闇金短編

□目について
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「名前ってやっぱり目、茶色いよな」
唐突に話し出すのはいつも柄崎さんだ。
「確かに。カラコンつけてるみたいですよね」
いつもなら聞いているだけなのだが、今日は珍しく参加することにした。
「カラコンはつけてないよ〜」
いつもと何ら変わりない様子で答える名前さん。小さい時から言われているのだろうか?特に驚いた様子もなく、さらっと答えられる。
「名前、中学の頃から言われてるよな。つか、昔より明るくなったか?」
やはり昔から言われていたらしい。しかも昔より明るくなった説まで出てきている。
「それなぁ。いや、明るくはなってないと思うよ?多分光の加減とかじゃないかな?」
あはは。と笑いながら後ろにある窓を仰ぎ見る。
今日は連日続いていた雨が止み、珍しく快晴だった。
「おい名前、昼行くぞ。」
「おけおけ〜」
皆で空を見ていると、社長が名前さんを連れて行ってしまった。
「俺が誘ってもなかなか一緒に来てくれないのに…」
と言う柄崎さんの嘆きは聞かないフリをする。
「今帰りました〜!」
この調子の柄崎さんと2人で昼はキツいと思っていると、タイミング良くマサルが帰ってきた。
「ちょっと聞いてくださいよ!さっき社長達見たンすけど、すっげェイイ雰囲気だったンすよ!」
「へぇ。どんなだったの?」
いつもなら流すところだが、今日はのってみる事にした。
「まず、社長がすっげェ笑顔でした!」
「えっ?!あの社長が?」
これには思わず驚いてしまう。
あまり表情を変えない社長の笑顔…
うん。想像できない。
「それから、社長がめっちゃ名前さんにかまちょしてました」
「かまちょって、例えば?」
少し聞いて終わりにするつもりだったのに、どうしても好奇心を抑えれずに続きを急かしてしまう。
「後ろから抱きついたり、名前さんの手触ったり」
「え、社長が人に…?社長って潔癖症でしたよね?」
「社長は、名前なら大丈夫なんだよ」
さっきまで黙っていた柄崎さんが急に会話に参加してきた。
「付き合いが長ェからな。それに、名前は社長の特別だ」
自分の事では無いのに、何故か柄崎さんが誇らしげにしている。
「もう10年近く経つのに、未だにラブラブだからなぁ」
「え?!社長達、付き合ってから10年経ってるンすか?!」
長い付き合いだとは聞いていたが、てっきり仲間としてで、恋人としてだとは思わなかった。
「おう。俺達が中坊の時からだから、そんくらいになるなぁ」
またしても柄崎さんの誇らしげな顔。
「そだ、高田さん達、一緒に昼行きましょ!」
そうだった。マサルも一緒に誘おうと思っていてすっかり忘れていた。
「おう、行くか!いつものとこでいいか?」
「そこだと、社長達いませんかね?かち合うのは少し気まずくないですか?」
「…確かに。オレ絶対ニヤニヤしちゃうっす」
いつものところに食べに行き、社長達とかち合い、マサルがにやけて社長に冷めた視線を送られる未来が容易く想像できる。
「…今日は出前にすっか」
柄崎さんの一言で無事今日の昼が決まった。


店でかち合うことは無かったが、事務所に戻ってきた社長と名前さんを見て、結局マサルがにやけて冷めた視線を送られる未来まで、あと数十分――――

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