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□人形は笑う
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第一印象は人形のようだと感じた。何事にも動じず、何事にも無情で、人間らしいところが見つからなかった。
しかし、彼女が怪盗団の仲間になるなんて思わなかったし、そういうものに興味はないと思っていた。
「名無し、大丈夫か?」
「平気よ」
淡々と戦闘や会話をする彼女に誰もが最初は戸惑ったし、接し方に困った。
「名無し、怪我をしたわね?見せて」
「…平気」
「見せなさい」
「……」
しかし話して、しばらく一緒にいればなんてことはない。彼女は彼女なりに感情や考えはしっかりもっているし周りをよく見て行動している。名無しはただ顔に出にくいのだ。
「そうやって自分の怪我をおろそかにするのは悪いクセよ、いい加減報告しなさい」
「だって、こんな軽い傷皆も平気よね?」
「ワガハイ達はひどくなる前にちゃんと報告するぞ!」
「名無しは黙って軽い傷をほっといて気づいたら重症だったってよくあるから…」
「…ごめんなさい」
小さい傷をほっておけばやがて大きな傷となる。彼女なりの迷惑をかけないという行動なのだろうが、表情がわからない分気づくのが遅れてしまう。だが、これでもまだわかるようになったほうだ。
「もうちょっと頬の筋肉がうごいてくれたらいいんだけど…」
「どう、したらいいのかしら」
パンサーがもちっと名無しの頬を挟んでんで上に引き上げる。笑っているように見えるが形だけ作られたものだけに中々不気味さを感じる。
「こう、この部分を上に…」
「うへに」
「くすぐったら笑えるぞ!」
「くすぐる…こういうこと?」
「あっあひっ!わ、私じゃなくって!ひっあはは!!」
ナビのわき腹を指で器用にくすぐる名無し。この戯れを見るようになったのはごく最近のことだ。
元々彼女は人と会話をしない、誰とも付きあいのない人間だった。学校でただ淡々と毎日をすごしているように見えて、俺は怖いと思った。だが、彼女は彼女なりに苦しみ、ゆえに心を無意識に閉ざして感情を表に出せなくなってしまったようだった。
「また笑顔の練習しようか」
「えぇ」
「おイナリの笑い方はすすめないけどな!」
「オイそれはどういう意味だ」
なんとなしに心は開いたように思うが、表情はおいつかず、皆が笑う中一人笑わずに見つめる彼女はまだ、距離があるように感じる。本人いわく楽しいとのことだが。
「はいはい、そこまでにして次に行くわよ」
子供をまとめるお母さんのようなポジションになり始めたクイーンの言葉に全員が返事をしてモルガナカーに乗り込む。車内でも名無しは大人しく外の景色を眺めている。話を振られれば返事をして会話に入る。だが、自分から話しをかけているところは見たことがない。女性人には話かけているのだろうか。
あ、スカルが頭たたかれた。
「ここが最後かしら…」
「開きそう?」
「……駄目だ全然開きそうにねーぞ」
「まだ、認知が足りないのかな」
「それなら次のターゲットを探すまで」
メメントスの今のところいける最深部はここまでのようだ。それがわかり、確認し終えたメンバーは地上に戻るため再び車に乗り出す。
「…ジョーカー」
「……えっ」
聞き間違いかと思うくらい小さい声で俺を誰かが呼んだ。声の主は名無しだった。あまりにも驚きすぎて耳を疑ったが間違いではないようだ。
「えっと…どうかしたか?」
「……いつも、心配してくれてありがとう」
「えっ」
声をかけられただけでなく、お礼まで言われてしまった。どうしたらいいんだ。
「私、まだ、駄目みたい」
「そんなことは」
「でもね、大丈夫よ。ここはとても楽しいし皆優しい…」
「……そうだな」
ここはとても暖かい。俺にとっても大切な居場所で大切な仲間たちだ。
「そんな皆に、いつか笑ってありがとうって言いたいの。貴方にも」
「…」
「でも、貴方にはたくさんお世話になったから、先に言うね。本当にいつもありがとう」
「あっ」
今、彼女
「早くしろよー!」
「ごめんなさい」
「……っ!」
呼ばれた時はもういつもの顔だったけど、あの時は間違いない。笑ってた。笑顔とまではいかなくても、ちゃんと笑ってた。
「あれ、ジョーカーどうしたの?」
「なんでもない、ちょっと疲れただけだ」
顔が、熱い。
人形は笑う
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