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人込みでにぎわう煩いいつもの登校する駅。ぼんやりとそこで鞄に相棒を入れた暁はこの頃、いや数か月前からこの時間が好きだった。
学校に行きたいわけでも、友達に会いたいわけでもない。ただ駅で電車を待つ時間だけが好きなのだ。

「…あ」

ホームについてなるべく前のほうに立つ。向かいのホームが見えるように。

「…オイ、今日もなのか」
「ごめんもう少し」
「ハァー」

鞄の中のモルガナはそわそわと落ち着かない彼の振動にやや不満を言いながら顔を出した。
それにさほど心がこもっていない謝罪をしてすぐに正面に視線を戻した。

「…今日もかわいい」

彼が見つめる先にいるのは一人の女子高生であった。スマホを見つめて暁と同じように電車を待っている。暁は、彼女に一目ぼれしていた。
名前も知らないどこの学校なのかすらわからないけれど、彼は間違いなく彼女に好意を持っている。モルガナにそれを伝えた時は大変驚いていた。

「あんまり見るなよ?不信がられるぞ」
「わかってるよ」

遠目から見つめているとはいえ相手も見えないわけではない。下手をすれば警察に相談されるかもしれない。そんなことは絶対にあってはならないことである。

「せめて、知り合いになれたらいいんだけど」
「突然話かけてもナンパと間違われるかもしれんしな」
「落とし物してみようか?」
「何を落とすんだよ?」
「モルガナ?」
「なんでワガハイ!?」

とんだボケを口にしているあたりいつもの平常心はないようだ。数か月前からモルガナに相談しているが一向に相手と知り合うチャンスは見つからない。

「…探偵に頼んでみるか?」
「探偵…アケチか?」
「ううん、もっと普通の…確か依頼で相手と出会わせてくれるとか…」
「あれ、ワガハイの知ってる探偵と違うぞ…」

そしてどこから手に入れたんだその情報は。と続けて突っ込むが暁は「まだ金が足りない」とつぶやいてそれを無視した。
そうこうしているうちに電車は到着し、彼女の姿が一瞬で消え失せる。

「あっ…」
「今日はもう終わりだな」
「人身事故おこったりしないかな」
「恐ろしいこと言うなよ!」

今生の別れかと思うくらいに暁の表情は一気に暗くなる。これを毎日繰り返しているのによく飽きないものだ、とモルガナは思うが自分にも心当たりがあるので黙っておく。

「今日は座れねーか…はぁ」
「我慢しよう」

反対側のドアに鞄を抱えて身を寄せる。すると、反対の電車の窓からちょうど彼女も身を寄せていた。
窓越しとはいえ、いつも見る彼女よりだいぶ近い距離にいることに緊張し、がっつりと見つめてしまう。

「(すごい、唇綺麗、目が大きい、胸が結構大きい…)」

悲しいかな、男子高校生の性で見るところがどうしてもそういったものにいってしまう。だがそれを気にせず暁はじっと彼女を見ていた。
しばらくして向かいの彼女がそれに気づいたのかふと顔をあげて暁を見つめた。
流石にまずいと思ってそらそうとしたが満員電車の中で体の向きはおろか顔の向きも変えるのは厳しいもので、結局彼女から視線をそらすことしかできなかった。

すると彼女は窓にはーっと息をかけて何か文字を書き始めた。さすがにそれは視線を合わせて見つめる。

「ま た ね」

白い水滴から浮かぶ文字、彼女は手をひらひらと振って笑顔で、間違いなく暁にそう伝えていた。

「!?あのっ!ちょっ」

電車は無常にも手を振っているあたりで動き始めて彼が返事をする間もなくすぐに離れ離れになってしまった。ガラッと都会の景色に変わる窓を見つめてぼんやりと立っていた。

「オイどうした!?…?なんで顔赤いんだ?」
「…ごめんモルガナ」
「ん?」
「今日の放課後、駅でずっと彼女を待つことにした、その時少し遊んでてくれ」
「??まぁいいけどな!」

彼の突然の行動を不思議に思うがそれよりやっと関係が動くことに嬉しという気持ちのほうが大きかったため、そのままかばんにまた戻っていった。

「…知ってたのか……」

彼女の行動に一本とられた暁は、今度は自分が一本とることを決意した。顔の熱が冷めることを願いながら。


  




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