not L but S
□1.始まりの始まり
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窓から朝日が差し込み、部屋を明るく照らしている。
昨日、カーテンを閉め忘れていたらしい。
今日が楽しみすぎて、昨日は寝られないと思っていたが、気づいたら朝。
そう。
結局、自分はいつだって緊張感がたりていない。
これは私のせいではなく、父のせいだ。
自分の性癖の9割は父から受け継いだと思う。
母からは、栗色の豊かな髪、長いまつげ、といった容姿くらいで。
清楚端麗な慎ましさ、といったものはなにも貰えていない。
きっと、わたしを飛ばして先の子孫の誰かへと受け継がれて……
ポンッ
ベッドから起き上がったきり、いつまでも行動を起こさないわたしに痺れをきらしたらしい。
枕元に置いていたボールから勢いよく飛び出してきたのは、私の唯一の相棒。
『シャアァ!』
「ごめんごめん」
2メートル近くもある赤い身体を見上げ、私は申し訳なさげに振る舞う。
"彼"はこちらを見下ろし睨むが、彼を幼い頃から育ててきた私には効かない。
「はー、昔はあんなに小さくて可愛いかったのに、今じゃ育ての親をを威嚇するまでに大きくなっちゃって、ねぇ?」
言いながら、側にあったお気に入りのアチャモドールを抱きしめる。
それを見せつけられた彼はそっぽを向き、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
いつものやりとりだ。
こんなに大きくなってしまったのは正直、寂しいけれど。
私にはこの子が必要だ。
この子もそれを分かっていて、私に力を貸してくれようとしている。
これから始まる、新しい旅で。
「……よし!!」
布団から出て気合いを入れ直した所で、彼はやれやれ、という感じでボールに戻っていった。