闇金短編

□好き嫌いについて
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「柄崎、ネギあげる〜」
「ちょ、名前!ネギくらい自分で食べろよな!」
今日の昼は社長と名前と3人で出前をとった。
社長とオレはカツ丼とソバ、名前はうどん。
名前はネギが嫌いだからいつもネギ抜きで頼んでいる。
だか、今日は言い忘れたらしく珍しくネギが入っていた。
「社長ォ!名前の好き嫌いには何も言わないンすか?!」
好き嫌いにうるさい社長も、名前には甘く、あまり注意しない。
「たまになんだからいいじゃ〜ん。それにこの前柄崎の残したお酒飲んだし!」
「…この前ってなンのこと?」
「一昨日くらい?に2人で飲み行ったんだ〜。その時の話〜」
「…へぇ。初耳だわ。」
結局ネギを食べる運命からは逃げられず、さらに社長に言わずに2人で飲みに行った事もばれてしまった。
「あれ、丑嶋くんに言ってなかったの?」
「おう。初めて聞いたわ。」
「あ、いや、その、言うの忘れてただけで、やましいこととか何もしてないっすから!」
初めて聞いたと言った時の社長の声がいつもの倍は冷たくて、慌てて弁明する。
「なに慌ててンの。つかやましいことってなに。」
「もー、柄崎がうちに手ぇ出す訳ないじゃ〜ん。柄崎は丑嶋くんラブだからね!」
ナイス助け舟!と思ったら、余計な一言もついてきた。
「そうっすよ!俺は社長の事尊敬してるっすから!」
「…あっそ。」
どうにかこの場を治める事に成功し、ホッと胸を撫で下ろす。
「ていうか、社長と名前って好き嫌い似てますよね」
「え、そうかな?」
「基本的に野菜も嫌いだろ?んで、甘いモンとか果物が好き」
「そう言われれば確かに…?」
「10年以上一緒にいンだから、好き嫌いも似るだろ。」
中学の頃からの付き合いだから、確かに10年以上になる。
そんなに長い間社長達と一緒に過ごしてきたと思うと、とても感慨深い。
「え、柄崎?なんで泣いてんの?」
「え、あれ、これは、ちが」
名前に指摘されて、初めて自分が泣いている事を知った。
「…大方、俺らと長い付き合いだってのに感慨を覚えたってとこだろ。」
流石社長、分かってる!
「なーんだ柄崎、可愛いとこあんじゃん!」
名前に頭をわしわしされ、社長がそれを優しい目で見ている。
ここで働けてよかったと、心から思った。

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