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□No turning back now
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「暁くん」
「なに?」
「近い」
「名無しさんの顔がよく見えるからいいよね」
「私の心臓によくない」

名無しさんは悩んでいた。別のクラスにいる転校生の来栖暁によって困っていた。

「そもそも目なんて悪くないんでしょ?」
「うん」
「じゃそこまで近くなくてもいいよね?」
「見えるとよく見えるじゃ全然違うよね?」

ああ言えばこう言うを繰り返して結局彼女が面倒になって諦めて終わる。最近増えた光景でありやりとりであった。

「ねぇ名無しさんはいつになったら俺のものになってくれるの?」
「なりません」
「こんなに好きなのに?」
「軽い」
「一応雑誌とかで勉強した方法なんだけどな」
「どんな雑誌だよ」

数ヶ月前から名無しさんに対して好きと言ってきた、その時にNOと答えたはずだった。その後、よく放課後デートのようなものに誘われるようになった。その間も諦めていないのか好きやら愛してるやらをやたらつたえてくるのだ。

「いい加減諦めたら?」
「他のことは諦めても名無しさんのことは諦めない」
「意味がわかんない…」

冷静を装って来いるが内心ドキドキである。暁は見た目地味な男だがよくみれば整った顔立ちなのだ。それだけでも随分なものなのにさらに好きと言ってくる。最初こそドギマギして女の子のような反応をしていたが流石に毎日見れば慣れてくる。
それでもドキドキするのはきのせいだと信じながら。

「暁くんって変だよね」
「なんで?」
「まわりに高巻さんとか新島さんとかかわいくて綺麗な人いっぱいいるのに私を好きなんていうの」
「嫉妬?」
「違うわ」
「だって名無しさんのこと前から好きだったから」
「いつから」
「転校してきた日?」
「長いな!いや逆にすごいわ!!」

けろっと片思い歴をしゃべる暁は笑っても名無しさんから視線をずらすことはなかった。不気味なものでも嫌らしいものでもない、純粋に笑う顔。彼女はこの顔を見ると「好き」だという言葉は嘘ではないことはわかっていた。
だから、余計に困るのだ。

「それくらい好きってことだよ」
「関心した」
「惚れそう?」
「それはない」
「逆に聞くけど、なんで名無しさんは俺と付き合ってくれないの?」

そう言われて、ふと固まった。なぜ自分はこんなにも彼の告白を断るのだろうか、嫌いなのか、意地なのか、信じられないのか。
ちがう、彼はそんな人間じゃない。

「…断る理由ない?」
「…や、ある」
「なに?」

ある、わけないのだ。ここまで自分を慕って愛を伝え続けて毎日遊びに誘ってくれる。そんな男に惚れない理由はあるのだろうか。少なくとも名無しさんにはその理由はなかった。

「…なんか、軽いところ」
「軽い?」
「暁くんていろんな女性にこんな感じで優しいじゃん?」
「えっ…」
「今日もかわいいとか、そのアクセ似合ってるねとか、喜びそうなこと言って…なんか、軟派くさい」

苦肉の理由であった。それを聞いて信じられないような顔をした暁はふと顎に手を当てて考えるしぐさをする。名無しさんはそれを眺める。

「ちょっときて」
「?」

彼女の手をとり、人気のない影へと連れて行く。少し恐怖を感じ、暁の手を振りほどこうとしたが思いの外力が強く、離すことがでこなかった。

しばらく歩いて、物音しない路地に来てしまった。二人だけの世界のような感覚になり後ずさる。

「ね、ねぇ…なにするの?」
「んー、名無しさんに俺の本気を見てほしくて」
「は?」

彼女の感じる恐怖とは裏腹にいつもどおりの暁の声が聞こえる。それが妙に安心できるものであった。そう思ったのもつかの間で、急に暁が名無しさんを壁に追い込み彼女の顔の横に両手をついて足の間に自分の足をいれて逃げられない体制を作った。

「っ!?な、なに!?」
「ん、本気で名無しさんを落とす」
「ちょちょちょ!まって!」
「名無しさん…」

すっと伊達眼鏡を取ってポケットに入れる。そしてそのまま彼女に自分の顔を近づけて鼻が触れるか触れないかの距離まで詰められた。

「あ、あの…」
「俺は本気で好きだよ、ほかの女の子にはこんなことしない。君だからやってるんだ」
「そっ…!」
「本当は無理にでも俺の物にしたいし誰にも触ってほしくない。でも名無しさんの悲しい顔は見たくないから絶対しない」
「あ、あう…」

壁についた手が頬にすべり間に入った足は彼女の内股を少し撫でる。名無しさんの脳内はすでに大嵐でどうすればいいのかわからない。

「絶対幸せにする、だから、早く俺のところに落ちて?」
「!!!!?」

それは獲物を捕らえた目で、口元をにんまりと釣りあげてささやいた。刺激と情報が多く、名無しさんはとうとうふらっと腰を抜かしてしまった。

「あれ、おーい」
「……む、も…」
「そんな無防備な行動されると俺我慢できなくなっちゃうよ?」
「ふあ…むり…や…」
「…まぁ、名無しさんが嫌がることはしないからこのまま家に送ってあげる」

よいしょと背中に彼女を乗せてトコトコと歩き始めた。

「家の道案内してね?」
「は、ひ…」
「俺の告白の返事はいつでも待ってるから」

それは確信したような言葉であった。しかし今の名無しさんにそんなことを考える余裕はなく、ただ一つある言葉がぐるぐると脳内と心をかき乱しているのであった。



  



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