長い物語

□第二廻 今の日常
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目が覚めたら、其処には見慣れた天井。

『……私の、部屋…?』

いまいち状況が理解出来ない。
ベッドに寝てはいるが、服はいつもパジャマ代わりにしているジャージでは無く、バイトに行った時に着ていた物のまま。
そして更に不可解なのは、起き上がる事も出来ない程に強い、長距離を全力疾走した後のような疲労感と体の痛み。

『……私、どうしたんだっけ…バイトの帰りに川原に寄って……』

それから……

《主は昨夜あの川原で、【未来王】と名乗る葉王──いや、【ハオ】と出逢ったのだ》
『冴凜…?』
《目覚めてくれて……良かった…》
『冴凜……』

泣きそうな顔をする冴凜を見上げ、少し戸惑う。
ロリっ娘冴凜の泣き顔は見慣れているが、千早を纏う大人な女性姿の冴凜はいつでも毅然としている印象がある。
同一人物なのだし、冴凜は冴凜なのだと判ってはいても、見た目がこうも違えば多少の違和感は拭えない。

『……心配掛けたね…ごめん』
《主は悪くないっ!我が素直に話していれば主様が川原に立ち寄る事も、ああしてハオと出会す事も無かった筈なのだ……本当に、申し訳無い…》

互いに謝り合って、何となく気不味い雰囲気になる。
しかしもう黙っている訳にはいかないと決意した冴凜は、涙を拭ってベッド横の床に跪くと理桜を真っ直ぐに見上げた。

《六年前のあの日、何があったのかを話す。聞いてもらえるだろうか?》

まだ少し、揺らいでいる冴凜の瞳。
寝転がったまま横目でそれを見返していた理桜は、やんわり微笑むと彼女に向かって手を伸ばした。

『……寧ろそれはこっちのセリフよ。六年前に何があったのか…あの時、貴女がどんな秘密を抱えてしまったのか……聞かせてくれる?』

冴凜は理桜の手を両手でそっと握り、しっかりと頷く。

『でも……その前にさ』
《何だ?》
『せめて座らせて。あと、何か飲み物が欲しいな』
《………っははっ!貴女という人は……変わらないなぁまったく…》

シリアスな空気なんて気にもしない。
いや…逆に、寝転がったままな方が行儀が悪い、とでも考えたのか……

《わかった。話は、主のご要望にお応えしてからにしよう》

表情を和ませた冴凜は、主の望みを叶える為に行動を開始した。




2018.01.12 
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