LONG DREAM
□第一話 † 出逢いの夜の満ちた月
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第一話
出逢いの夜の満ちた月
静かな夜だった。
深夜。皆が寝静まっている時間。
先程迄大勢の人間を集めたパーティーがこの屋敷で行われていた事がまるで嘘だったかのように、周囲は耳鳴りがする程の静寂に支配されている。
『……でも、誰か居る……?』
リオウはベッドを軋ませないように慎重に動き、掛布を退かして絨毯の床に足を下ろす。
『……何だろ…広間の方…?』
胸騒ぎと呼ぶには及ばない。
只、沢山の気配が近くに有るような気がして落ち着かない感覚が頭をどんどん覚醒させる。
『……なんか、あの時みたい…』
リオウの脳裏に浮かぶ記憶は、今より更に幼い日に見た【この世の悪夢】と呼ばれるであろう光景。
見慣れた部屋が鮮烈な赤に染まり、ついさっき迄笑い合っていた筈の家族が朱く染まり、それを見下ろす窓越しの満ちた月が紅く染まり……
そして其処に佇む、違和感が具現化したような黒い人影。
『……まさか、ね…来てくれる訳無いよね……』
そんな思い出を振り払い、リオウはベッドの下に置いていた靴を出して素足に履いた。
何も無い事を確認する為だと自分に言い聞かせ立ち上がり、音を立てないようにゆっくりと足を交わす。
部屋の扉を開くとひんやりとした外気が流れ込み、リオウの肌を撫でて微かにその表皮を粟立たせた。
腕を擦りながら暗い廊下に出て、広間へ向かって歩き出す。
『………………』
自分の足音と呼吸音、衣擦れの音がやたらと耳に付く。
それ以外の音が存在しない中、無意識に息を殺し足音を忍ばせて進む。
窓の外には此方を見下ろす満ちた月。
何も無い、と考える頭とは裏腹に鼓動は早鐘を打ち始める。