メイン

□好きです
1ページ/1ページ

      




好きを伝えるためには一体どんな方法があるだろうか。愛を捧げるためには一体どんな方法があるだろうか。


「暁?」
「ん?」
「どうかしたの?」
「…ううん何もないよ」

目の前の彼女はそのあと何事もなかったかのように俺の隣を歩いている。深く聞かないでくれるのはありがたいが、少し寂しい気持ちもある。

「ねぇ暁、また勉強教えてよ」
「いいよ」
「さっすが!」

君のお願いなら断ることなんてないよ。そんなこと言えないけれど彼女は知らないから笑顔で俺の返答に答えた。

「いつやる?」
「暁が都合いい日でいいよ」
「俺のことは気にするな」
「気にする!友達だっているんだからそっちも大事にしなよね?」

確かに大切だけど、俺は名無しさんといることを選ぶよ。これも言えない言葉。

「わかってるよ」
「ならいいけど…それで結局いつにしようか」
「名無しさんに任せる」
「えぇ…うーん」

悩む姿も可愛い。何より俺との待ち合わせ日程を考えてくれてるのが何よりうれしい。この時だけは俺のもの、とか思ってもいいのではないだろうか。
いや、やめておこう。彼女は物じゃない。

「土日のどっちがいい?」
「どっちでも」
「それはダメ、土日どっちがいい!?」

身長が低い彼女は自然と上目遣いになる。今ならキスできそうだ。恋人ではないからできはしないが。

「じゃぁ、土曜日」
「オッケー!予定いれないでよ?」
「あぁ」

いれないよ、君のほうが優先だし元々予定なんてないのだから。名無しさんの予定は全部空けるようにしてるのだから。

「それじゃ、また明日ー!」
「あぁ、また」

名無しさんは別のホームへ行ってしまう。引き留めてもう少し一緒にいたい、そう言えたらきっとこの気持ちも伝えられるだろうか。

「…好きだなぁ」

誰も受け止めない言葉は無機質な空気の中に流れて消えていく。もしこの言葉を名無しさんが受け止めてくれたら、俺はたぶん嬉しさで死ぬかもしれない。

「いつか絶対、言いたい」

これは上を向いて吐いた言葉。だから受け止めるのは俺だ。これは俺に向けた言葉。

「……」

自分や友人に好意の言葉を贈るのは簡単だ。でもそれが「愛する人」へ贈るとなると、どうしてこんなにも緊張して言葉が出ないのだろうか。
ただ二文字を贈ればいいのにそれができないのは勇気の問題なのか、それとも恐怖の問題なのか。考えては結論がでずに奥に沈む。でも名無しさんと付き合えたらという妄想はよくする。

「きっと嬉しいしたくさん好きを言うな」

今まで言えなかったぶんの愛を言葉や行動にして全部彼女に贈ると思う。それはとても幸せなことだ。少なくとも俺は幸せだ。

「土曜日、言ってみようかな」

一歩だけ名無しさんに近づいてみよう。この関係も嫌いではないけれど、その先に行ってみたいから。










好きです









      

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ