長い物語

□第三廻 幼子と少年
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「少なくとも、理桜の魂はお前の所為で今も理不尽に苦しめられてる。理桜を奪われた俺もな」
「魂……君が僕を知っているのは、理桜の魂と関係があるのか?彼女は…」
「魂は一応無事だぜ。在り処は解らないけど確実にこの世に在るって事だけは判る」
「どうして断言出来る?」
「俺と理桜の魂は繋がってるからな。お陰で記憶はあいつと共有してたから俺の精神年齢は実年齢と比例してないし、お前の事も知ってるって訳」
「成る程。お互いに幼いのは見た目だけか。だから話し易いんだね」

にこにこと子供らしい笑顔を見せてはいるが、ハオには隙が全く見当たらない。
襤褸が出る前に話を切り上げたいが、何か行動を起こせば逃げられる、なんて雰囲気では無い。

「そっか…魂は無事………理桜の身体はどうなったんだろう?墓は無いよね?」
「それは麻倉 葉明しか知らない」
「おかしいな……葉明の記憶にも、それらしい情報は無かったんだけど」
「俺は本当に知らないぞ?知ってたら今頃はとっくに、墓を掘り返してでも取り返すなりなんなりしてる」
「それもそうか…」

出雲の何処か。
事実、自分の体の在る場所なのに、情報はそれしか解らない。
麻倉の屋敷の周辺は一度理桜が探したが、それらしい物は見付けられなかった。

「麻倉の家の辺りは前に一度探してみたけど…それっぽいのは無かったしな」
「……麻倉の本家迄探しに行ったのかい?」
「当然。冴凜と日帰りで、だけど」
「奴らに見付かれば君だって何をされるか判らないのに……危険も省みないその行動力は、流石に理桜の兄妹だね」
「誉め言葉として受け取っておく」

実際に動いたのは、その昔、当時の夫である葉王にすら【予測不可能な猪突猛進】と呼ばれた理桜本人なのだが。

「そう言えば、あの近くの地下で封印されてたお堂は見て来たぞ。お前が祀られてた」
「それは……えっとさ…封印されてる時点で近付いたらいけない事くらい解るよね?って言うか、扉は封印されてたんだろ?それはどうした?」
「冴凜が開けた」

ハオの顔が、呆れてるのか困惑してるのか、微妙な感じに歪む。

「……それで?」
「【超・占事略決】ってのが安置されてるのは見た」
「……それも封印を解いて見たのかい?」
「いや。中身がどんな物なのかは理桜の記憶さえあれば見なくても解るって冴凜に言われたし、流石に鬼を起こすと問題だろって事で触ってない」
「それは良かった」

もしもあれの封印に迄手を出されていては、麻倉の連中にも気付かれてしまう上、流石のハオも黙ってはいられない。

「まぁ、扉の封印はし直して来たし、あの後も別に麻倉から何かしてきたりってのも無いから大丈夫なんじゃね?」
「軽いなぁ…」
「仕方無いだろ。考え過ぎると身動き取れなくなるんだもんよ」
「……本当に、理桜にそっくりだ」

呆れたような表情の中に、ほんの少しだけ嬉しそうな微笑みが混ざる。
それだけで、ハオの理桜への愛情は確認出来た。
だが逆に、だからこそ理桜が本当は生きている事をハオに知られる訳にはいかない。
ハオが理桜の為にと起こす行動は、恐らく理桜の望むものとは違うだろうから。

「お前が俺を仲間にしたいのは、あいつの面影を求めての事か?」
「ん?う〜ん……そうだね。それもあるかもしれないな」
「それも?他にも何か理由があるのかよ」
「貢犠者にさせるには惜しいからさ。君はこんな事で死なせて良い人間じゃない」
「あぁ……そういう事なら心配いらないよ。俺、神無の洞穴に入った後すぐ逃げるから」
「……は?」
「「は?」って何だよ。当たり前だろ?俺だってこんな下らない事で死ぬ気は無い」

理穏のあっさりとした物言いに、ハオは目を丸くして一時停止。
それを見て、理穏は不敵に笑った。

「気遣いは無用だよ、未来王。自分の事は自分でどうにかする」
「気遣い…だけでは無いんだけどな。君みたいな奴だからこそ、仲間に欲しい」
「仲間ねぇ………っと、これ以上はダメだ。誰か来た」

理穏は洞窟内に別の誰かの気配を感じて溜め息を吐いた。

「此処、関係者以外立入り禁止だからお前が見付かると色々面倒なんだ。取り敢えず俺もそろそろ帰らせてもらうから、お前も見付からないように帰れ」
「面倒事は確かに避けたいね…今日の所は引き下がろうかな」

そう言い残して、ハオは忽然と姿を消した。



 
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