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□彼女はそんなに淡白か
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メイド喫茶、いこうぜ。

そんな一狩り行こうぜみたいな言葉を発した三島の表情と行動は思春期真っ盛りの高校生らしいものだった。そして声をかけられた暁と竜司はなんとも言えない顔をした。詳しく言えばちょっと興奮している。

「三島…お前…」
「今回は節度ある高校生として仕方のない行動なんだよ!前のはちょっと…早すぎたんだ!」
「俺はお前らが逃げたことを忘れないからな…」

おかげで先生との契約ができたわけだがあの時はほんとに泣きそうになったと後にモルガナに語った。

「ここは逃げ場ねーだろ…てか、まじで行くのか?」
「調査だよ…同じ高校生の、しかも秀尽の子が働いてたなんてことがあったら一大事だろ?」
「その心は」
「女の子にご奉仕されたい」

かくして三島のモテない男子の悩みと煩悩、竜司の思春期からメイド喫茶に行くことになった。
ここまできて俺らだけ痛い思いをしたくないと半ばやけっぱちで祐介を呼び出し巻き込み事故を起こした。
怪盗男子メンバーとして貴様も道連れだ。

「「おかえりなさいませ!ご主人様!」」

その挨拶に竜司と三島は興奮し、祐介は内装を見つめ、暁は苦虫を潰したような顔をした。

「ご主人様方、お席へご案内いたしますね♡」
「はーい!」
「おお、このコントラストはなかなかいいものだ」
「行くぞ」

席に案内された四人はそれぞれメニューを開き、説明と値段を見て頭を抱えたり興奮したりした。みかねた暁が「俺が全部払うよ」となんとまぁ男らしいことを言って三人をときめかせた。メイド喫茶なのに。
それからベルをならして店員、もといメイドさんを呼ぶ。

「およびでしょうかご主人様」
「注文をした…」

来てくれたメイドを見て、暁の顔がひきつった。残りのメンバーもメイドを見て、二人が固まった。一人は状況が飲み込めなかった。

「ご主人様、ご注文は?」
「ちょちょちょ…」
「それともゲームですか?」
「何してるんだ名無しさん…!!」

思わず立ち上がり肩を掴もうとしたがお触りは禁止ですと冷静に対処された。

「え、いや、ほんとになんで?」
「ここでバイトしてる友達がインフルで来られなくて代わりに来たの」
「…なんで?」
「ここでバイトしてる友達が」
「聞こえてる、求めてる答えが違う」

突然の自分の恋人登場に動揺しながら席に戻る。二人も頷き答えを求めた。

「え、なに?知り合い?」

ただ一人、三島をのぞいては。

「はじめましてご主人様、臨時で呼ばれたメイドです。構ってくださいにゃん」

そう言って三島にくるんと回って猫の手をつくりポーズを決めた名無しさん。声も顔も無表情である。
ちなみに回ったときに舞い上がったスカートからのぞく絶対領域の太ももが見えたため「おおっ」と声をあげて乗り出した。暁は顔をそむけた。

「ちゃんと見ろ。じゃないと私の給料が入らないでしょ」
「いてっ」

頬をつねって顔を上げさせる。メイドからのお触りは良いらしい。

「それでどうして君がここで臨時に入ったんだ?正直君向きではないだろう」
「すごく同意」
「認めんのかよ!」
「だって私好きじゃないもの。でも友達が『頼れるのあんたしかいないの!あんたならいける!ギャップでいける!そういうの好きな奴たくさんいる!あと儲かる!』って言われたら断れないでしょ」

たぶん9割9分9里が儲かるという言葉だろう。

「で、話しを戻すけど。ご注文ですか?それともゲームですか?」
「注文で…」

ヒリヒリする頬を抑えながら注文をしていく。それを名無しさんが聞いて注文を確認する。終わると「それでは失礼しますご主人様」とまたもクールな顔で去っていった。

「そういえばインフルの時期だったな、お前んとこの担任もそうなんだろ?」
「あぁ…」
「こちらも一年が学級閉鎖になっていたな」
「まじで?俺らんとこもなんねーかなぁ…」
「そうしたら遊び放題だよなぁー…」

だらりと椅子にもたれて学級閉鎖を求める三島と竜司。祐介は内装やメイドに目を光らせてはあれがいいこれがいいとブツブツつぶやく。暁は彼女のことで頭がいっぱいだった。
そうこうしているうちに品物が届く。またしても名無しさんが持ってきた。

「なんか、ウケがいいからここで金絞ってこいって言われた」
「エグい…」
「できれば聞きたくなかった…」
「高校生のあなた達に期待はしてないわよ」
「うむ、そのさっぱりとした性格は好感がもてる」
「ありがとうございますご主人様。それではオムライスに何を書きましょうか?」

すっとケチャップを取り出して聞く。それから頼んだ三島がハートをお願いすると名無しさんはケチャップで書き始める。なんだか手が震えている、顔も少し怖い。

「…?」
「お、おい…」
「大丈夫でございますご主人様…!!」

ぷるぷると震える手で描きあげたハートはやはりいびつでお世辞にもきれいとは言えなかった。

「あー…」
「…すみません…」
「いいって!苦手だったんでしょ?」
「で、でも、これじゃ…」

なんだかしょぼしょぼして泣きそうだ。すんすんと鼻まで鳴らし始めた。三島は慌てて慰める。

「大丈夫、女の子が描いてくれたなんて俺初めてだし!ね!?嬉しいよ!」
「…本当ですか?」
「ほんとほんと!なんならもっと描いてほしいぐらい!」
「……ご主人様は、優しいのですね」

彼女は涙目でふわっと小さく微笑んだ。
これにより三島はギャップ萌えというものを学び、顔を真っ赤にした。祐介も竜司もぼけーっとみつめ、暁も顔を赤らめた。

「あっあの…えーっと…」
「ご主人様、ありがとうございます…」

二度目の微笑み。三島は白旗を降った。無表情からの突然の微笑みのギャップは計り知れないものだったということだ。

「おーい、三島?三島ー!?」
「駄目だ、魂が抜けてる」
「彼女は笑うと美しいな…今度のデッサンで…」

初めてのメイド喫茶はギャップ萌えがすごかった。と三島は悟った。



「なにしてんの?」
「待ってたの」
「そう、送ってくれるの?」
「そのために待ってたんだけど…」
「じゃよろしく」

バイト終わりの彼女の手を遠慮なく自分の手でからめとってすたすたと歩きはじめる。

「いつまでバイトするんだ?」
「友達のインフルが治るまで」
「そっか……」
「一応変な客には出会ってないから」
「そういうことじゃないけど、いいよ聞かないだろ?」
「そうね、給料いいからやめない」

とても本能に忠実な返答だった。彼女らしいとも思えたし心配だとも思った。

「大体、こんな女を好きになるのは暁ぐらいなもんだよ」
「…そうだと嬉しいな、名無しさんは俺にはすごくかわいい子に見えるから」
「はあー女たらしが言いそうな言葉だこと」

彼女は頬を染めてぎこちなく笑っていた。それはあの店で見せた綺麗な笑顔とは違うもの。

「…ふふ」

だが暁は知っていた。こちらが本当の名無しさんの笑顔だと。これを見れるのは自分だけなのだと。

それが暁にとってとても愛らしいのだと。




彼女はそんなに淡泊か




お願いチャンネルより



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