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□貴方のために華は咲く
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私は耳が聞こえないから、視界をよくした。人の動きに敏感になったし、口の動きで言葉の発音もわかる。それでも大人は「見なくていい」と読ませることがある。私はそれに従った。
従うしかなかった。


「……」
「…」

今、じっと壁に隠れている。私には状況がわからない、でもここに居てはいけないことはわかる。

「…」
「?」

私より前にいる黒いコートを着た男性が振り向き、手招きした。来いということだろうか。私が立ち上がると男性はさも当たり前のように私の手を握って先導してくれる。
そのクセがどことなく彼に似ている。

すると、男性が手を上げた。向かいには仮面をつけた男性が一人、女性もいる。
合流すると大勢いる中で私を見て驚いたり、彼に詰め寄るようにする人もいる。私は珍しいのだろうか。たまに足元をみる人もいるからわたしも足元をみる。すると、黒い毛が生えた…化け猫?

「…!?」
「えっどうした?」
「…!……!!」
「モナじゃない?」
「あ、なるほど…」

驚いてコートの男性を思い切り引っ張ってしまったみたい。足元の化け猫を確認して私の腕を軽く叩いて手を包んでくれた。それから少しかがみ、化け猫の頭をばふばふと叩いた。

「なっなにすんだーー!!」
「危なくないって認識させようと思って…」
「するにしてももっとマシな方法あるだろーが!!地味にいてーんだぞ!」
「ただでさえ説明が難しいのに、伝言手段がない彼女にどうつたえればいいのよ…」
「まぁ…確かにもうちょっとマシな方法はあるわね…」

呆れた顔をする人が何人かいた。この人たちが普通にしているから大丈夫なのかな。

「モナ、ちょっと撫でられてくれ」
「なっ!ワガハイそんな…あ、ふ、ふにゃぁぁ…」
「ジョーカー、その子はどこで見つけたの?」
「みんなと別れてすぐだ」
「私達に巻き込まれたってわけじゃなさそうね…」
「ということは自ら入ってきたということか?」
「で、でも、その…聞こえないんだよね?その…耳が」
「それなら俺達が言ってた言葉もわかんねぇし、そもそもこんなアプリ怖くて捨てるだろ」

この化け猫以外の皆が話し合っている。恐らく私のことなんだろう。
ところでこの化け猫、彼が連れてる猫と撫でられるの好きな場所似てるね。ちょっと、怖くない。
そしたら急に暗くなって、誰かに体を掴まれ、高くあげられた。誰?

「ちょっと!!何する気よ!」
「その人は関係ないの!」
「侵入者は全員殺せと命令されている。殺す」
「やめろ!!」

何、これ。嫌だ。怖い。離して。

「……っ!…!?」
「名無しさんっ!っぐ!?」
「ジョーカー!?」
「オイどうした!?」
「わからない…けど、何か…」
「まっまだ来る!!皆避けて!」
「なっ」

皆が黒い何かに当たってはよろめく。やめて、やめて、なにをしてるの。

「ナビ!!どうなってるの!?」
「わわわわかんない!相手の動きが変則的すぎて攻撃がわかんないんだ!!」
「嘘だろ!」
「あぁぁぁええとっこっち!?いやっあっちか!?」
「ネクロノミコンが干渉できないなんて…」

どうして皆倒れてるの?何?何が起きてるの?やめて、お願い。やめて。

「っ…!」
「くそっペルソっがぁ!」
「動きが早すぎる!」

見たくない、やめて、やめて!助けて!誰か助けて!!

「っ!?」
「…っよせ……!」

……駄目、見えなくなったら何もわからない。目を反らしたら、私には何も残らない!

『そうだ、目を反らすんじゃない』
「っ!!…ぁ」
『聞こえないから視界をよくした、だが、見たくないから自分をごまかした。もうそれもいいだろう?』
「…!!」
『嘘をつくのはやめにしよう、本来のお前を見せてやれ!』
「………」
『契約、ここに成立』


「うそ…彼女が……」
「そんな…」

顔に、何かある……これを、取ればいいんだね?

「……っっ!!」

痛い、けど、もう怖くない!

『見透かせ、パークシャ』
「なっなんだなんだ!?」
「これは…目か?」
「なんで目?っていうかちょっとキモい…」

お前は私が倒す、もう彼らに触れさせない!私の視界からは逃げられない!

「っ!」
「きゃあっ!」
「ノワール!」
「何!?」
「フォックス!?ちょ、何してんの彼女?!」
「……すごい、あいつ、シャドウの攻撃がわかるのか?」
「ナビ?」

こんなに人がいたんじゃかわすのが精いっぱいっ!同時にきたら対処できない…それなら

「まて、名無しさん!」
「はやっ!つか壁走ってんぞ!?」
「なな、なんだこれ…あいつスピードが尋常じゃない…!それにこの目は…」
「ナビ!名無しさんはどうなってるんだ!?」
「そ、その名無しさんは、「目」で全部見て判断して動いてるんだ…ていうかほとんど体が勝手に動いてるような…」
「まさか…勘で全部かわしてるっていうの?」

どこか、どこかあるはず!見つけなきゃ!パークシャ…!

「いっ今このペルソナの目光らなかった?」
「え」
「こう、目からビーム出しそうな勢いで…」

見つけた!

「っ!……!」
「何をっ」

ごめんなさい!あそこに届く武器が貴方の刀しかなかったの!でもこれで…

「どあっ!」
「シャドウが、はじけた…いえ、分裂した?」
「そうか!あいつら複数が混ざってたせいで変則な動きしやがってたんだな!」
「それなら、もうナビも大丈夫だね!」
「任せろ!倍返ししてやる!」

眼鏡の女の子が張り切ってる。よかった。もう、大丈夫、そう……

「!?名無しさん!」
「大丈夫、気絶してるだけ」
「……」
「とにかくシャドウを倒して引き上げるぞ!」





あれ、ここどこ?

「っ!名無しさん!大丈夫か!?どこも苦しくないか!?」
「……?」

暁?ここは、君の部屋?

「…」
「…あっ……ごめん、こっちだよな」
「……」

大丈夫か?なにが大丈夫なの?私、あれ、私…確かここまで……あっ

「…っ……っ」
「…そうだよな、怖かったよな…」

あんな化物見たことない、あんな場所知らない、あんな、あんなこと…知らない…暁、私知らないよ、どうしよう、わからない。

「いいよ、落ち着くまで泣いてくれ、もう大丈夫だ…ありがとう…」

暁の服、ぐしゃぐしゃにしちゃう、泣きやまなきゃ。でも、あったかい。

「っ……っ…」
「いいんだ、君はあんな世界に飛び込む必要ないんだ…知らなくていい世界なんだ…」

ねぇ暁、私貴方に似た人を見たよ。行動も、癖も貴方にそっくりだったの。ねぇ、貴方はあの時、そこにいたの?

「…名無しさん……」

もしあの人が君だったなら、君はずっとあんなのと戦ってきたの?私の知らないところで、ずっと、ずっと…

「俺が、君を守るから…」

教えて、暁。貴方はあれを知っているの?

「頼む…彼女から能力を…あれが夢だと……」





貴方のために華は咲く




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