Kitten
□かぞくになった日
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朝だ朝だと歌ってる窓の外の鳥さん。
あったかいお布団から抜け出して、まだ目をつぶってるしんぐぅの白い首すじにグリグリとアタマを擦り付けた。
起きてよ、ぐぅぐ。お腹空いたよ〜。
「うぅ〜ん…くすぐったいよ、チェナ」
片目だけ開けたぐぅぐは、ぼくを捕まえるとやっと起き上がる。
「くすぐったいからダメって言ったろ?ん?」
持ち上げたぼくの鼻にチュッとキスして、小さくメッをする。
くすぐったくてダメなんだって。でも、ぼくが起こさなかったらしんぐぅはずっと寝てるんだもん。
「チェナ、ミルクも飲む?」
みるく?
顔を上げたら、ぐぅぐがふふって笑って立ち上がった。
「ぼくも食べようかな。チェナを見てたらお腹空いてきちゃった」
ぼくのごはんの横にみるくを置くと、ガサゴソと袋から出したパンをちぎって食べ始めた。
しんぐぅはごはんをよく忘れてしまうのだって。ぼくが来てマシになったんだって、この間来たるぅぐぅが言ってた。
おなかが空かないなんてへんなの。ぼくはすぐに空いちゃうのに。
あの日。目を覚ますとぼくはバスケットのなかにいた。
開けてぇ〜と鳴くとフタを開けてくれたのはしんぐぅ。
出してくれたそこは知らない部屋。
オンマも兄弟たちもいなくて、ぼくは怖くなってしんぐぅの抱っこから飛び降りて、部屋の隅っこ、棚の下に隠れたんだ。
「やっぱりまだ早かったんじゃないかな」
「まあ、しばらく様子見てみようぜ。腹が減ったら出て来るさ」
「うん……」
パタンとドアの閉まる音がして、ぼくはひとり、知らない部屋の隅っこにうずくまったままジッとしてた。オンマの甘い匂いも兄弟たちの遊ぶ声も聞こえない。
どうしてぼくはここにいるの?
オンマや兄弟たちはどこ?
怖くてさびしくて、泣きそうになってたら、扉の向こうからポロンポロンときれいな音がしたんだ。
その音を聞いてたら、またウトウトと眠くなってきたんだ。
「…チェナ?ミルク持ってきたよ?」
目を開けると、しんぐぅが覗き込んでた。
ぼくはびっくりして、毛を逆立てて見せたんだ、来るなって。
「あー、怒らないで。ごめんよ、明日になったらオンマのところに帰してあげるから……」
だから安心してミルクをお飲み。と棚の下に入れられたお皿には、ほのかに温かいみるくが入っていた。
すんすんと鼻を鳴らすと美味しそうな匂いがして、おなかがきゅっとへこんだ気がした。
「ごめんね、チェナ。おまえはまだ小さいのに連れてきちゃって…。家族は近くにいた方がいいよね」
しんぐぅの声がとてもさびしそうで、ぼくは美味しそうなみるくよりもお皿に添えられたしんぐぅの白い指先を、ペロリと舐めた。
「…さわっていいの?チェンは優しい子だね」
喉元を撫ぜるゆびはやっぱり気持ちよくて、ぼくは引き寄せられるまま、しんぐぅに抱っこされていた。
この日、ぼくはしんぐぅの家族になった。