闇金短編

□相合傘
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仕事のキリがつき、時計を見ると12時を少し過ぎたぐらい。
「昼飯食いに行くか」
そうひとり言をこぼして事務所からでる。
扉を開けると、外はしとしとと雨が降っていた。
冬の雨は寒さが割り増しになるから特に嫌いだ。
そんな冬の雨に舌打ちをしながら、傘立てから傘を取る。
歩きながらどこで食べようかと考える。
すると、少し先にあるシャッターが下りた店の軒下に見覚えのある姿が見える。
「苗字か?」
「あ、滑川さん。こんにちは」
声をかけてみると、やっぱり苗字だった。
「おう。こンな所に1人でどうしたンだよ?傘も持ってねェし」
「お昼食べに行こうと思って外でたら、雨降ってきちゃって。丑嶋くん達は仕事のキリがつかなくて、まだ事務所に居ますよ」
「なるほどな。つか、事務所出る時に丑嶋に傘持ってけって言われなかったのか?」
苗字の事を(分かるやつが見れば分かるくらいに)溺愛しているのだから、雨に濡れるのを心配して持つように言うと思うのだが。
「言われたんですけど、忘れちゃって。事務所出る前までは覚えてたんですけどね」
苦笑いをしながら言う苗字に、丑嶋の苦労を考えてこっちにも苦笑いがうつる。
「お前、昔っから忘れっぽいよな。言い訳も昔から同じ」
「え、そんなことないよ!」
そう。昔とほとんど変わってない。俺の気持ちも、ずっと変わってない。
「そんなことあるンだよ。あとタメ口なってンぞ。俺にならいいけど、怖いヤクザも居るンだから気ィつけろよ」
「怖いヤクザって、滑川さんの事ですか?」
「お前なぁ、俺もそこそこ有名なヤクザなんだぞ?」
笑いながら冗談を言ってくる苗字の肩に腕をまわしていると、ぐぅと腹の虫の鳴き声が聞こえた。
「…お腹空きました」
「飯行くか。ほら」
せっかくのチャンス。ほらと言って傘に入るように促す。
「え、でも狭くなりますよ?」
なかなか入ろうとしない苗字の腕を引っ張って、半ば強引に傘に入れる。
「詰めれば平気だろ?」
納得してない顔をしているが、大人しく入っているのでいいだろう。
「昼、なに食いたい?」
「うどん食べたいです。寒いから」
「ほんとうどん好きだな。確かあっちの方に丸亀あったぞ」
「丸亀行きましょ!」
ぱぁっと笑顔になり、急かすように背中を押してくる。
相合傘もできて、飯も2人で食えて。今日はいい日だと思った。

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