tomboy
□この街に来たとき(キョニ)
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覚えているのはガタガタと揺れる冷たい荷台。
兄弟たちとかくれんぼをして遊んでいたはずだった。
おれは誰よりも隠れるのが上手くて、いつもだれもおれを見つけることはできなくて、オンマに出ておいで〜って呼ばれてから出ていくんだ。
あのときも全然見つけに来る気配がなくて、待ちつかれたおれはいつの間にか眠ってしまっていた。
ガタガタという大きな揺れにハッと目を覚ましたおれ。
立ち上がれないくらいそこは揺れていて、ブォーブォーと大きな音が響いていた。
怖くなったおれは耐えながらなんとか立ち上がって、入り込んできたホロのすき間から外を覗いてみたんだ。そこは見たこともない石畳の道。走り去る知らない景色。
隠れていたクルマは、荷台におれを乗せたまま動き出していた。
びっくりしてミーミー鳴いてもクルマが止まることはなく、鳴きつかれてまた眠ってしまったおれ。
「いつの間に入り込んだんだ?」
起きたのは揺れが止まって、ヒゲモジャのにんげんがおれをつまみ上げたときだった。
離せよっ!と暴れると、そのにんげんは道ばたの草むらにおれを放り投げて、クルマは走り去っていった。
知らないにおい。
知らない場所。
おんま……みんなぁ…………。
鳴いても鳴いてもオンマも兄弟の声は聞こえない。気配さえない。
のども乾いておなかもすいて、それでも鳴くしかできなくて。
鳴きつかれておれはその場に横たわった。
アタマがくらくらして目の前が暗くなっていく。
「まさか死んでる?え?生きてる?え?こんなとこでいたら死んじゃうって。おいってば」
もう目が開かなくて、死ぬってことがどういうことかわからなかったけど、だれかがおれを起こそうとしてることはわかった。
おれのくびを銜えようとしるのか、うまくくびの皮がつかめないらしくて、あれ?あれ?って声が聞こえる。
頭突きのようにアタマで押されて、ザリザリと舐められていくうちに、冷えていたからだが温かくなってきて、それでもまだあれ?あれ?って声が聞こえてて、なんだかイラッとした。
「銜えるんだか、舐めるんだかはっきりしやがれっ!」
さっきまで開かなかった目が開いて、立ち上がって文句を言うと、目をまんまるにして、間抜けなかおしたヨリがそこにいた。