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□狙って恋人
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「よろしくね名無しさんさん」
「は、はひ……」
明智吾郎という男は柔らかい笑顔、甘いマスクで女性に人気のある人物だ。そんな男に対面で微笑まれて見てほしい。たちまち緊張して焦り、照れてしまうことだろう。これは大多数の人が陥る症状だというのを理解してほしい。
したうえで、我が怪盗団リーダーの状態を見てほしい。
「…………………」
「名無しさんさんはどんなペルソナ能力なんだい?」
「えっえと…ほ、ほじょ…やくを…」
「補助系か…ネクロノミコンと同じなのかな?」
「いえそーいうんじゃなくて!……み、みんなの補佐というか…助力…というか…」
「分析ではない補助…能力強化とかそっちかな?」
「そそそそそそうです!!」
「…………………………………」
ほわほわと何でもない会話に刃物でざくざくと刺すような視線をぶつける我らがリーダー暁。その視線はたぶん人を殺せるだろう。
「暁、顔こえーよ」
「そうかな」
「そーだよ」
竜司の言葉に顔も声のトーンも変えずに返事をする。正直めっちゃ怖かったと竜司は言っていた。
「とても心強いね」
「そ、そそっそう、でしょうか??」
「うん、戦力は大切だけど、それを補う役割はとても重要だと思う。縁の下の力持ちってところかな」
「そんな重要な…そんな…こと……」
浮かれていた会話から一転して名無しさんは自分のいままでの失態を思い出してしょぼくれてしまった。
「えっどうしたんだい?」
「な、んでもないんです…ただ…ただぁ……ぐずっ」
突然泣き出した彼女に明智は慌てた。暁はさらに殺気を増したが、これはチャンスといわんばかりに顔を緩めて名無しさんに近づく。
しかしそれより早く、明智が胸ポケットからハンカチを取り出して彼女の涙を拭いた。
「ごめんね、君を傷つけるつもりはなかったんだ…」
「ちが…ちがうんです…わたしがかってにぃ……」
「あまりこすっては駄目だ。こっち向いて?あぁ、せっかくかわいい顔が台無しだ」
「うぅ……はずかしい…」
「……………」
慰めて明智を非難し、自分のところに戻す算段は見事に砕かれて、行き場のない手だけが宙に浮いていた。ふいに観客側からくすくすと笑う声が聞こえる。その間も明智は名無しさんの目じりをちょんちょんとハンカチで拭い続ける。
「……すみません…」
「いいよ、僕が何か言っちゃったみたいだから」
「いえ…ぃぇ……」
「お、おちつきなって暁…」
「この世のものとは思えない形相だな。モザイクいるか?」
「修正案件か!?リアルはできねーぞ!」
がやがやと騒ぎ始めた後ろに名無しさんは気づき、そして暁の顔を見てしまった。
「あ、あっぁあぁあぁぁ暁!!?顔…ど、か…あの…!」
「え、あぁ…別に…」
「そんな、そんな怖い顔で…大丈夫なんて…ま、また私なにかしたの!?わ、わた……」
せっかくとまった涙がまた溢れそうになった。暁は今度こそかけより彼女の顔を両手で包む。
「違うんだ…俺が、勝手に怒ってるだけだから、名無しさんはなにも悪くない」
「ほ、ほんとうに…?私、鈍いから、また暁に…なにか…」
「名無しさんのせいじゃないから。大丈夫だ」
先ほどの鬼のような顔が嘘のようにふにゃふにゃとした顔になった。名無しさんはそれを見てほっとしたのかこちらも顔をゆるめてわらった。
「名無しさんさん大丈夫?」
ハッピーエンド、というわけにはいかないようだ。
「えっ…はい…」
「そう?無理してない?」
「だ、大丈夫です…」
「よかった。君もあんまり怖い顔をしないほうがいいよ」
「どうも」
「ひえっ」
また恐ろしい顔になった。
「ほら、その顔。名無しさんさん怖がってるよ」
「お前が近寄らなければなおる」
「どうして?僕は彼女を心配しているだけなのに」
「心にもないことをよく言えるな」
「心外だなぁ…信用されてないのはわかるけど」
名無しさんの頭上で行われる熱い火花なのに絶対零度というまさに地獄のような空間。名無しさんは恐怖と混乱で再び泣き出してしまうのだった。
狙って恋人
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