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□年頃心情
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「暁、今日何かあるの?」
「ごめん友達と約束しちゃったから…」
「いいんだけど…大丈夫?その…」
「?」
「……ううんごめんじゃぁまた今度ね」
放課後、暁は彼女である名無しさんに謝った。
「はぁ…」
一人で去っていく彼女の背中を最後まで見送り、ため息をついた。名無しさんと暁は間違いなく恋人なのだが恋人らしいことをしてやれないのが彼の最近の悩みであった。
「今度はちゃんと埋め合わせしないと」
荷物を持ち直し少々浮かない顔で反対へと歩き出した。だがそれも切り替えなければならない。怪盗団のリーダーとしてやらなければならないことがあるのだ。
それでも彼も一介の男子高校生。彼女と一緒に過ごしたいのは当然なのである。
「早くパレス攻略しよう…」
難しいお年頃である。
目的の場所にたどり着き、同じ目的の仲間が集まりオタカラルートを確保に向かう。
「…ジョーカー」
「ん?」
「今日何かあったのか?」
攻略への道をあれこれ考えているとフォックスが声をかけてきた。
「いや別に」
「カノジョのこと気にしてんだろー?」
「彼女?」
モルガナが答えてジョーカーの足を叩いた。
「こいつ見かけによらず恋人がいるんだぜ?ワガハイを差し置いてひどい奴だろ?」
「ジョーカー恋人がいたのか」
「あぁ、うん…」
余計なことをとモルガナを睨んでフォックスに返事をする。その手の話しにのらないわけがないパンサーとスカルが無理やり入り込んできた。
「ひっでーよな!?こいつ俺のこと置いてさっさと青春してんだぜ!?ありえねーだろ!」
「彼女いい子だよね!優しいしいろんなお店知ってるし!」
「人の目の前でイチャイチャしやがってよぉ!俺がどんだけ苦い思いをしてると思ってんだ!」
二人の言いたいことが別すぎて結局その彼女のことに関してなんの情報ももらえないフォックス。ジョーカーはそれを無視して攻略へと意識を戻した。その話題にモルガナが参加するのも時間の問題であろう。
その時であった。突然パレス内部で警報あがなり始めたのである。
「なんだ!?」
「俺らの侵入がバレたのか!?」
「馬鹿な!この辺りは警戒が少ない場所のハズだぜ?」
「俺たち以外の侵入者がいるのか?」
鳴りやまない警報に耳を塞ぎたくなるがそれより先に物陰に隠れて様子を見守ることにした。
場合によっては今日の攻略はここで中断となる。
「侵入者だ!早く捕まえろ!!」
「あっちだ!追え!」
「やだ!やめて!」
ピンっとモルガナの耳がその声をはっきりととらえた。
「女の声だ…!」
「女ァ?」
「自分から入り込んだってわけじゃなさそうだ…こりゃ一般人だぜ!」
「嘘!助けなきゃ…!」
なんの対抗力も持たない一般人をここで見殺しにするわけにはいかない。全員が頷き声のするほうへと急いだ。
声はどんどんはっきりと皆にも聞こえるようになる。
「絶対に逃がすな!」
「何なのよ!こっちこないで!」
「あれ、この声って…」
「っ!」
「おい!ジョーカー!!」
ぐんっとジョーカーが走る速度を上げた。聞き覚えのある声に血相を変えて仲間を置いていく。
「とまれ!」
「はっ…ハッ…あっ!ぐぅ!!」
シャドウから逃げる彼女は足がもつれて勢いよく転んでしまった。
「もう逃げられんぞ!」
「おとなしくしろ!」
シャドウが彼女を囲み腕を掴む。
「離して!いやっ…!やめてよ!」
「ついてこい!」
「痛い!やめて!誰か、誰か助けて!」
無数の手が彼女の体を掴み部屋の奥へと連れていく。得体のしれない自分より何倍も大きい者に引きずられるようにして彼女は抵抗しながら叫んだ。
「助けて…暁!助けて!!」
「ぐえっ!」
「ギャッ!」
叫び終わるが早いか、彼女を掴んでいた腕がパンッとはじけ飛び彼女を自由にしていく。とっさのことにバランスがとれず、倒れることを覚悟した。だがそれは杞憂に終わった。
「っ……あ、れ」
「…」
倒れることなくぽすんとやわらかい何かに当たり、その物体に支えられている。そっと目を開けて周りを見る。
黒い長いもの、これは腕だろうか。自分の肩に置いてある赤いものは手か。それではこれは人間なのか?
そっと視線を上に向けて、顔を上げた。
「…無事か?」
「…」
白銀のピエロのような仮面をつけた男の顔。その口から紡がれた声はかなり心配したような、悲しそうなものだった。
「怖かったな、ごめん。もう大丈夫だから」
「…っぁ」
そっと彼女の頬を撫でて優しく抱きしめた。彼女は彼が誰なのか、どんな人間なのかもわからない。だが、彼の視線をずらすことができず言葉を出すこともできなかった。
「あとは俺がなんとかするよ」
「…ぁ、の…」
「大丈夫、ゆっくりおやすみ…名無しさん」
抱きしめたまま彼女を、名無しさんにスリープソングをかける。なんの抵抗もなく彼女はふわりと眠った。それを見届けるとゆっくりと横たわらせて静かに額にキスをおくった。
「…貴様らに生きる道はないと思え」
その日のルート攻略は中断。名無しさんがなぜパレスにいたのかという疑問は後日持ち越しとなったが、本人に聞いたところ「よく覚えていない」だそうだ。
暁は自分の能力のせいではと反省している。
「…」
「…名無しさん?」
「あの、よく覚えていないんだけど…私あの時誰かに助けられたんだよ、ね」
「………うん」
すべてが曖昧だという名無しさんの記憶の中に一つだけわかることがあるのだという。
「そのたすけてくれた人が、大丈夫って私を見つめて言ってくれて…そのあと安心しちゃって…」
「うん」
暁は彼女の言葉を聞いた。
「あの、かっこいい人は誰だったんだろう…」
「…え?」
彼女が顔を赤らめて指を触り始めた。暁はそれを見て思わず立ち上がって彼女に詰め寄ろうとしてしまった。
「仮面で、顔はわからなかったけど…すごくあったかくて…こっちがドキドキしてきて…!」
「ま、まって名無しさん」
「また…会いたいな…」
頬をぽぽぽっと染める名無しさんに対し暁は顔を両手で覆い、複雑な心境に悩まされることになったのだった。
年頃心情
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