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□消えるような本音
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「こんにちわ」
「あれ、こんにちわ」

お昼どき、明智は名無しさんに会った。一人でぼんやりと壁によりかかってちたので声をかけたのだ。

「珍しいね、一人?」
「いいえ、暁と一緒に」

彼女の返答に苦笑いで「残念だ」と答えた。

「どうして?」
「君が一人ならどこか一緒にランチでもしようかなって思ったんだ」
「あら、それなら暁も一緒に連れて行けばいいじゃない」
「いや、二人で遊びに来てるなら邪魔しちゃ悪いし…」
「…そう?」

名無しさんは少し残念そうに答える。明智は笑って、でもそこから離れずに話をしはじめた。

「うん、また機会があったら行こうね。ところで、来栖くんはどこに行ったの?」
「トイレですって」
「そっか、それじゃ待つしかないね」
「明智くんは?」
「僕は暇してたから自転車で散歩」

そのまま自転車を止めて会話をすすめる。

「かっこいい」
「ありがとう」
「いろんなところに行くの?」
「そうだね、いろんなお店とか見つかって面白いよ」
「そっか、いいなー」
「…今度一緒に行く?サイクリング」

自転車を見つめて言う名無しさんに明智は提案した。それに名無しさんは驚いて明智の顔を見る。

「名無しさんの好きそうなお店も見つけたから案内がてらどうかな」
「いいの?邪魔じゃない?」
「邪魔だと思うなら最初から誘わないよ」

名無しさんに明智は笑って答える。名無しさんも頷き、サイクリングの約束が決まった。

「名無しさん」
「あ、おかえり」
「やぁ」

名無しさんのうしろから暁が帰ってきてすぐに明智を睨んだ。それをものともせず変わらぬ笑顔で挨拶をする。

「暁が遅いから明智くんと話をしてたの」
「そう」

彼女には見せないが明智に対してかなり警戒をしている。

「それじゃ僕はもう行くね」
「うん、またね」

自転車にまたがりするっとその場を後にした。名無しさんは明智に手を振り見送る。暁は黙って彼がいなくなるのを見ていた。

「何話ししてたんだ?」
「ん?んー…内緒」
「なんでだ」
「なんとなく、言わないほうがいいかなって」

少しだけ意地悪く笑う彼女の顔にため息をひとつもらして、暁はそれ以上の追求はしなかった。






「あれ、こんにちわ」
「こんにちわ」

数週間後にまた明智は名無しさんと会った。今回も一人だ。

「今日は誰を待ってるの?」
「誰もいないよ、私だけ」
「へぇ、買い物?」
「ううん、散歩」

本当に一人なのか普段よりラフめな恰好だった。明智は自然と笑顔になる。

「明智くんは?」
「僕も散歩」
「そうなんだ」
「よかったら一緒に散歩しないかい?」
「いいの?」

似たような会話をしたな、と思い出しながら明智は答える。

「よくなかったら誘わないよ」
「そっか、じゃぁ適当に歩こうか」
「そうだね」

彼女の隣で明智は少しだけ不気味に笑った。











消えるような本音









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