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□ノンバーバル2
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「おはよう」
「おはよう」

学校に登校するため、彼女の家の前で彼女を待っていた。一人の女の子がドアから出てくるのを見つけ、手を挙げる。
そのまま彼女、名無しさんにぎこちなく手で挨拶を伝える暁。彼女はそれをくみ取って返事を返した。声という音は聞こえない挨拶であるがこれが当たり前になっている。
暁は優しく、嬉しそうに微笑み、小走りで寄ってくる名無しさんを見つめた。

「待った?」
「平気」
「ほんと?じゃぁ行こう!」

携帯を取り出し、文字を打つ。暁も携帯で文字を打ち、返事をする。手話をするにはまだ勉強不足であるようだ。

「?」

学校への道を行こうと名無しさんが歩き出そうとすると、暁が彼女の手を取ってそれを止めた。暁は先ほどと変わらない笑顔で名無しさんを見つめる。
そして手をとったままゆっくりと近づき彼女の頭、正確には髪に唇をよせてちゅうとキスをした。

「!?」

頭に湿った感触と離れてにこにこと笑う暁を見て混乱し、顔を赤くしていく名無しさん。携帯で文字を打とうと取り出し、下を向いたときに前髪を持ち上げられ、今度は額にキスをしてきた。

「!?!!?」
「ふふ」

突然の行動に脳内処理が追い付かず、ぼふぼふと顔を赤くしていく名無しさんとそれをやはり笑顔で見つめる暁。

「なに」

やっとの思いで携帯に表した文字は二文字であった。暁がそれを確認するとこちらも携帯で文字を打ち込み、彼女に返事をする。

「ごめん」
「なに?」
「かわいかったからした」

またぼしゅっと顔から湯気が出る勢いで赤くなり、なみだ目になってしまった。暁は謝罪の意味をこめて名無しさんの頭を撫でた。そのまま彼女の手をとり、登校の道を歩き始めたのだった。





昼休み。廊下を歩く名無しさんは肩をちょんちょんとつつかれ、振り向いた。暁が昼食であろう袋を片手に立っていた。
彼女も笑って暁が呼んだ意味に答える。彼は人差し指で上を指した。これはさすがの彼女もわからず首をかしげる。
暁は携帯で「屋上」とだけ記した。名無しさんは今度こそ意味はわかったものの首をかしげる。
それを見て彼は彼女の手を引き、階段を上がっていく。それに戸惑いながらついていく。

屋上には立ち入り禁止の紙が貼られていたが彼はそれを無視して扉を開けた。乱雑に置かれた机と綺麗に整理された花壇。ギャップの激しいものが一つの空間にまとまっていた。
暁は彼女をその空間とは違う日陰の場所に連れていきよいしょと座る。
名無しさんも隣にちょこんと座り初めてみる屋上をキョロキョロと見ていた。

「初めて来た感想はどう?」

携帯に映し出された文字を見て名無しさんも文字で返事をする。

「すごくどきどきする」
「ドキドキ?」
「うん、なんていえばいいのかな、楽しいに近い?」
「そうか」

その会話を終えるとどちらともなく自分の昼食を開ける。暁は購買の、名無しさんはお弁当を。箸でおかずをひとつ掴み口にほおばると名無しさんはふにゃふにゃと笑顔になりとても幸せそうに食べ始めた。
対して暁は購買のパンをもぐもぐと食べる。ちらりと隣の笑顔に食べる名無しさんを見て、釣られて笑い、再びパンを口に運ぶという行動をとっている。

パンを半分くらい食べたところで名無しさんを見る、あいかわらず笑顔でお弁当を食べていた。ちょっと膨らんだ頬が動いている。暁はそれをぼーっと眺めて、気づけば頬にキスをしていた。名無しさんも驚き箸をとめた。彼が離れると驚いた表情のまま首を向ける。

「ごめん」
「なに?」
「つい」

謝る文字に対してへらりとやわらかい笑顔を向ける。名無しさんは朝ほど赤くはならないが少し恥ずかしそうに下を向いて食事を再開した。それにならって暁も自分のご飯に目を向ける。

風はほどよく冷たかった。









「今日、家に来ないか?」

放課後、暁と共に帰るために昇降口で待ち、出会ってからすぐ彼から見せられた言葉だった。
なんの疑いもなく彼女は頷いた。帰宅途中でも暁は名無しさんの手、鼻やまぶたにもキスをして彼女の顔を赤くさせていた。



「ただいま」
「おう、ん…なんだ今日は彼女連れか」

お世話になっている店のマスター惣次郎がいつものように迎え入れた。名無しさんには笑って手を挙げる。彼も名無しさんの事情は知っているため、これが挨拶なのだ。ぺこりと彼女も挨拶をする。

「あんまり遅く帰らせるんじゃねぇぞ」
「遅くなったら送ります」
「当たり前だ」

なんとも男な会話を短く済ませて二人は階段をあがる。惣次郎はその様子を見つめてふうと息をついた。





カバンを定位置に置いて彼女の手を引き流れるようにソファーにぽすんと座り名無しさんを自分の足の間に座らせた。
一瞬の出来事でなにがなんだかわからないが、暁の手が名無しさんの腰に回り、がっちりと抱きしめてきてようやく理解した。

「!??」

わたわたと携帯で文字を選ぶ。暁はそれを見て、少し笑うと名無しさんの耳に唇を落とした。

「っ!!?」

そこからはむっと耳を唇で挟み、まむまむと食べるように動かしはじめる。名無しさんはこしょばゆい感覚に我慢しながら文字を入力していく。彼は耳から離れると今度は首にキスをした。

「!!!」

ビクッと彼女が飛び上がり今度はなみだ目で顔を赤くしてしまった。ちゅっちゅっと何度もキスをして名無しさんの顔を覗き込んだ。
恥ずかしかったのか涙が今にも溢れそうになり顔もどうしようもなく赤い。

文字が途中の彼女の携帯に暁の指を滑らせて文字を入れていく。

「ごめんね、やりすぎた」

頭を撫でて言葉を紡ぐ。

「きょう、なにかあったの」
「今日はキスの日らしいから」

そろそろと文字を入れる彼女に返事をして理由を伝える。
すると名無しさんはきょとんとさせて暁を見た。彼は少し笑ってすいすいと文字を入れていく。

「キスで名無しさんに好きって伝えたかった。文字でもいいけど今日はキスの日だからそれにあやかっただけだよ」
「・・・はずかしかった」
「かわいかった」
「うるさい」

名無しさんから暴言が出るときは相当へそを曲げているときだ。ぽんぽんと頭を撫でて文字を入れていく。

「すき」

ただ二文字を入れて彼女の手を上から握る。暁自身これが一番彼女に効果的だと知っているから、文字を選んだのだ。卑怯だとは思うがこれで機嫌が直せるとわかっていた。

「ずるい」
「知ってる」

笑って名無しさんを見ると彼女はキッとにらみつけてぐいっと暁の顔に自分の顔を近づけた。
流石に暁も驚いて肩をこわばらせたが次に口にふにゅっとやわらかい感触が伝わった。
だがそれも一瞬で離れて腕の中にいた彼女はバッと立ち上がって荷物を持ち逃げる。

「!」

しかし一応怪盗団をするリーダー。条件反射や意識はすぐに戻り彼女の手を思い切り掴んだ。
名無しさんは手を振って離そうとするが暁の手がそれではずれるわけもなく、ずるずるとソファーに戻されて先ほどの位置に戻された。

「…」

暁は彼女の肩に顔をうめてぎゅうと抱きしめる。その状態が続いてすっと携帯を前にだした。

「ずるい」

その一言がかかれたもの。名無しさんはくすくすと笑って彼の頭に手を置いて優しくなでた。するとゆっくりと肩から離れて文字を打つ。暁の顔は、赤い。

「不意打ちはずるいよ」
「暁に言われたくないよ」

何も言えないのか指が次の文字をつむぐことはなかった。その代わりに名無しさんの頭と腰を固定して思い切り彼女の唇に噛みつくようにキスをしたのだった。










ノンバーバル2











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