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□アンバランス三角
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「やぁ、名無しさんこんにちわ」
「明智さんこんにちわ」

ふらりと買い物を楽しんでいた名無しさんに声をかけてきたのはテレビで人気の明智である。画面越しと変わらぬ笑顔と態度でトコトコと近づいてきた。

「買い物かな?」
「はい、と言っても特に買うもの決まってないんですけど」
「そうなんだ」

女子が落ちそうな王子スマイルでにこやかに対応していく。それから少し考えるそぶりをして改めて名無しさんに向き直る。

「もしよければ僕も一緒に行っていいかな?」
「えぇ?」
「丁度仕事が終わって暇してたんだ」
「あの、でも女の子の買い物なんてつまらないんじゃ…」
「そんなことないよ、それに荷物持ちくらいできると思うし。もちろん名無しさんがよければだけど…」

ちょっと遠慮したような笑顔で彼女に再度問う。

「えっと、明智さんが構わないならいいんですけど…つまらなかったらすぐに言ってくださいね?」
「ありがとう」

さっきと打って変わって明るい笑顔でお礼を伝えた。この時彼はカバンを握る手にグッと力を入れたのは内緒である。

「それじゃぁどこに行こうか」
「そうですね…あ、そうだ鞄見たいんですけど、いいですか?」
「いいよ行こうか」

二人は目的の物が置いてある店へと目指して歩き出した、もちろん明智は彼女の歩幅に合わせてゆっくり歩く。







「あ、名無しさん」
「あれ、来栖くんこんにちわ」

そのまま二人でお店に着いた。そこでばったりと彼女の同期である来栖暁に出会ったのだ。

「買い物?」
「うん新しい鞄がほしくて…」
「よかったら一緒に見ようか?」
「えっ…でも」

ちらと隣に立つ明智を見上げる。暁もその視線を追って明智を見つめる。

「やぁ」
「あぁ、いたのか」
「ひどいなぁずっと名無しさんの隣にいたのに気付かないなんて」
「悪い、目に入らなかった」

声色、表情は二人とも変わらない。だがよく知るメンバーならこの空気からとっとと逃げ出すであろう。今二人の間に流れる空気は、氷点下。

「ところで暁くんも買い物?」
「そんなところ」
「そうなんだ、それならそっちを見たほうがいいんじゃない?」

名無しさんの発言に明智は心の中でGJを連呼していた。

「終わったから平気」

きりっと返した。

「そうなの?」
「うん、あとは暇だから一緒について行っていいか?」
「え、えーと…」

ちらちらと明智を見て反応をうかがっている。
ここで拒否をしてしまえば彼女の好感度は下がってしまうのは明白であったため、彼の答えに選択はない。

「僕は構わないよ」
「そうですか?なら…」
「ありがとう」

すでに暁の視界に明智は入っていなかった。というより削除していた。それに気づかない明智ではない。握っている鞄の取っ手がミシミシと悲鳴をあげていた。




「どんな鞄がほしいんだい?」
「そうですね…おでかけ用のカバンなのでそんな大きいものはいらないんですけれど」
「…こんなのはどうだ?」

彼女の求めるものを試しに一つ暁が出した。

「あー、うーん…ちょっと違うかも…」

どうやら好みではないかったようだ。その様子を見た明智がそれとは違う系統の鞄を指さす。

「こっちはどうかな?名無しさんの服にも合ってそうだけど…」
「あっかわいい」

今度はヒットした。暁はそれを見てきゅっと口を結び別のカバンを指さす。

「それがいいならこっちもいいと思う。名無しさんの雰囲気に合ってると思うよ」
「ほんとだ!かわいい」

純粋に喜ぶ彼女の裏では綺麗な笑顔の冷戦が激しく静かに行われていた。美人が怒ると怖いというが怖いというより恐ろしいのほうがあっていた。

「どちらもかわいいけど…」
「僕はこっちがいいと思うな」
「俺はこっちがいいと思う」

お互い自分が選んだものを推していく。彼女自身どちらも好みなので正直迷っていた。

「自分の意見を押し付けるのはよくないと思うぞ」
「君も言い方に気を付けないと傷つけることになるよ?」
「お前は上から圧をかける感じがするから気を付けたほうがいいぞ」
「それなら君も脅迫めいた発言をしているから気を付けたほうがいいよ」

二人にしか聞こえない会話。まわりから見れば二人の男子が仲良くおしゃべりしているように見えるかもしれない。が、もう一度言っておく。よく知るメンバーならこの場から即逃げていたと。

「君、ここに買い物にきたって本当なの?」
「たまたまこの近くに用事があったから来てただけだ。そっちこそなんで一緒にいたんだ?」
「僕もたまたま仕事が終わって彼女を見かけたから声をかけたんだよ」

探るように会話をして、でも彼女に悟られないように表面に張り付いた笑顔で対応していく。二人が握り持つ鞄の取っ手はミシミシとギチギチと悲鳴をあげているので本当に顔だけであるが。

「…あ」
「「どうした/の?」」
「ごめんなさい選んでもらっておいてあれなんですけど…ちょっと値段が…」

二つともにたりよったりの値段だが今の彼女にそれを払う量は入っていないようだ。二人はここぞとばかりに目を光らせ、光の速さで次の行動に移った。

「「じゃぁ買ってあげる」」
「えっ…えぇ!?」
「日ごろの感謝も込めて、プレゼントってことでどうかな?」
「でも!私明智さんになにも…」
「僕が勝手に思ってることだから気にしないで」

遠慮する名無しさんに明智はいつもの笑顔で鞄をそっと彼女の手から取るとそのまま会計へと進んでいった。

「俺も、名無しさんには世話になってるから」
「何もしてないよ?」
「いいんだ。気にしないで」

暁もそれに倣って鞄を持つと同じく会計へと向かう。そこに残った彼女は勢いに負けてただそこに立っていることしかできなかった。






「なんだか。申訳ないです…」
「いいんだよちょっとした感謝の気持ちなんだから」
「あぁ」

二人から鞄のプレゼントをもらい、とことこと街を歩いていた。荷物は二人がもっている。

「次は何かほしいものあるのか?」
「え、えっと…」
「名無しさんと買い物できるの楽しいから付き合うよ」
「えぇ…」
「俺も付き合う」

またジリッと笑顔の睨みをギラつかせて攻防戦を始めた。

「(二人は、仲いいんだなぁ…)」

二人の張り付いた笑顔の会話が彼女をとんだ勘違いに思い込ませていると気づくのはまだ先の話である。










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