長い物語

□第二廻 今の日常
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『……ハァ…ハッ、っ!』
《主、大丈夫か?》

ハオが居なくなった瞬間、蹲ったまま荒く呼吸を繰り返す理桜に、殺気と神気を収めた冴凜は慌てて駆け寄る。

『……聞いて、ない…』
《ある、じ……?》

理桜は冴凜の袖を掴み顔を上げると、痛みで涙の滲んだ眼で彼女を睨んだ。

『……っ理穏がハオと会ってたなんて、私聞いてないっ!何でそんな大事な事……っ!』
《主っ!》

怒鳴る声は途切れ、理桜は唐突に倒れた。
地に触れる前に主の体を支えた冴凜は、理桜の体から感じる巫力と生命力の、その低下が予想以上に酷い事に気付き唇を噛み締めた。

《…どうしてそう迄してあの男を想うのだ……主》

最早意識の無い理桜は、当然何も応えない。
しかし冴凜は問わずには居れなかった。

何故、理桜はこんなに苦しみながら、それでも葉王を愛するのか。

何故、理桜がこんなにも、辛く哀しい宿命を背負わねばならないのか。

何故、神である筈の自分が、理桜の為には何も出来ないのか……

《……何故…何故、こんなにも……》

──我は、役立たずなままなのだ……

最後の主と定めた女性。
彼女の──理桜の為ならば命すらも惜しくは無いと、本心からそう思えた唯一人の存在(ひと)
だが、彼女は冴凜を道具としてでも従者としてでも無く、友人として必要とした。

それは嘗ての【あの(ひと)】と……
最初の主の娘、麻ノ葉と同じように。

《……麻ノ葉様…我はもう、貴女の時のような事は嫌なのだ……このお方を、失いたくは無いのだ…っ》

その為に、理桜の愛する夫であり麻ノ葉の遺した大切な子供であるあの男を、この手に掛ける事になったとしても……──


 
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