闇金短編

□プレゼントについて
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「あれ?社長、この箱なんすか?」
社長の机の上に置いてあるのは、綺麗にラッピングされた小さい1つの箱。
箱には筆記体でロゴらしきものが書かれているが、さっぱり読めない。
「戌亥から名前へのプレゼントだと。」
ちらりと箱を見やって、淡々と返される。
「苗字、誕生日かなんかなんすか?」
戌亥が苗字の事を狙っているのは間違いない。今思い返すと、中学の頃から戌亥は苗字の誕生日やクリスマスなどの行事毎にプレゼントを渡していた。
そのせいで何回も付き合っている疑惑が浮上し、その度に社長がそう言い出したヤツをボコしていた。
「いや。つい衝動買いしちまったらしい。」
とうとう誕生日でもないのにプレゼントを渡すまでになったかと思うと、中学の頃を思い出して笑ってしまう。
「…なに笑ってンの。」
「いや、戌亥は中学の頃から事あるごとに苗字にプレゼント渡してたなって思い出しちまって」
「…そうだったか。」
「あんまり戌亥が苗字に熱心なもんだから、付き合ってる疑惑があがったりしたの、覚えてません?」
「…忘れた。」
ぶっきらぼうに言うあたり、覚えているんだろうと勝手に納得する。
「戌亥はなにプレゼントしたんですかね?」
小さいながらも高そうな箱に視線を注ぎながら社長に問う。
「…香水、らしい。」
少し意外な答えに、社長の顔を見る。
「なんか意味とかあるんですかね?」
「なンでそう思うワケ?」
さっきまで箱に注がれていた視線が、ぱっと自分に向く。
「いや、あいつは昔から意味のあるものをプレゼントしてたから…っすかね?」
そう、ネックレスや腕時計などの意味のあるものを選んでプレゼントしていた記憶がある。
でも、香水に意味なんてあったかと考えるが、全く分からない。
「香水にも、なんか意味があるんすか?」
素朴な疑問をぶつければ、眉間のシワを深くして
「…フランス語で、独占したいって意味だよ。」
と教えて貰った。
なかなかパンチの効いた意味に、表情筋が素直に活動する。
「…苗字に、ちゃんと渡すんすか?」
視線を社長から箱に移して、再び問いかける。
「当たり前だろ。渡さねェと戌亥、絶対めんどいからな。」
渋々といった様子だが、ちゃんと渡すというところは流石社長だと思う。
普通なら、そんな意味が込められたと知っているプレゼントなど、渡したくないだろうに。
「…例えあいつがどんな意味を込めてプレゼントを贈ろうが、名前は俺だけのモンだから。」
ハッキリと聞こえた言葉に、社長の方を見る。社長も俺の方を見ていて、視線が絡み合う。
「俺は、手。出さないっすよ」
おどけて両手をあげてみせ、少し重たくなった空気を解消しようと試みる。
「ばか。ンな事わかってるよ。」
なんとか重い空気を打破し、心の中でホッと息を吐く。
「苗字達、遅いっすね」
時計は1時を少し過ぎていて、いつもなら休憩から帰ってくる苗字達がまだ帰ってきていない。
ブブッ
「今から帰るってさ。」
どうやら社長のスマホにラインがきたらしく、社長が戌亥からのプレゼントを渡す時がもうすぐ来ると思うと、少し胃が痛くなった。
さっきののろけ?は社長と俺の秘密にしておこう。
むしろ他の奴に言ったら俺が締められる。
「うし、仕事すンぞ。」
社長の掛け声で、通常業務にとりかかる。
苗字達が帰ってきて、戌亥からのプレゼントを渡されるのは、5分後の出来事―――

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