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□mc7,601
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朝の電車は窮屈で退屈だった。通勤で使う人たちがたくさんいて、皆自分の世界でじっと電車をまっている。
私もその一人だったから文句はないしそれが当たり前だった。

そんな毎日にヒビを入れたのは春の雨が降る日だった。

「…」

私の向かいのホームに、一人の男子高校生がいた。最初は特に気にしなかった。あんな大勢の中の一人なんて気に掛けることも難しい。
でもそれが毎日続けば嫌でも憶えるものだ。

「(またいる…)」

おそらくそこが行先のホームで彼に得のある位置なのだろう。でなければ同じ位置に立つはずもない。私の丁度前に立つなんて偶然がかさなるわけがないのだ。私は携帯に視線を向けたまま電車を待った。
そういえば彼、携帯を見ていない気がした。




「あれ?」

今日は朝出遅れたため、いつもの位置に立てず後ろのほうに並んだ。いつもの彼はいつものように私の向かいのホームにいた。
…ちょっとまって。なぜ彼は今私の前にいるのだ。
正確には向かいのホームだけど、彼はいつもの位置にいない。なぜ私の前に立っているの?

いや、彼も遅れたのかもしれない。さすがに自意識過剰すぎる。しかし彼、最初より少しかっこよくなった気がする。




やはり、彼は私を追いかけている。あれから数日少し動いたり見えないところにいたりしたけれど、彼はぴったりと私についてきた。最初はひどい隠れ方だったけど日にちがたつにつれて少し場所がずれたり、人の後ろに立っていたり、体を斜めにして視線をずらしているようにしたり。段々とレパートリーが増えていった。
私はそれが少し面白くて、楽しかった。

たまに立ち位置を変えたり、ふと見上げて彼を見ると、慌てて顔をそらしたり。電車が来るとわかると少し落ち込んだりする。
そんな彼の行動が私の動きひとつで変わるなんて。意地悪いつもりはなかったけれど、なんとなく優越感があって。

「ふふ…」

しかし彼、日に日に魅力的になってないか?あんな人がなぜ私を追いかけてくるんだろう。
不思議と危険な人物だとか、気持ち悪いとか思わないのは何故なんだろう。

「ね」

私が彼から視線をそらし、また顔を上げてちょっとだけ笑った。彼、顔思い切りそらしちゃった。




今日は電車の向かいの扉に押し込まれた。寄りかかれるし結構いい場所だから運がいい。そう思ったら向かいの電車に彼の姿を見つけた。彼も扉に追いやられて少し苦しそうだ。
いつもより間近に見る彼は遠くでみるより紳士そうで、思ったよりかっこよかった。

「…」

私は見つめていないけど、彼はじっとこっちを見ていて。ちょっと恥ずかしいから今度は私が彼を見つめた。彼は目だけそらした。君はいつも私を見てるのに私が見ると顔をそむけるもんね。それはずるいんじゃない?
…もしかして彼、私が気づいてないとでも思っているのかな?男より女のほうがそういうのに敏感なんだよ。

だから、私は扉の窓に息をかけて白くする。そこに指で文字を書いて…さすがの彼もこっちに視線を戻した。

「ま た ね」

彼に対しての言葉。そして手を振ってあげる。
おしくも電車は動き出して彼の顔はよく見えなかった。

ここまでやっといてあれだけど勘違いだったら恥ずかしいし黒歴史待ったなしだなぁ。















帰りの電車は人があまりいない。朝とはくらべものにならないくらいには人がいない。だからスムーズに改札まで出ることができる。このまま帰ってテレビでも見よう、それから宿題をして携帯のゲームして…

「あの、こんにちわ」
「え?」

知らない声が私の横から聞こえた。横を見て、ぽかんと口を開けてしまった。
声の主は、あの彼だった。

「こんにちわ」
「…こんにちわ」

もう一度挨拶をされて私も返す。すると彼は今までの行動と打って変わって、私に笑ってこう言った。

「君と、話がしたいんだ。少しだけ時間をくれないか?」

なんとも挑戦的な笑顔だと思う。どんな心情かは知らないが私を追いかけた意味も、私が彼を気にするようになってしまった責任もなんとかできるかもしれない。

「君のおごりなら行ってもいいけど?」
「もちろん」
「じゃ、お願いしますストーカー君」
「ストッ!?」

私の言葉に笑顔は消えて驚きと不服の顔をした。私、何か間違ったこと言ったかしら。

「何か問題でもある?」
「今までの行為を気にしてるなら謝る。だからストーカーはやめてほしい」
「それなりの理由があるなら許してもいいよ」
「…店で、言う」

頬をかいて彼は私に背を向けた。私は勝手にそれをついてこいという意味だととらえて後ろをついていく。


私が彼のストーキングを許すまであと25分。










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