not L but S

□2."新人"
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フタバタウンからマサゴタウンまで、さほど距離はなかった。

ナナカマド博士の居る研究所を尋ねると、博士が快く出迎えてくれた。
ただし、厳格そうな表情はほとんど崩れてはいない。

「待っていたぞ。長旅ご苦労だった」
「はじめまして、メグといいます」
「君の話は聞いている。ホウエンでは"逸材"と呼ばれているそうだな」
「いえ……」

苦笑いで返すと、博士にささやかな笑みがこぼれた。

「謙遜はいらない。シロナから聞いた話だ、本当のことだろう」
「シロナ……?」
「この地方のチャンピオンだ。あいつはわしの教え子でな。たまに会うんだが……よく君の話をしてくる」
「え……私の?」

私は、会ったこともない人に知られているほど有名ではない。
私を"逸材"などと言うのも、そう言われる理由を知っているのも、ごく一部の人だけ。
となると、この地方のチャンピオンと接触する可能性のある、ホウエンの現チャンピオンが一番怪しい。
あのナルシストな水使いなら、私よりも自分自身を売り込みそうな気もするけど。

「まぁいい。それより、忘れんうちに君にこれを渡しておこう」
「ありがとうございます……!」

差し出されたのはポケモン図鑑。
ここに立ち寄った一番の目的。
ありがたくそれを受け取ろうとした時、研究所の入り口から騒がしい声が聞こえてきた。

「おい博士!"新人"きた!?」
「エントか。お前はもう少し静かに入ってこれんのか」

入ってきたのは、いかにも活発そうな感じの男の子だった。
髪は明るめの茶色で、くせが強いのか、少しツンツンとしている。
服装はジャージの袖を腕までまくり、ズボンも七分丈でアクティブな印象を受ける。
エント、と呼ばれたその青年は、背が自分よりもやや高いが、自分と同じくらいの歳にも見える。
青年はこちらに気づき、自信に満ち溢れた顔で近づいてきた。

「オレはエント。ここ、マサゴタウン出身だ。あんたは?」
「私はメグ。ホウエン地方のミシロタウン出身で、つい一昨日、この地方に引っ越してきたの」
「あぁ、博士から聞いてる。ポケモン初心者なんだろ?オレが全力でサポートしてやるから安心しろ!まずは……」
「ちょ、ちょっと待って」

どこからつっこめばいいのか。
ちらりと博士を見ても、呆れた顔でため息をついている。
腰の小さなポシェットに一つだけ入っているモンスターボールが、もどかしそうにカタカタと震えているのがわかる。

「エント、彼女にはほとんどサポートなどいらんだろう」
「?」




「彼女はホウエン地方のチャンピオンだ」


「……は?」
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