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□曇りときどき雨
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好きだ。

その気持ちを込めて名無しさんさんを見る。
想いが伝わる気配がなく諦め、視線を別のところに移す。

時計を見てみれば、帰る時間になっていた。 

「霊幻さん……俺」

「おー?あー、学校か。上がっていーぞ」

「あ、今日は無いんですけど……。母の誕生日で早く帰りたいんです」

そうだったのか、と新聞を読んでる顔をこちらに向ける。

「しっかり親孝行するんだぞ!」

椅子から立ち上がり、俺の肩に手を置き子供のように笑う姿に嬉しくなって

「はいっ!」

我ながらいい返事だと思っていると、ふふっと、笑う名無しさんさんの声が聞こえた。

「私も上がります」

「お前もか?」

モブくんが来るからいいでしょ、と冗談ぽく笑う。

楽しそうだ、と羨ましく感じる反面、胸がズキズキし始める。
二人のキラキラした光景に耐えられず、目を反らして床を見ていた。

付き合っているのかな?
ちらっとまた二人を見れば、楽しそうに笑っていて、俺だけ壁が隔てられているようだった。
きっと簡単に壊せるのだろうけど、俺にはそんな勇気はない。

「行きましょ。芹沢さん」

腕を組まれ、事務所の外にでる。

「あ、雨降ってる」

空を見てみれば、黒く不吉な予感を感じさせる雲が空を漂っている。
ぽつりぽつりと、アスファルトの上に雨が落ちていて、その部分だけ黒く濃くなっていた。

「傘、持ってきてないな……。ん?」

携帯の着信音が鳴っている。
名無しさんさんは携帯を取りだし、画面をタッチするとメールが来ているようだった。

名無しさんさんと俺には身長差があり、自然と携帯の画面が見えてしまう。
見てはいけない、と思いながらも傘を探すフリをして画面を見る。

昔から嫌な予感だけは当たる。
その画面には

『明日空いてるか?また飯食いにいこう。お前に話したいことがある。』

という文字が写し出されていた。

「名無しさんさん、傘あったんでどうぞ」

そう言い無理矢理押し付け、その場を後にした。

心がぽっかりと穴が空いたようだった。
俺は名無しさんさんを見ていた、けど名無しさんさんは霊幻さんを見ていた。
理解をするのは単純なようで、とても難しい。

頬に伝う雫が雨なのか涙なのかもう分からない状態だ。

母ちゃんの誕生日ちゃんと祝えるかな、そんな呑気なことを考える自分が恐ろしかった。
いや、名無しさんさんのことを考えるのが恐いだけなのかもしれない。

雨が名無しさんさんへの想い、名無しさんさんの笑顔、匂い、全部忘れさせてくれればいいのに。

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