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□伝言の花
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※未来の話     




「これあげる」
「えっ薔薇?」
「うん、綺麗だろ?」
「とっても!ありがとう!」

デートの帰りに、暁は薔薇の花を一本くれた。
何の変哲もないきれいな紅色をした薔薇。

「よかった」
「でもどうしたの急に」
「別に、あげたいからあげただけ」
「ふーん」

彼と付き合ってもう数年たつけど、いまだに考えることがわからない。

「また贈ったらもらってくれる?」
「もちろん」

ただ、暁がこういう風に言うときは何かを企んでいる時だってことはわかってる。だから私は彼から贈られる花をただもらうことにしよう。




「はいこれ」
「…また、が早くない?」
「名無しさんに会えない時間は長く感じるからかな」
「答えになってない…」

翌日、暁は私の家まで来て薔薇を一本渡しに来た。今度もまた、何もない薔薇の花。

「これのために来たの?」
「うん、よければ中で少しのんびりしたいかな」

駄目?と少し首をかしげて困ったように笑うんだから、断れるわけないじゃない。
彼は私が断れない顔や言葉を知っててわざとやってるんじゃないかって思う。それを前に伝えたら「さぁ?」としかかえってこない。
ずるいとか、暁が断れない顔はどれとか、聞いたことあるけど「全部」って答えてきたから、そんなわけあるか!って暁の髪をわしっと掴んでぐしゃぐしゃにした想い出だ。

「いいよ、寒いから早く入って」
「うん」

片隅に先ほどの思い出をよみがえらせて暁を中に招き入れた。
本当に彼、あったかいコーヒーを飲んで少しくつろいだら帰っていった。薔薇の花は二本に増えた。







「どうぞ」
「これで24本目?」
「うん、数えてくれてたんだ」
「そりゃ毎日貰えばね、何かあるの?」
「内緒」

あの日以来毎日彼は薔薇の花を一本贈り続けている。

「今回はピンクの薔薇なんだ」
「かわいいでしょ?」
「うん」
「名無しさんによく似合ってる」
「キザだなぁ」
「名無しさんだけだよ」

以前暁が股掛けしていたって告白を聞いたことがある。それは彼の魅力のせいか、はたまた先ほどのような甘い言葉で虜にしていったのか。
現在で股掛けされていないと思う。たぶん。この告白を聞いた後疑った私に必死で無実を証明してきた時は嬉しい面白いだったな。

「明日も薔薇くれるの?」
「楽しみにまってて」
「待っておく」

ふと笑って暁は私の片方の手をもって自分の頬に当てた。冷たい。暁はそれを気にせずそっとすり寄ってはにかんできた。

「なぁに?」
「ううん、なんでもないんだ」
「そう」

暁が幸せなら、私は何も言わない。




それからもずっと変わらない関係のまま、ただ薔薇を贈ってくれる毎日だった。赤色だけでなく、違う色をもってきてくれることもある。おかげで私の部屋にある花瓶は薔薇が枯れては新しいものをというサイクルの繰り返しである。
枯れてしまった薔薇は、なんとなくもったいなくてドライフラワーにしたり、押し花にしたりといろいろ工夫して取っておいている。
暁のことだから、きっと意味があると思って捨てることができないのだ。

「はい、いつもの」
「はい、ありがとう」
「これで薔薇贈りはおしまい」

贈られた薔薇の数が100を超えて8本目にはいった時のことった。

「?もういいの」
「うん、もういいんだ」
「…もしかして、薔薇の花ことばをずっと贈ってたつもり?」
「んー、うん間違ってない」
「そんな遠まわりなことしないでもいつも言ってるじゃない」
「それとは別」

一応花言葉の意味を調べて「情熱」や「熱烈な愛」というまさに愛を表した花言葉だった。その花言葉を贈ることをやめたということは、それ以上の愛情がなくなった?

「…」
「あ、名無しさんのこと好きなことは変わらないから。むしろ大きくなってるくらいだから」
「そういうの言わなくていい!」
「だって名無しさんが不安そうな顔をするから…」

確かに不安にはなったけど…。
でも今までの贈り物になにか意味があるのだろうか。

「考えてみてよ」
「絶対答え見つけてやるから」
「待ってる」

いたずらっ子のように笑って暁は帰っていった。私も花を抱えて家に着き、ネットでぽちぽちと薔薇の意味を調べる。

「薔薇、うーんと…色とか意味とか入れたらいいかな」

薔薇という単語で全開は調べたけどキーワードを増やしてみよう。

「…本数と色で意味がある?」

ひとつのサイトを開いて中身を読んでいく。

「同じ色でも意味が違うんだー…あれ、暁が贈ってきた薔薇も確か色が…」

色の意味を読んで赤くなったり嬉しくなったりと忙しくしていると下のほうに本数の意味がでてきた。

「一本で一目ぼれ、あなたしかいない…二本でこの世界は二人だけ」

そうだ、本数に意味があるのなら彼が渡した108本にも意味があるかもしれない。ずっと下を見て、108本の欄を見つけた。見つけたら、息が止まった。

「…えっ」

本当にこれが正しい花言葉なのだとしたら、暁がこの意味でずっと贈ってきたのだとしたら。

電話しなきゃ



『もしもし?』

数コールで暁はでた。私は急いで彼に会う準備をする。

「も、もしもし!?今どこ!?平気?」
『どうした?忘れ物か?』
「忘れ物じゃない!とにかく今どこにいるの!?」
『家だけど…』
「じゃすぐいく!待ってて!」
『えっそんなに慌てなくても…』

電話しながらだと準備しにくい!だから暁には悪いけど勝手に切っちゃった。靴を適当に履いてドアを開ける。

「え…」
「もういるから平気って言おうとしたのに…」

ドアの先に、暁が別れたままの服装で立っていた。

「な、なにしてんの…」
「…答えを聞くため?」
「こた、え」
「意味、わかってくれたんだろ?」

暁の言葉で、あの薔薇の花言葉を確信した。ひどい遠回りだ。

「っもう!!長いのよ!」
「ふふ、ごめん。君の慌てる顔が見たかったんだ」
「何それ!嫌がらせ?!」
「いじわるって言ってほしいな」
「こんな一大告白をいじわるで済ますなんてどういう神経してんのよ!」

とにかく腹が立ったので持っていた鞄を暁にぶつけた。彼は当然と言わんばかりに鞄を受け入れて笑っていた。ほんとふざけんな。

「悪かったって」
「全然悪びれてないじゃない!何よ!楽しそうにしちゃって!もう答えない!」
「それは困る!」

花言葉のために用意した答えを言わないと言えば、今度は彼が慌てはじめた。

「勝手に困ってて!」
「ごめんって、別にふざけたわけじゃないんだ」
「知らないよ!そんな直接伝えない人の言葉なんて信用しません!」
「ちょっとしたサプライズだって」
「サプライズって言うならもっと相手が喜ぶサプライズにしてよ!」

絶対機嫌なおさないから!
そうしていたら、急に怒っていた私を暁はがばっと抱きしめた。

「…絶対許さん」
「許さなくていいからこのまま聞いて」
「懺悔?」
「ううん」
「何よ」
「俺と結婚してください」

はっきりと、直接彼は私に伝えてきた。
その告白で彼の顔を見ようとそっと横を向くけど暁特有のくせっ毛で顔はよく見えない。
でも、耳が真っ赤で髪の隙間から頬が赤く、目もぎゅうとつぶっているのがちらりと見えた。

「…あんたの鋼の度胸はどこにいったの」
「こんなの度胸いくつあっても足りない」
「よく言う」
「俺だって人間だよ」

腕に力が入ってきた。ちょっと苦しいから離してもらおう。暁の腕をやさいく叩いて離してと伝えてみた、けど彼は首を横に振って離さない。

「答え聞きたい子は離れてくださーい」
「はい」
「素直だな」

先ほどの抱擁が嘘みたいになくなり、暁を正面から見る。まだ赤い。彼が慣れない告白や愛情表現をするときに見る顔。

「まぁ結婚してくれなんていろんな人に言ってたらそりゃもうだめだわね」
「?なんの話だ」
「私の話」

さぁ、顔の赤みがうつらないうちに言わなきゃ。

「ねぇ暁」
「…何」
「私を暁の妻にしてください」

また、抱きしめられた。
丁度いいや、私今すごい真っ赤だから。








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