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□彼氏は今日も
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「暁くーん!」
「名無しさん」

休み時間にえへへと笑いながら前を歩いていた暁に声をかけた。

「どうかした?」
「ううん、いたから声かけただけ!」
「そうか」

特にこれといった反応をしない彼に対し名無しさんはとても明るい笑顔である。

「あ、そうだ」
「ん?」
「あのね、お昼のときちょっと委員会で顔出さなきゃいけないからちょっと遅れるの」
「わかった」
「うん!それじゃまたお昼にねー!」

手を大きく振って名無しさんは終始笑顔で教室に戻った。暁も手を振り、教室へと戻っていった。


「ねぇ、名無しさん」
「なに?」

教室に戻った彼女に友人たちが話かける。

「あんたの彼氏ってすごいたんぱくよね」
「んー…そうかも?」
「いやそうでしょ!いっつもあんたすんごい彼にキャーキャー言ってめっちゃ好きってオーラなのに彼氏ってそれに笑顔にもならないのよ?」
「やっぱ前科者だから…?」
「名無しさんなんであんな奴と付き合ってんの…いや、悪い奴じゃないってのはなんとなくわかるけど…」
「すごく優しいよ、暁くん!」

名無しさんと暁が恋人同士であるということは彼が前科者の噂並みに有名である。最初こそ名無しさんの心配や脅されてるのではという声が多かったが時間や彼の生活に生徒たちも「そこまで悪い奴ではない」という認識が広まっていた。
また彼女が変わらず笑って生活しているため、そんな話題はほとんど聞かなくなった。

「優しい…の?」
「うん、ちょっと表に出ないだけだよ」
「クーデレってやつ?」
「そういうギャップは有りかも…」

成績優秀で誰にでも優しく接し、おまけに顔が綺麗という女子にモテない理由がない要素を持ち合わせた暁にちょっと黄色い声が出始めたのは最近のことである。

「さりげなく荷物持ってくれるし、勉強とかわからないところをわかりやすく教えてくれるし」
「わー!なにそれちょーかっこいいじゃん!」
「そういうの聞くとうらやま〜」
「あたしも彼氏ほしいいいいい!イケメンの!」





『そういうの聞くとうらやま〜』
『あたしも彼氏ほしいいいいい!イケメンの!』

「…ふふ」
「ちょ、暁顔がヤバいって…」
「はぁー…名無しさんってほんと天使だよな…」

教室で耳にイヤホンをつけて不気味に笑う暁と前の席に座る若干引いてる杏。
先ほどの名無しさんとの貧しい表情とは違いとても笑顔である。

「友達に俺のこと自慢してるとかなんなんだかわいい、やっぱり天使だった…名無しさんかわいい」
「あんたその笑顔を名無しさんに見せなさいよ…もっときれいなほうの」
「無理だ」
「即答!」
「名無しさんの前で笑ってしまったらカッコイイ俺のイメージが壊れる、なにより俺が名無しさんの笑顔で笑顔になる余裕はない」
「なんでそんな決め顔でいうの…」

杏は暁の答えにため息をこぼすしかなかった。
そんな彼女を気にせずイヤホンに集中する。

「…ねぇ、そのイヤホンで今、何聞いてるの?」
「名無しさんの声、今俺にメール打とうか悩んでる…どんな内容を送ってくれるのか楽しみだ…」
「あぁ…うん、だよね」

もはや杏に突っ込む気力はない。イヤホンから名無しさんの声を聞いている、というのは録音ではなく、現在進行形の声を聞いているのだ。いわゆる盗聴である。
盗聴経路は名無しさんのスマホからで、双葉特製のものだ(買収)余談だがこの機能がつくまで盗聴器付のボールペンを彼の超魔術師まで鍛え上げた器用さと怪盗で使う道具作りの知識で軽く改造し、普通のボールペンの形に仕上げたものをプレゼントしていた。

「どーして暁はこんなストーカーになったんだろう…」
「強いて言うなら名無しさんが眩しい女神のような存在だからかな」
「かっこよくないっつーの」

ストーカー、暁は間違いなくそのような行動をとっていた。名無しさんの声を盗聴し、盗撮、動画はもちろんある。メールはすべて保護、彼女の存在を感じられるものはあらゆる手段で保存。ほかにもいろいろあるが、とにかく暁の名無しさんへの愛情は異常であった。

だからといって名無しさんを無理やり物にしているのではなく、名無しさんの幸せを第一に考えて行動している。
それによって彼のストーカー行動が緩和されそうな気がしなくもない。

「外から見れば彼氏にデレデレの彼女なのに中身は逆かそれ以上だもんねー」
「名無しさんの行動や好み、タイミングを知っていれば彼女が笑顔を向けてくれるし手を握てお礼を言ってくれる、たまらなくそれがかわいいし息をするのも苦しくなる。あぁでもあの笑顔を至近距離で見つめたら死ぬな、あれはダメだよく俺の腕にくっつくがあれもダメだ心臓がいつも破裂する発作を起こす。もうかわいすぎる上目遣いとか」
「うるさい」

ピシャリと杏が暁の名無しさんへ対する思いを切った。もはや怪盗団のリーダーが骨抜きにされて犯罪者になっているのはメンバー全員が承知しているがまだまだ慣れそうにない。

「なぁ、名無しさんの息ってどうやって捕まえたらいいかな…」

とりあえず彼にパレスができないことを祈っている。





彼は今日も





      

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