Guardian
□XmasDay
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むかしからひとの噂とかに疎くて、自然と周りもそういうやつが多いから、転校生に気付いたのはあいつが何人目かの告白を断ったという話になってからだった。
中国からやってきた、とてつもなくきれいな顔をしたおとこ。
とはいえクラスも離れているし、合同授業もないから遠目でたしかにきれいな顔だなと思った。目立ってたいへんだろうなとも。
そんなおれたちに接点はなかった。ないはずだった。
暖冬といわれたその年はクリスマスになってもほとんど雪が降らなくて、オレは部活を終えてクリパだカラオケだというチームメイトの誘いを断って、ハルモニの家に向かっていた。オモニへの届け物を受け取るために。
繁華街をすこし外れてるとはいえ、街はイルミネーションに彩られ、クリスマス一色だった。その道すがら、ふと視線をあげるとあの転校生がまえを歩いている。
おなじ学校とはいえ、こっちが一方的に顔を知ってるだけだし、しかもうろ覚えだし。このままやり過ごそうと距離を保ってうしろを歩いていると、とつぜんあいつの足が止まった。
曲がるのか?そもそもあんなところに道あったっけ?
あいつはいぶかしむオレを知る由もなく、ビルの脇道へと入っていく。
「…なにしてんだ?」
通り過ぎるつもりでちらっと横目で見れば、やはりそこは道ではなく建物と建物のすき間。うずくまるあいつの背中に、思わず声をかけてしまった。
「え?あ……」
振り向いたあいつの向こうに汚れたちいさな段ボール箱。茶色い毛布みたいなものが見えた。
「……ネコか?それ」
「うん…でももう動かないみたいで」
毛布のように見えたのは、ちいさなちいさな子ネコの背中だった。雨は降ってないけど汚れてるのか、毛並みが濡れそぼってるように見える。くったりと横たわったまま、動かない。
「死んだのか?」
「たぶん…。でも、このままにしておけなくて……」
捨てられたのだろうか。クリスマスに、しかもこんな人目に触れられないような、きらびやかなイルミネーションの影になるようなすき間に。
こいつは通りがけに目に入って、通り過ぎることができなかったってことか。
オレは肩にかけていたカバンを両肩に背負いなおすと、段ボール箱に手を伸ばした。
「え?おい、どうするんだ?」
あいつは焦った顔をしてオレが持ち上げようとした段ボール箱を押さえる。
「このままにしておけないだろ。ハルモニの家がすぐそこだから、ちゃんと送ってやるんだよ」
「え?いいのか?」
「むかしからネコも飼ってるし、頼んだら大丈夫だと……え?」
取り合いみたいになって箱をガサガサしたからか?一瞬、横たわった子ネコが動いた気がした。
そんなオレの様子にあいつも動きを止めて、オレの視線の先、箱のなかをじっとのぞき込んだ。
「「……!!!」」
オレたちは目を合わせると、すぐさま箱を抱えて立ち上がった。
なるべく早く、だけど振動が大きすぎないように走るオレのあとをあいつが小走りについてくる。
ハルモニの家に駆けこんで、冷え切った子ネコを温めてちいさな鳴き声を聞いてホッとしたあと。
オレたちはやっとお互いに名乗り合ったんだ。
勝手口を開けると、あの頃よりも多少おとこっぽくなったものの、やっぱりきれいな顔だな。
「チャイム鳴らしても大丈夫だって言ってるだろ」
「だって動物たちが寝てたらかわいそうだろ」
優しいところも変わらない、ルハンがそこにいた。
2016.12.25『XmasDay』