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□ジンクスはない
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HappyValentine


バレンタインデーだからチョコをあげるという習わしは今も残って一日を盛り上げている。それが幸せなものなのか不幸なものなのかはその人たち本人しかわからないもので。

「で、お前も一人なわけ?」
「まぁ、そんなとこ…」
「まったく寂しい奴らだな」

午前からルブランでおひとり様の俺と竜司がマスターの惣次郎さんにため息をつかれながらカウンターに座ってぼんやりしている。俺だってこんなことしたくない。

「まぁ、男同士ここは友情の証ということでさ…」
「え、まさか竜司これ買ったのか?」

竜司がポケットからチロルチョコを出して渡してきた。友情小さすぎやしないか?いいけど。

「あー!!なんであいつらなんもくれねーんだよぉ!」
「友チョコはあるのにな」
「男としての魅力が足りないんじゃねぇのか?」
「うるせえよマスター!俺だってちょっと頑張れば…」

カランと乾いたベルの音が寂しい空気に響いた。お客さんかな。

「いらっしゃい、あぁ君は確か…」
「名無しさん!?」
「えっ」
「あ、やっぱりいた」

怪盗団メンバーの名無しさんがドアを開けて入ってきた。なんか紙袋もってる。

「おじゃまします」
「どうぞ」
「お前どーしたんだよ?おひとり様か?」
「おひとり様でも楽しいことあるのよ?」

少し嫌味たらしく竜司が聞くが名無しさんは笑って、逆に得意げに言い返した。そして紙袋の中に手を入れて袋を3つ取り出す。

「チョコが貰えないであろう君たちにお恵みをもってきてあげることとか」
「まさか!!そ、そそそれは……!」
「さ、どうする?」
「くれ!!いやくださいお願いします!」
「よかろう」

そのやり取りが面白くてクスクスと笑ってしまう。竜司の手に袋を置いて、そこから惣次郎さん、俺へと差し出した。

「去年はおせわになりました」
「いいってことよ」
「まさか暁も一人とはね、どうぞ」
「ありがとう」

みんなと同じ袋を渡されて、じっと眺める。どこもなにか変わったところがない。名無しさんから貰えたことは嬉しいけどちょっと違う。

「他の女たちとやっぱちげーなお前は!!」
「そういうこと言うから怒られるんだよ?」

先ほどの落ち込み具合とは比べ物にならない浮かれように思わず本音が転げ落ちる。聞かれたらほんとに拳もらってるな。

「そういえば、ほかに渡す人はいないのか?」
「んえ!?あ、うん…」
「え、何その反応…お前まさか…」

俺の言葉にどもって顔を赤くしていく。あれ、もしかしてそういう人がいるの?嘘だろ?

「ま、まだ心の準備が…」
「…くそっ!これだからバレンタインはよぉ!!!」
「諦めて応援してやんな」
「ぐうううう!!」

俺も竜司みたいな悔しがりかたができればよかったんだけど…ショックのほうが大きすぎた。

「それで、その…暁にそのことで相談したくて…」

相談?バレンタインの?名無しさんの恋の相談?今フラれた俺に?

「ぁ…うん、いいよ」
「ありがとう!」

ほんとはめちゃくちゃ断りたい。泣きそうだ。でもここで名無しさんが悲しそうな顔を見るのがもっと辛い。弱音を飲み込んで2階へと案内する。竜司も帰って行った。「滅べバレンタイン!」って捨て台詞吐きながら。


2階に上がってソファに彼女は座り俺は椅子を持ってきて座る。名無しさんがいつもより縮こまって座っているのはきのせいじゃない。緊張してる。

「あ、の、相談…なんだけど…」
「うん」
「相談っていうか、質問なんだけださ!」
「うん」
「あの、もし…もし、好きです付き合ってください!!…って言ってチョコ渡したら…暁は、喜んでその、告白を受け入れる…?」

断ることなく受け入れるしこちらとしては願ったり叶ったりだ。だが男性としての感想を求めているのなら話は別だ、その相手の特徴も性格も聞いてないから適当なこと言えないし名無しさんにたいしてそんなことしたくない。
告白は、嬉しいと思うけど…。

「差し支えなければ、相手の特徴教えてくれる?」
「とくっとくちょう…!!?えっとあの」

また赤くなった…。本当に好きなんだなその人が。後でモルガナに癒やしてもらおう。

「えとっす、すごく、カッコイイひと…誰にでも優しくて、正義感あって…自分を…ちゃんと貫いているひと」

すごい人間だな…競争率が高そうだ。優しいならチョコも告白も受け取ってくれるだろう。返事はわからないが、でも傷つけるいい方はしないはずだ。したら双葉に手伝ってもらって特定してエルボーとタイキック入れてやろう。

「…どうかな?」
「…」

そうだなぁ…

「正直、返事まではわからないけど、受け入れてくれるよ」
「…ほんとに?」
「うん、ちゃんと全部受け止めてくれる、チョコも告白も」

今の俺は笑えているだろうか。
話を聞いて名無しさんは安心したのか先ほどより緊張はなくなったように見える。
俺の役目は終わりか…

「ありがとう、暁」
「いいよ、じゃああとは頑張って…」
「来栖暁くん」
「はい?」

急にフルネームで呼ぶから畏まった返事しちゃった。

「私っ…ずっと前…から、あなたのことがっ好きでした!つつ、つきあっ…付き合ってくだしゃい!」



「……」
「…」
「…」
「……えっ…と名無しさん?」
「…」
「よ、予行練習なら、最初に」
「予行じゃないよ本番だよ!!」

バレンタインらしい包装と女の子らしいリボンのついたチョコの箱を両手で差し出していた。俺が冗談だと言葉を濁したら彼女は顔をあげて訴えた。顔が涙で濡れてる。

「暁、みんなに優しいから。みんなと仲いいから…きっともう恋人いると思って…」
「…」
「でも、今日一人で…すっごして、てっ…ちゃん、すっ…うっ…ど、おもっで……」

誰か俺を殴ってくれ。傷つけて、泣かせて、最悪じゃないか。

「へんじ、はっ…ひっく…いいがら…ちょ、こっだけで…ふぎゅっ」
「名無しさん、好き。大好き」
「…っく…え?」

罪悪感と幸福感で思わず抱きしめる。本音も口にする。嬉しい、ごめん、ありがとう。

「俺もずっと前から名無しさんが好きだった」
「…う、そ」
「ほんとだよ、君が相談してくれって言ってきた時泣きそうだった、辛かった、なんで俺じゃないんだって…」
「…」
「意気地なしでごめん、告白してくれてありがとう…チョコも告白も全部…全部貰う。名無しさんの恋人の位置も俺が貰う!」
「…暁…ありがとう」

彼女の涙は止まらないが、これはきっと流しても大丈夫な涙だ。これも俺が受け止める。

「やばい、俺も泣きそう…」
「やだ泣かないでよ…男の子でしょ?」
「男だって泣くよ」
「…それもそうか」

名無しさんの肩にすでに涙の跡が滲んでしまっていることは、まだ黙っておこう。




ジンクスはない 




    

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