俺を好きでいてくれるならなんだってするさ」

いいや、好きでいてくれるとかじゃない。好きでいさせるんだ。永遠に君が俺を愛してくれるように。

「はぁ……幸せだなぁ」

手帳と携帯をしまう。

「暁ー!かえろー!」
「あぁ」

彼の目が純粋に濁っているなんて誰が気づくのだろうか。




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