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□最後まで
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「名無しさん、明日が怪盗団の最後の仕事なんだ」
暁はまた夜に電話をかけてきて、また突然に言い出した。
「…どういうこと?」
「言葉通りだよ、この戦いが終わったら怪盗団は解散だ」
「…そう」
別に怪盗団が好きだったわけでも、ファンだったわけでもない。けれど、暁の声が少し元気がないように聞こえた。
「暁は、それでいいの?」
「…正直、ちょっとやだ」
「だと思った」
「でもここで戦わないといけないから、俺は…行くよ」
心残りはあるけど、決心は変わらないらしい。ならば
「暁、私も明日行くよ」
「えっ?」
「怪盗団を応援するために明日そっちに行く!」
「…」
彼が断ろうが関係ない、私は絶対に応援しに行く。
「…俺もそっちのほうが嬉しいな」
「絶対に行くからね!?待っててよね!」
暁は少し笑って待ってると言った。彼からお許しを得たから何がなんでも行ってやるんだから。
翌日、私は電車に乗って東京に向かっていた。怪盗団を最後まで応援しようと暁を信じて待つと決めたから。駅に付いて改札を抜けた私の足にぴちゃぴちゃと水音が聞こえた。
「え?」
足元に赤い液体がポツポツと溜まっていた。
「やだっ!なにこれ!?」
慌てて足を上げたけど、おかしい。人が誰も動かない。私の行動に視線を向けるだけだ。
「え?なんで…?」
どうして誰も気にしないの?
とにかく走ってみんなが集合すると行っていた場所に走った。
「みんな…!!?やだ、嘘…どうしたの!?」
見慣れた頭を見つけたけど、それは地面に打ち付けられていて、周りのみんなも同じように座り込んだり、倒れたりしていた。
「あ…あな、たは…」
「大丈夫!?なにがあったんです!?どうして誰も…」
「皆の、認知から…消えて…」
「認知?消える?どういうこと!?」
どうしてこんなに苦しんでいるのに、誰も見ないの?誰も気にかけてくれないの?
「あ、あぁ…あっ……」
「双葉…?」
「い、いやぁ!!」
「おい…ウソだろ!?」
「私達…死ぬの…?いやだ…いやだ…」
皆のそれぞれの視線の先を見ると、そこから消えている、本当に何もない彼らが存在しているという形を消して行っていた。
「なんで…」
「どうして?なんで皆消えて…やめて、やだよ…」
「いや」
とうとう、一人が完全に消えてしまった。それを期に次々と姿を消していく怪盗団。
「すまない、ジョーカー…」
「き、みは…」
「…作戦、失敗だ…!」
ジョーカーと呼ばれた、暁だけになってしまった。急いで彼の元へ走って抱き起こした。
「暁?やめて?」
「名無しさん…ごめん…」
「やだよ、もうしないって、約束してくれ、たの、に」
「約束、まもれ、そうに」
「やめてよ!!お願いだから消えないで!お願い…もう、やだよ…」
「…名無しさん」
「消えないで…消えないでよ…私を置いていかないで!」
バシュンと泥水が弾けたような音を出して、暁は、暁なんて人間が存在しなかったように空気だけがそこに残った。弾けた煙や水すら残さず、なにもない。
「…あ…やだ…やだよ…」
周りが私以外を無視して歩き続ける。ただの地面を歩いて私に少し視線を投げて通り過ぎていくのはわかった。私にはそんなことどうでもよかった。認知が消える。認知、皆の記憶から、怪盗団が消えてしまったということなの?
「うっ…ひぐっ…うぇ……」
どうして、彼らが消えなければならないの?彼らがしてきたことが全部悪だったの?神様はなにをしているの?
「返してっ…っく、怪盗、団をっ暁を返じ、て、よ…」
どうして私には応援しかできないの、見てることしかできないの。彼らを救う力も方法も、何もない。どうして私には何も無いの。
「暁…おまじないが、もう意味ないよ…」
あのときおしえたおまじないを私もあれからずっとやってたのに、あなた。が消えてしまったらこのおまじないは勇気と希望を与えるものではなく、絶望と喪失を訴えてくるものになる。この文字を見るたびに、泣いてしまうよ。
赤い液体は無情に溜まって、座りこんだ私の胸にまで押し上がっていた。それでも、周りはなにも感じなかった。
「うぅっ…ひっ……ぐ…う?」
泣いている私の顔に布の感触があった。ハンカチではない、ちょっと硬い。開けにくい目を開ける。
赤い、手。
「…あ」
赤い手は増えて私の両頬をそっと撫でた。それから少しずつ顔を持ち上げる。
「あき…ら?」
「遅くなった」
仮面をつけた全身黒に身を包んだ男。誰なのかわからないが私が知ってる人な気がして。
「あなたは」
「怪盗団リーダーのジョーカー。でも今は来栖暁にならせて」
仮面を頭に押し上げる、私の見知った暁の顔だ。
「…生きて、る?」
「あぁ、生きてるよ」
「私の幻じゃ、ないよね?」
「ちゃんと、ここに存在してる」
証拠のつもりか片方の手を私の手に絡めて強く握ってきた。少し痛いけど、ちゃんといる。暁はここにいる。
「あ、あぎら…!!暁!!」
「約束、破らなくて済んだよ」
「暁、暁…あぎらぁぁ!!!」
「名無しさん、名無しさん、ちゃんとここにいるよ」
涙でぐちゃぐちゃな私をそっと抱きしめてくれた。もう離れたくないから、彼の背中に両手を回して抱きしめた。
「も、う…行かないで…消えないで…」
「…名無しさん、俺は行かなきゃ」
「え…」
「この戦いに勝たなきゃいけないから、ごめん、あと少し…待っててほしい」
そうだ、彼らは最後の仕事に行くと言ってた。私もそれを応援するから、ここに来たんだ。名残惜しいけど、そっと背中に回した腕を離した。彼も少し離れていく。
「ありがとう」
「次は、消えない?」
「消えないよ、名無しさんが、信じてくれる人がいるから。俺たちはもう消えない」
優しい声だけど、力強かった。今の私には、それだけで十分だった。
「必ず君のそばに帰ってくるよ」
「…うん」
私が頷くと彼は笑顔になり、徐ろに顔を近づけて私の口に同じものを当てた。
「…!?」
「誓いのキス」
「あ、え?」
「泣きやんだでしょ?」
「あの…」
「文句は帰ってきたら全部聞くから、ここで待ってて」
やや早口で、ちょっとあせり気味で立ち上がって背中をむけた。他のメンバーは口笛を吹いたり拍手したり暁にちょっかいをだしている。
彼が帰ってきたら、この時の気持ちと様子をしっかり聞いてやろう。
君も、恥ずかしかったのって。
最後まで
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